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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第三章 汚泥の帰宅者
31/63

その9 喧騒の戦乙女

  「パーカー、時刻は」

 主の声にパーカーが自らの腕時計に目をやる。

 「十四時五十五分でございます」

 指定の場所に天野の姿は見えない。

 「怖気づいたのかしら」

 指を顎に当て、デイジーは空を見上げ たまにあることですわとデイジーは思う。

 「失礼ながらお嬢様、彼女はそのような方とは思えません」

 「へえ、パーカーがそう言うなんて珍しいですわね。いつもだったら『そのようでございます』と言いますのに」

 「このパーカー、人を見る目は備えているつもりでございます」

 パーカーが一礼をする。その眼球が一瞬上に動き、その口が開いた。

 「そして、このパーカーの目は曇っておりませんでした」

 パーカーの視線の先に二人の人物の姿が映る。

 「待たせたな」

 堤防の丘陵から姿を現したのはデイジーと朝顔、決闘の申し込み者だ。

 「時間通りでございます」

 パーカーが一礼する。その腕の針は十五時を示していた。

 天野が土手を降り朝顔がそれに続く。

 「それではルールを確認します」

 見つめあう二人の中央に立ちパーカーが審判としての役割を果たす。

 「基本はU12公式戦ルール、範囲はこの野球場のダイアモンドの中、開始位置はマウンド、場外は二十カウントで敗北、ただし三回目以降の場外は十カウントになりますのでご注意を」

 パーカーが説明する内容は少年少女の部での戦闘ルールだ。

 時間制限は一時間で相手の本人のギブアップか立会人の敗北宣言で決着する。

 武器の持ち込みは禁じられているが物質召現(アポート)で取り寄せる事は可能だ。

 最悪の事態を避けるために相手を殺してしまうと失格となるというルールがある。

 立会人が止めてなければ、その最悪の結末となっただろうというケースもある危険なルールだ。

 「よろしくって天野さん。わたくしは慣れていますが、あなたは経験が少ないのではなくって」

 公式戦に出場するにはクラス対抗戦を勝ち抜き、学校代表にならないと出場出来ない。天野の実力ならば小学校時代に学校代表になってもおかしくはなかった。だが、今まで天野は学校代表になった事が無い。

 理由は簡単だ。

 デイジーが居たからである。

 デイジーがU12に出場したのは六歳の時だ。そして初出場で優勝を果たしている。以降六回連続優勝、最後の今年も優勝が確実視されている。

 天野がデイジーと初めて闘ったのは八歳の時、結果は誰もが予想した通り敗北、得に特筆するべき所もない、いつも通りの試合運びでデイジーが勝利した。

 あらゆる行為判定を大失敗(ファンブル)させるデイジーの能力『赤い双星』その前では天野の超能力の発動は出来ず、能力に頼らない攻撃も意味を成さないのだ。

 だが、デイジーは天野の事を内心評価していた。

 彼女が初めて敗北を喫した翌日、普段通りに学校に登校したのだ。デイジーと対戦した相手は敗北のショックで数日はふさぎこむ。酷い場合は心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する場合もある。

 だが天野は初めて敗北した後も毎年のクラス対抗戦でデイジーに挑み、そして敗北を重ねて行った。

 クラス対抗戦に出るメンバーはあまり変化が無い。事実、デイジーの対戦相手は顔見知りばかりだ。だが、実際にデイジーと三回以上闘った相手は天野だけである。

 他の対戦相手は棄権してしまうのだ。

 デイジーは少なくとも天野の向上心と不撓不屈の精神はは評価していた。

 「おや、言われた通り可愛らしい服で来たのか、律儀だな」

 天野がデイジーの姿を見て言う。

 デイジーが着ている服は萌黄色のフリルの付いたワンピース、太陽の光を受け明るい若草色に輝いている。金色の髪に映え可愛らしくも美しい。

 高い糸を使っているなと天野は思った。

 「ありがとうございますですわ。お父様がプレゼントしてくれましたの。それに対して、天野さんの姿は……その、何と言いましょうか、古典的というか、マニアックというか」

 デイジーは知識の上では知っていた。確かそれは、ブルマという前世紀の遺物という物のはずだ。少女がスポーツをする時に着用する服だっただろうか。

 「ああ、実用重視だ。これから砂と泥にまみれるからな」

 ブルマとそれとセットになった胸に大きく『天野』とマジックで記入されたシャツを纏い、軽いジャンプをして体をほぐす動きをしながら天野は言う。

 「あなたの分をわきまえた所、わたくしは好きですわよ。少なくともクラスマッチの時の意地っ張りさんよりかはね」

 先日のクラスマッチを思い出しながらデイジーが言った。


 「なんですの! なんですの! 嫌味な女!」

 天野とデイジーが対峙している所から遥か遠く、旧校舎の時計塔で二人の会話を聞いていた百合子が憤慨する。

 「どうどう、百合子ちゃん、どうどう」

 「意地っ張りな所も可愛いから良いじゃないか」

 一緒にいるクラスメイトがそんな百合子をなだめる。

 「それより委員長大丈夫かな。武器らしい武器も持っていないけど」

 「じゃあ暗器でも持ってるのかな」

 「でも暗器の不意打ち(アンブッシュ)大失敗(ファンブル)にされてしまうわ」

 デイジーの能力『赤い双星』の効果はここに居る全員が知っている。

 能力戦では相手の能力を知る事が勝敗を分けると言われている。

 相手の能力を明らかにし、十分な作戦を練れば強大な相手でも攻略出来ると学校では教えている。

 だがそんなお題目を凌駕する能力も存在するのだ。

 『分かってもどうしようもない』

 あらゆる行為判定を大失敗(ファンブル)させるデイジーの能力はその言葉を体現しているのだ。

 そして、それが大人たちの中で珠玉の宝玉と評される理由でもある。

 「仕掛けたぞ! 委員長だ!」

 その声に皆の視線がモニターに集まる。

 そこには開始の合図と共にデイジーに殴りかかる天野の姿が映しだされていた。

お読み頂きありがとうございます。

ブルマ……いいですよね。

もちろん作者の趣味ではなく、ちゃんと理由があってリンはブルマを履いているのですよ。(目を逸らし)

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