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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第四章 希望の挑戦者
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その9 雑賀と総帥と挑戦と

 セカンドミレニアム総国、この国の地図を簡単に記すと、東の門、南の海、北の山、西の官公庁で構成される。

 その官公庁エリアの中でも最も高くそして細長い建物に総帥の執務室は存在する。

 雑賀がその入り口に立った時、既に業務の火は落ちる直前であり、人はまばらであった。

 「すみません、総帥に会いたいのですが」

 雑賀は総合受付と書かれた窓口の女性に声を掛けた。

 「アポイントメントはございますか?」

 受付嬢は事務的に応えた。

 「アポは無い。でも会いたいんだ。今、会わなくちゃいけなないんだ」

 「そう言われましても、アポがない方のご面会はお断りしております。本日はこれから外出の予定ですし、スケジュールの空きは二ヶ月後です。御用があるのでしたらそちらの申請書にご記入を……ってあれ?」

 雑賀の姿はそこには無かった。

 受付嬢の言葉の途中『これから外出』の部分で雑賀は外に走り出していた。雑賀の頭に総庁入り口の脇にあった地下駐車場出口がよぎったからである。

 地下の空気は冷たく、無機質なコンクリートと火の消えた車がその姿を横たえていた。

 雑賀はその中で最も高そうな車の影に隠れていた。車の種類は知らなかったが大きく、硬く、黒い車が総帥の公用車だと思い込んだ。

 視線をエレベータに合わせ息を潜める。既に外出してしまったのではという考えが浮かぶが、それは杞憂に終わった。

 チーンという音がしてエレベータの扉が開く。そこから出てきたのは時代錯誤なローブを身にまとい、白い長髪を携えた男とビジネススーツに身を固めた、いかにも秘書風な女性。

 以前、テレビで見た総帥とその秘書の姿だ。

 雑賀は拳の中の小石を見つめ、それを山なりに投げた。

 石は放物線を描き、二人の後ろで音を立てる。その音に二人は後ろを振り返った。

 その瞬間、雑賀は総帥に一撃を与えるべく四肢に力を込め、車の陰から飛び掛った。

 一足跳びで間合いを詰め、こちらを振り返ろうとする白髪の男に拳を叩き込む。

 ガキン

 雑賀の耳に聞こえたのは肉がぶつかる音ではなく、硬い何かを打つ音だった。

 「くっ」

 拳に伝わる反作用の痛みに顔をしかめ、雑賀は男の前に着地する。

 「なんだ、子供か」

 振り向いた男は雑賀の姿を見て言い放つ。

 「さっきの石の音も彼の仕業でしょう。珍しいですね能力(ちから)に頼らないアプローチは」

 くい、と眼鏡を上げ秘書風の女性が言う。

 「あーよく気付いたね。我はそんな事には気付かなかったよ」

 「総帥は少し注意力散漫で無頓着過ぎます。能力者同士の戦いでは相手の分析は何よりも重要視すべきです。まあ、総帥には関係ない話ですが」

 「そうそう。我はそんな事を気にしなくても良いのさ。ところで、この子はどうしよう? 警備の人に引き渡すべきかな?」

 「ほおっておきましょう。軽い気持ちで来たのでしょうから。坊や、暗くならない内に家に帰りなさい」

 秘書は優しい笑みを浮かべそう促したが、雑賀はそれには応えなかった。

 「ごめんなさい、突然襲い掛かったりしてしまって。そしてありがとう、俺の無礼を優しくたしなめてくれて。でも、ここで帰る訳にはいかない。俺には戦う理由がある。総帥、俺はあなたを殴り、そして特別褒賞を手に入れる。だから!」

 雑賀は地面を蹴り、その拳を総帥に向けて突き出す。だが、その拳は再び見えない壁に阻まれる。

 「光の壁? いや光の羽?」

 さっきは一瞬で見えなかったが、雑賀の目には二つの羽が見えた。そしてそれが壁を生成し拳を止めていた。

 「くそっ」

 阻む壁を破壊すべく雑賀は何度も両の拳を振り上げ、打ち付ける。だが、その拳は壁に全て阻まれ、ガキンガキンと鈍い音を立てるだけだった。

 「うーん、ちょっとうざったいか、な!」

 一歩、総帥は歩みを進め、雑賀の懐に入るとその膝を腹に叩き込んだ。

 息が詰まり呼吸が止まる。熊に吹き飛ばされた時よりも、天野に念動力(テレキネシス)で殴られた時よりも強い衝撃が雑賀を襲った。

 雑賀はガクリと膝を着き、地面に倒れこんだ。

 気絶する時は自分が気絶するという意識すら無くなるって聞いたなけど、その通りかもな、そんな事を雑賀は思い出していた。

 世界が色を失い、放送が終了した時間帯のテレビのような砂嵐が見え、雑賀は意識を失おうとしていた。

お読み頂きありがとうございます。

今まで話の中でちらほら出ていた総帥が登場します。

ちなみに光の羽は総帥の趣味という設定です。

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