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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第四章 希望の挑戦者
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その4 雑賀とデイジーと気づかいと

 「これは良い臭いだ。今日は庭でピクニックかね」

 不意に輪の外から声が掛かる。

 「お父様!」

 「旦那様、何かあったのでございますか」

 声の主は壮年の男性。ブランド名は分からないが高そうな服、それもギラギラした派手さではなく、素材の色合いや質感を生かした上品な感じだ。

 デイジーやパーカーの言う通り、この屋敷の主なのだろう。

 「今日から出張の予定だったのではありませんの?」

 「いや、その予定だったんだけど飛行機が遅れてしまっていてね、結局夜の飛行機で出発する事になったよ。だからそれまで家でゆっくりしようと思ってさ」

 デイジーの問いにこの屋敷の主人は答えた。

 「こんにちは、デイジーさんのお父さん。お邪魔しています」

 頭を下げて雑賀は挨拶をした。

 「ああ、娘と仲良くしてくれている雑賀君だね。これからも娘とよろしく」

 デイジーの父は雑賀に手を伸ばし、雑賀もそれに応え二人は軽く手を握り合う。

 「ところで、この臭いはあのオムレツかね」

 鼻をひくひくさせてデイジーの父は言う。

 「ええ、そうですの。わたくしと魚一君で作りましたのよ」

 そう言いながらデイジーはオムレツを切り分け、父へ差し出す。

 黄金色の塊が口に運ばれる。

 「これはおいしい。デイジーには料理の才能があったのか。これは新発見だ」

 オムレツを食べながら、デイジーの父はその娘の頭を撫でた。

 「えへへ、わたくしは何でもできるようになりますのよ」

 その表情は雑賀といる時とも、美味しい菓子を食べた時とも違う喜びを表していた。

 「なあパーカーさん、デイジーのお父さんって学者兼発明家であまり家にいないんだろ」

 小声で雑賀がパーカーに語り掛けた。

 「左様でございます。旦那様が屋敷に戻られるのは特定の記念日を除けば、月に一、二回でございます」

 「そうか」

 パーカーの答えに雑賀は軽く頷き、デイジーへ向き直る。

 「ごめんデイジー、俺、急用を思い出したから帰るわ。荷物は今度取りにくるから、預かっといてね」

 雑賀はすまなそうな顔をして言う。

 「え、今日はずっと一緒の予定ではなかったのですの」

 急な雑賀の申し出にデイジーは困惑する。

 「ごめんごめん。この埋め合わせは今度必ずするから。じゃあ、またな」

 「え、ええ、またですわ」

 手を上げて挨拶すると、雑賀は勢いよく走り去った。

 「気を使われちゃったかな」

 デイジーの父は頭をぽりぽり掻きながら呟く。

 「ええ、雑賀様が嘘を付く所を初めて見ました」

 パーカーもそれに続く。

 「まさかお父様、嘘を付いたからって魚一君の事を友達不適格って言うのではありませんですわよね」

 嘘という単語にデイジーが過敏に反応する。

 「そんな事、言わないさ。父さんだってついて良い嘘と悪い嘘の区別くらい付く」

 デイジーの父はそう言って娘の懸念を払った。

 「ええ、何よりも不思議なのは、雑賀様はあの嘘がばれないと思っている事ですな」

 心を読んだのだろう、パーカーが雑賀の心を内を暴露する。

 「ええっ! 本当かい!?」

 高レベルの精神感応能力者が居る場では、精神感応を持つ者は自らの精神をブロックし心情を読まれないようにする。

 精神感応の無い者、あってもレベルの低い者は嘘を付かないか、もしくはばれる事を前提に嘘を言うかどちらかである。

 少なくともこの国では一般的な事だ。

 この場合、雑賀の嘘はパーカーに見破られるが、その根底にあるのが気遣いなのでパーカーはそれを見逃すというのがよく出来たシナリオだ。

 だからデイジーの父の驚きは当然とも言えよう。

 「彼はとてもピュアな人ですのよ」

 ちょっと自慢げにデイジーが言った。

 「ピュアというか、大丈夫なのか。特に知力というかオツムというか」

 デイジーの父は小声でパーカーに耳打ちした。

 「だ、大丈夫だとは思われます。少なくとも馬鹿、ではあるかもしれませんが、知能指数が明らかに劣っているようには感じません。むしろ閃きや一般教養、論理的思考は高い方です。ですが、自分が気にしないと決めた事からには、とんと無頓着なきらいがあるようです。現に何度か遊びに来られた時も、私に心を読む能力(ちから)がある事を失念しておられる事が度々ございました」

 パーカーがフォローにならないようなフォローを入れる。

 「聞こえてましてよパーカー」

 その声を聞きつけ、デイジーがちょっと怖い顔をして睨む。

 「こ、これは申し訳ありません。ですが雑賀様を悪く言っている訳ではございません。むしろ少し旦那様に似ておられる所もあり、好感をもてるという事で……」

 胸の前で両手を振りながらパーカーは釈明する。

 「んーそんなに僕に似ているかな? 僕ってそんなに興味対象以外には無頓着?」

 似ていると言われたデイジーの父が疑問の声を上げる。

 「このようなお言葉を口にするのは心苦しいですが、そのような一面も旦那様は持ち合わせておられます」

 「ええ、お母様もそう言ってましたわ」

 歯に衣を着せない二人の返事が返ってきた。

お読み頂きありがとうございます。

個人的には好きなキャラクターなのですが、デイジー父の再登場は今のところ予定がありません。

皆さまの温かい感想や意見があれば再登場するかもです。

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