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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第三章 汚泥の帰宅者
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その11 勝負服の曇天

 「これは……」

 髪を伝い、地面に大きく跳ねる水滴を感じながらデイジーは呟く。

 「そうさデイジー。お前の『赤い双星』はあらゆる行為判定を大失敗(ファンブル)させる能力。サイコロのピンゾロになぞらえているネーミングだったな」

 雨足はさらに強くなり、ほんの数メートルしか離れていない二人の姿すら霞ませて来た。

 「ええ、そうですわ」

 「だから私は探したのさ、お前にも通じる物を。ちょっと考えれば簡単な物だったさ。あらゆる行為判定に当たらない物、絶対失敗しない物。例えば、太陽が東の空から昇る事を失敗するか? 波が浜に寄せる事を失敗するか? 地球の大気で水が蒸発し雲となり再び雨となる循環を失敗するか? 答えは否だ。つまり、純粋な自然現象ならば大失敗(ファンブル)しない!」

 天に指を向けて天野はそう言った。

 「そうですわね。これが誰かの能力で天候を操っているのだったら大失敗(ファンブル)させられたかもしれませんわ。でも、違うのでしょう」

 そう言ってデイジーは視線を第三者に移す。

 視線の先にはニンマリと笑っている朝顔の姿があった。

 「そうだ、お前は知らないかもしれないが、その朝顔の能力は『予知』。それも天気限定だが、ここ数日の天候ならば天気予報を遥かに上回る精度で当てる事が出来る」

 そう、昨日のカフェで、デイジーが朝顔に聞いた天気の詳細とは、この集中豪雨の起こる場所と時間の事であった。

 「で、雨に濡れたくらいでわたくしを倒せるとでも思っていますの」

 デイジーは多少の雨を何するものぞと胸を張り天野に視線を戻す。

 だが、審判を務めているパーカーの耳はその言葉に僅かな震えがあるのを聞き逃さなかった。

 恐怖しているのではない、単純に寒いのだ。

 秋の雨は冷たい、ましてやデイジーの恰好は空気を含んで膨らむワンピースである。それが今や水を含み肌に張り付いている。

 そして、この時点で最悪の事態が起こった。

 雨が弱くなり風が出て来たのだ。

 強い風ではない、ちょっとした涼風である。だがそれは気化熱で水に濡れたワンピースを益々冷たくする。

 対して天野の姿は半袖の体操服とブルマである。

 デイジーの服と同じく濡れてはいるが、含む水の量や通気性の関係で体から奪っていく温度は少ない。その上、天野は一連の攻撃で体が温まっている。その差は歴然であった。

 「まさか、これは布石さ。これからが本番だ」

 天野はそう言って再び突進する。

 「大失敗(ファンブル)

 しかし、これまでと同様に天野の体当たりはデイジーの脇をすり抜ける。

 「まだだ!」

 脚を踏ん張り、茶色の水飛沫を上げながら急ブレーキを掛けると、天野は切り返しを掛け、再びデイジーに迫る。

 「懲りない人ですわね」

 天野の気迫を歯牙にも掛けず、デイジーは身を躱しつつ、その足を天野のそれに掛ける。

 体当たりの失敗、転倒回避の失敗、受け身の失敗、その結果がもたらすものは明白であった。

 ズバッシャー!

 天野は雨でぬかるんだ大地に勢いよく倒れ込んだ。

 「ほら、言わんこっちゃない」

 隣に倒れる天野を後目に、デイジーは天野を見下ろす。

 半身を起こした天野の顔は泥まみれで、白い体操服も茶色に染まっていた。

 「そうでもないさ、少なくとも貴様に泥を付ける事は出来た。綺麗なおべべだったが、台無しだな」

 天野の指差す先は茶色い染み、転倒の時の飛沫で出来た物だ。

 その染みを見たデイジーの顔が、寒さで白みを帯びていた顔が、一瞬で真っ赤に染まる。

 「このっ! よくも! お父様から頂いたプレゼントに!」

 つま先が腹に、胸に、顔に叩き込まれる。

 「はははっ! 怒ったぞ! デイジーが怒ったぞ!」

 顔を蹴られながらも天野は笑いながら叫ぶ。

 「そうだよな! 無敗で優秀なお嬢様が、外進組の庶民に泥を付けられたのだからな!」

 「黙りなさい、この! この!」

 怒気に満ちた声を上げ、何度も何度も蹴りを叩き込む。

 天野はその蹴りをガードしようとしているが、デイジーの蹴りはその隙間を縫って天野の体に当たる。未だに『赤い双星』が発動しているのだ。

 「よくも! わたくしとお父様の絆に!」

 脚を後ろに振り上げ、渾身のトゥーキックを放った瞬間にそれは起こった。

 「このっ! えっ、えっ、きゃあ」

 デイジーの軸足が蹴りの反動と泥で滑り、バランスを崩したその体が弓なりに反る。その手が何度か空をかき、そして盛大な尻餅をついた。

 デイジーの顔が一瞬キョトンとして、体の動きが止まる。自らに起こった自体が分からないようだ。

 「はははっ! お前の疑問に答えてやろうか、これはお前の能力の暴走でも、私の隠された能力でもない、純粋に自然な大失敗(ファンブル)さ。ありていに言えば、単にお前がどんくさかっただけさ」

 そう、デイジーの能力『赤い双星』は対象を大失敗(ファンブル)させる能力だ。だがそれは、自らに降りかかる大失敗(ファンブル)を防いでくれるものではない。

 この事態を招いたのは、能力ではなく、ぬかるんだ地面と激高したデイジーの精神の産物だ。

 「これでお父様とやらに言い訳が立たなくなったな。もう、飛沫レベルじゃなくなったからな」

 その言葉通り、デイジーの服は泥でべったり汚れ、もはや取返しのつかないレベルで汚れていた。

 「うわぁー!」

 さっきより一層顔を赤くさせたデイジーは天野に覆いかぶさり、その拳を天野に叩き付ける。

 「許しませんわ! もう許しませんわ!」

 目の端に僅かな涙を浮かべ、デイジーは殴り続けた。

 だが、そんな精神状態が招く事象は同じである。

 どちゃ。

 再び泥に体を取られ、今度は肩口から大地に倒れる。

 「はははっ、今度はこっちの番だ!」

 倒れたまま天野はデイジーに襲い掛かる。

 「あー、もう無茶苦茶だよ」

 傍で見ていた朝顔の言葉通り、二人は押し合い、髪を引っ張り、ダイアモンドを転げまわる。泥にまみれた二人の姿は、もはや決闘や試合の装丁を成しておらず、単なる子供のケンカレベルに落ちていた。

お読み頂きありがとうございます。

今回の話はTRPGをやっている方には分かって頂けるかもしれません。

TRPGではサイコロの出目によって絶対成功や絶対失敗があるのですが、元々成功の可能性が無い行為判定(例:地球を拳で割る)は試したとしても成功しません。

デイジーの能力「赤い双星」は相手を絶対失敗させる能力ですが、それも同様に失敗しようもない行為判定は失敗させられないという、ある意味メタ的なお話しです。

後、ブルマは作者の趣味ではなく伏線だったでしょ、でしょ?(目を逸らし)

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