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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第四章 希望の挑戦者
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その11 雑賀と総帥とその長衣(トーガ)と

 「おお、凄いな三羽か」

 「ええ、こちらからも見えました。中学生にしては中々ですね」

 くいと眼鏡を上げて秘書風の女性が答える。

 「うおぉぉ!」

 雑賀は赤く染まる右手を左手で押さえその脚を横薙ぎに放つ。

 「威力はまあまあだが、ワンパターンだな」

 先ほどと同じく一歩前に出ると、総帥はその膝を再び腹に叩き込む。

 今度は、胃は耐えられなかった。

 「うぇぇぇ」

 雑賀の膝は折れ、胃液が口から流れ落ちた。

 「じゃあな少年。病院にちゃんと行けよ」

 さっきの場面を繰り返すように総帥は振り向く。そして同じように長衣(トーガ)が引っ張られるのを感じた。

 「ま、まだだ、まだ俺は闘える」

 右手からの血と吐瀉物の泉に濡れながらも雑賀の眼光は総帥に向けられていた。

 「うーん、どう思う?」

 首だけを後ろに向けて、秘書風の女性に尋ねる。

 「私の見立てでは、その少年は学習能力が無く、馬鹿ですから。今追い払っても何度も何度も襲ってくるでしょうね」

 「そうか、そしてその度に我の長衣(トーガ)が汚れるのか」

 さて困ったな。そういうそぶりで総帥は少し考える。

 「少年、学校と名前は?」

 「セカンドミレニアム第二中学、二年B組、雑賀 魚一だ」

 宣戦布告するかのように雑賀は答えた。

 「わかった雑賀少年、譲歩しよう」

 「譲歩?」

 「そうだ、さっき言った通り特例を認める訳にはいかない。だが、君は諦めるつもりは無い。我としても何度も襲撃を受けると業務に支障が出て困る。君を反逆罪で逮捕拘留しても良いが、善意の行動によるものなのに、いたいけな少年を罪に服させるなんて非道だと市民に言われるのは避けたい。で、提案だ。日を改めてもう一度勝負しよう。日にちは……」

 「総帥の次のオフは明後日の祝日、金曜日の午前中です」

 総帥の意を汲んで秘書風の女性が答えた。

 「うん、明後日のみどりの日の朝九時に君の学校で再勝負だ。君だけじゃなく、そのお姉さんや仲間を集めたまえ。君達が勝てば特別褒賞を与えよう。これが我の出来る最大の譲歩だ。その代わり負けたら潔く諦めるんだ。いいね」

 「もし断れば、ルールに則り俺は逮捕されるってわけだ」

 有無を言わせない口調の裏を読み雑賀が呟く。

 「なんだ、思ったより馬鹿じゃないじゃないか」

 ちょっとおどけたように総帥は言った。

 「わかった。だが俺は負けない。きっと実力で勝利してみせる」

 「その意気だ。子供はちょっと生意気なくらいが良い、じゃあまたな」

 長衣(トーガ)に力を込め、雑賀の指を振りほどくと総帥と秘書風の女性は車に乗り込み去っていった。雑賀は初めて自らの無力さに涙した。

 辛酸を舐めるという言葉の意味を身を以って体験した気がした。

お読み頂きありがとうございます。

今回は少し短めです。反省。

え、前にも同じこと書いてたって?

知らないなぁ(目を逸らし)

総帥が天皇誕生日でもなく、昭和の日でもなく、みどりの日と言っていたのは活かされる予定のない伏線です。

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