その1 能力測定
「さて今日は能力測定の日だ。みんな訓練棟に移動するぞ」
教室の隅で繰り広げられている喧騒をよそに鳳仙先生はホームルームを続ける。
能力測定、それはこの超能力者の国に所属する者が受けるテストである。
人類史のある時点から急に出現した超能力者、その存在を認識した人類が初めに行った事は、超能力者を軍事利用する事でも、敵とみなして排除する事でもなかった。
最初に行ったのは超能力を測定する事。それも一定の基準を設け、定量的に測る事だ。
それはその後も脈々と続き、能力測定と呼ばれている。
鳳仙先生に促され生徒は廊下に列を作り、訓練棟に移動を開始する。
訓練棟は教室のある本舎に隣接した直方体の建物である。遠目には体育館にも見えるが、そのサイズは通常の体育館の三倍はあり、壁も厚い。その重量を支える基礎は深く、そして強く設計されていた。
移動中に雑賀は海下と朝顔に声を掛ける。
「なあなあ、能力測定って何をするんだ」
「雑賀君、知らないの?」
「なんや雑賀しらんのか?」
「ああ、だから教えてくれ。いや下さい」
「能力測定は超能力のテストだよ。カードを使ったりダンベルを使ったりして超能力のレベルを測るの。あたしは成績悪いから憂鬱だよ」
「そうなのか、俺も成績悪そうだな」
「転校生なのに?」
「そうだよ。ここは超能力者の本場だろ。俺の能力なんて通じるのかな」
「ふーん、そうなんだ」
そして皆が訓練棟入口に移動した。
「よーしそれでは能力測定を始めるぞ。配られた用紙に六項目のテストルームが描いてあるから、好きな順にテストを受けるんだぞ」
そう言って鳳仙先生は測定用紙を配る。
「雑賀君はまだ不慣れでしょ。一緒に回ったげる」
「ありがとう、右も左もわからないんだ。一緒に行ってくれると助かるよ」
特にクラス全員が一丸となって移動する決まりはないのだろう。クラスの面々も気の合う者同士でグループを作り訓練棟内に入って行く。
「測定が終了した者は訓練棟横の校庭に集合な」
鳳仙先生の声を背に受け、雑賀達は訓練棟に入っていった。
二人はまず『精神感応』と立て札があるエリアに到着する。
「ねえ朝顔さん。精神感応って何?」
「え? そこから?」
雑賀の質問を前に朝顔は少し驚いたそぶりを見せた。
「ああ、実は俺は超能力について何も知らないんだ」
「はっ外地の奴は無知で困る。せいぜいクラスの平均点を下げないでくれよ」
雑賀の耳に嫌味な声が聞こえた。
雑賀が声の主を見ると、長身痩躯の生徒が立っていた。
美形だが少しキツメだな、雑賀はそう思ったが、その言葉を飲み込んだ。
「もう転校生に意地悪言わないでよ竜ちゃん」
朝顔が頬を膨らませ抗議した。
「ふん」
竜と呼ばれた生徒は雑賀に一瞥するとテストを受ける列に並んで行った。
「ごめんね、雑賀君。竜ちゃんは本当は優しいんだけど、ちょっと言い方がキツイの」
「いいよ気にしてないから」
本当は気にしていたが、雑賀はその心を隠して言った。
「嘘はだめだよ雑賀君、外地、ああ外地ってのはこの国の外の国のことね、外地と違ってここだと思ってる事はすぐばれちゃうから」
朝顔は悪戯っぽく笑って見せた。
「げ、そんなに顔に出てたか!?」
「ちがうよー、ホントっに何も知らないのね」
朝顔はホントの部分を強調して言った。
「すまん」
「いいよ、じゃあ並びながら教えてあげるね。へへっあたし超能力概論の成績は良いんだ」
「まず最初の質問からね。精神感応はテレパシーって言ってね、自分の心を言葉や電話みたいな機械を使わずに伝えたり、相手の考えている事を読んだり、ちょっとひどいけど相手の精神を自分の思い通りに動く操り人形にしちゃったりする力の事だよ」
「ああ『なんて怒りに満ちた気だ』とかを感じる能力の事か」
「違うよそれは『超感覚』だよ」
「えっ違うの?」
「そこがテストで間違えやすい所だよ。精神感応は心と心を繋いで、内側から言葉を伝えたり精神を操作したりする事だよ。相手の感情を外側で感じるのは五感を超えた感覚だから超感覚だよ」
「ややこしいな、あ、でも肌で感じるって言うから超感覚なのかな」
「うん、そこらへんは学会でも意見が分かれているけど教科書に載っている分類だとそうなんだ」
「じゃあ、さっき俺の『いいよ気にしていないから』の言葉の裏の心が読まれていたって事か?」
「ブブー残念。さっきのは雑賀君の言葉から嘘成分を感じただけだよ。これは『超感覚』ね。相手の心を勝手に読む事はマナー違反だから気を付けてね」
「そうか、まあ俺には精神感応の能力なんか無いから、うっかり人の心を読んでしまうような事を気にしなくていいな」
ここから第一章になります。少々説明的になるかもしれません。