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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第三章 汚泥の帰宅者
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その10 戦乙女の勝負

 「セイッ!」

 鋭いダッシュで間合いを詰めると、天野の拳がデイジーの顔面に襲い掛かる。

 「大失敗(ファンブル)

 デイジーは呟き、天野の拳は空を切る。

 「シッ!」

 気合いの声と共に天野の拳が変化し、獣の爪を思わせる形に変化するとその軌道が右に動くと、くるりと渦を巻いたデイジーの髪を掴みに行く。

 だがそれが掴むものも虚空だ。

 「ダッ!」

 天野は腕を畳み、その反動で体を右に傾かせ、その肩口をデイジーに叩き付けようとする。

 だがそれもデイジーの能力の前には通用しない。

 デイジーは天野の肩をするりと躱すと、ほんのちょっと足を伸ばした。

 それだけで十分だった。

 デイジーの足に躓いた天野はバランスを崩し、その肩から盛大に転ぶ。

 「くっ」

 天野は即座に立ち上がろうとするが、足がもつれ再び平坦ともいえるその胸を大地にぶつける。胸の名札の部分に土が付いた。

 デイジーの能力『赤い双星』が受け身も機敏な立ち上がりも大失敗(ファンブル)させているのだ。

 天野は思い出す、デイジーと百合子の試合を。

 ゆっくり立ち上がれば、失敗する可能性を極めて小さくすれば、『赤い双星』の能力の影響下でも行動する事が出来る。

 だがそれではダメなのだ、それではデイジーを倒す事など到底できない。

 分かっている、通じない事はわかっているはずだ。  だがそれでも天野は再びデイジーに突進して行く。そして躱され、足を掛けられ転ぶ。

 それが五度ほど繰り返されただろうか、デイジーはふぅと溜息を付くと今度は足を掛けず、右の掌を振り上げると天野の頬をビンタを叩き込む。

 (かわ)す事は出来ない、防御する事も出来ない。その行為判定を大失敗(ファンブル)させるのがデイジーの能力。

 これまでのクラスマッチで何度も経験したデイジーの必勝パターンだ。

 パンと乾いた音が響き天野の頬に痛みが走る。

 続けてもう一度デイジーの掌が振り上げられ再び天野の顔に襲い掛かる。

 それに対し、天野は防御はせず、右の脚で強烈なハイキックを放つ。yの字ではない、Iの字にも見える非常に柔軟な肢体を持つ天野だからこそ出来る動き。

 「ハッ!」

 カウンターならば、通常なら蹴りが出せない間合いならば、視野外での動きならば、精神と肉体の死角を突けば、可能性があるかもしれない。

 これが今の天野に出来る最高の動き、最大に修練を積んだ攻撃、事実傍観していたクラスメイトの中には思わず「綺麗……」と呟く者も居た。

 同時に「おい、今のシーンをもう一度スローで!」と言った男子生徒が隣の女生徒から殴られるハプニングもあった。

 だがそれも通じない。

 少し鈍い音が天野の頬から発せられ、振り上げられた脚は空を切り、脚の慣性に体を引っ張られた天野はバランスを崩し再び倒れ込む。

 「天野さん、それは三年前にも試して失敗致しましたよね。当時より修練は積んだように見えますが、わたくしには無駄ですわよ。聡明なあなたにはそれを理解していると思いましたけど」

 そう言ってデイジーは天野を見下ろす。

 気合いの声を出した時にビンタを喰らい、口内を切ったのだろう、天野の口の端から赤い線が垂れる。

 「わかっているさ、わかっていたさ」

 「でしたらどうして」

 デイジーが問いかける。

 「答えは簡単さ。全力で攻撃しないと出来ないからな」

 「出来ないって、何がでございますの」

 「簡単な事さ。天を味方に付ける事。ありていに言えば『時間稼ぎ』だ」

 そう言って天野は見上げる。

 デイジーをではない、文字通り天を。

 冷たい水が天野の頬を流れる。涙ではない、その水は頬を打ち地面に流れ落ちる。

 皆が空を見た。

 空からは大粒の雨が降り注ぎ始めた。

お読み頂きありがとうございます。

戦闘描写は難しいです。精進せねば……

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