その6 乙女の元気予報
「はあぁー」
天野は溜息を付いてB定食へと視線を落とす。
「竜ちゃん。そんなに落ち込まないでよ」
クラスマッチ終了後の昼下がり、食堂で天野と朝顔が少し遅めの昼食を取っていた。
「落ち込みもするさ。あのデイジーと闘うのだ。たとえ自業自得だとしても」
「後悔しているの、竜ちゃん」
「後悔はしていないさ。ああでもしないと百合子ちゃんはしばらくは立ち直れないだろう。あの子はクラスのアイドルだからな。クラス全体の士気が落ちると、全員の成長が落ちるからな。そのままだと内進組に私達は負け続ける事になる。それは私もみんなも不幸になるだろうからな」
内進組とはこの能力者の国で生まれ育った子供たちの事であり、外進組とは外の国でその能力を発言が確認され、この国に所属した能力者である。
能力者は貴重な存在であり、高い能力者は、国そのもの運命を左右する。だから所謂先進国と呼ばれる国々は能力者の発見と保護、育成に多額の予算を投じ、大切に育てられる。
だが、国力の乏しい国では事情が違う。能力者は貴重で有用だが、それがトラブルとなる場合もある。
通常の警察力では制圧出来ない犯罪者となる場合や、強国から危険因子ともなされる場合、何より能力者が偏見と差別の対象となり不幸な運命を辿る場合である。
この能力者の国、セカンドミレニアム総国は能力者の理想郷である事を国是とし、その保護を活動の優先事項としている。
それだけでなく、能力者を排斥し害を与える国は敵性国家とみなすと宣言している。
だが、これだけでは不幸になる能力者は減らない。
だからセカンドミレニアム総国は数多くの国と条約を結んでいる。
条約の内容は、締結国で能力者が確認され、それが未成年の場合、その身柄をセカンドミレニアム総国で保護し、成人した時に国籍の所属を元の国かセカンドミレニアム総国に選択させる。
能力者がセカンドミレニアム総国への移籍を選択した場合は、多額の移籍金が元の国に支払われるという内容である。
相手国にとっては能力者によるトラブルを防げる上に、ノウハウがない能力者の教育をセカンドミレニアム総国に代行させ、移籍した場合は対価が手に入るという条約だ。
これは当初は反発を招いたが、総帥が能力者による軍事進行を示唆すると渋々承諾する国が現れ始め、やがて支持されるようになった。
少なくとも、能力者による内的、外的な問題が排除でき、利益を得る事ができるからである。
だがそれは、世界の大半の国では、未だ能力者が厄介者で、この国に保護という名の厄介払いをされているという現実を示唆している。
そうして、外の国から保護されてきた未成年達は外進組としてクラス分けされている。
無論、大人たちが差別している訳ではない、生徒達の間で内進組、外進組と言われているだけだ。
天野も朝顔も百合子も時期は違えども外の国から来た能力者である。
天野が来たのは六年前の七歳の時、かなり早い時期だ、そして高い能力と面倒見の良さから、この学年の外進組の中心的役割を担ってきた。対して朝顔が来たの五年前、は百合子が来たのは数ヶ月前である。
内進組と外進組は少々確執がある。内進組がエリート意識を持っているからだ。
全体的な能力では内進組の方が上だ。それは生まれた時から能力に触れる機会が多く、教育の期間が長いからだ。
だが、この国に来て十年も経過すれば、その差は本人の才覚と努力で縮まり逆転する。今では天野は万能型としては学年随一の実力を誇る。
それに嫉妬する内進組の生徒は、特殊型最強と称されるデイジーを前面に出して溜飲を下げているのだ。
天野も最初はデイジーに対抗心を燃やしていた、だが何度も打ちのめされているうちに半ば諦めの気持ちが芽生え始めている。これではダメだと天野も思っているのだが、何もできなかったのが現状であった。
「で、竜ちゃん、何か策はあるの」
内進組と外進組の対立はこれが初めてではない、学校行事のイベントの毎にクラス対抗という形でそれは行われてきた。
単純な能力戦ではデイジーが圧倒的最強だが、球技や演劇、ボランティア等ではデイジーがリーダーシップを取り、時には策を用い外進組を勝利に導いてきた。
デイジーの能力『赤い双星』は相手の行為を阻害する能力である。相手を阻害する事が禁じられているか、憚られる場合では役に立たない。
何かを達成する、生産性のある目的ならば、内進組と外進組の対決は、純粋な能力勝負になるのだ。
そしてその結果は教師達に正しく評価される。
「いやない、あのゴミ拾いの時のような策が浮かべば好いんだけどな」
ゴミ拾いの時とは昨年のボランティアの時の出来事である。単なる河川のゴミ拾いという名目だったが、裏側では生徒達が、内進組と外進組が勝手に勝負していた。
総合力では未だ内進組に劣るデイジーの外進組は能力を活かした機動力と、ある意味捨て身の戦術でゴミの山を築き、勝利を手にしたのだった。
「でも作戦無しではデイジーさんに一泡吹かせるなんて無理だよ」
あらゆる行為判定を大失敗させてしまうデイジーの能力を正面突破するのは不可能である。少なくとも六要素と呼ばれる能力が突破した例はない。
数少ない希望は特殊型の能力で、百合子の三分伝説は通用する可能性があった。
だが、結果は無残な物であった。
いや、勝負にはなった分、健闘したと言えるかもしれない。通常は為す術無く敗北してしまうが、百合子は僅かではあるが勝てる可能性が見えたからだ。
「それは分かっているが、罠を仕掛けようが、死角から不意打ちしようがデイジーには通用しないぞ、その行為そのものが大失敗してしまうデイジーの能力の前に、どんな策を立てればいいんだか」
そう言って天野は再び俯いた。
「何か弱点でもあれば話は別なんだけどね。あっ、こういうのはどう?」
朝顔がパンと手を合わせる。
「何だ、弱点に心あたりでもあるのか」
天野も思わず身を乗り出す。
「決闘の場所にゴキブリとかムカデとかを大量に入れた蠱毒の大型壺を指定するの。デイジーさんが入って来なければ竜ちゃんの勝ちだよ」
「ほほう、そして私は壺の底で蟲まみれになるのか」
「あは、あはは、目が怖いよ竜ちゃん。冗談だって」
女の子としては低めの天野の声色が更に低くなり、朝顔を引きつった笑みを浮かべた。
「で、でもこれくらいの覚悟や相討ち上等で挑まないとデイジーさんには勝てないと思うよ」
「相討ちすら難しいぞ。こちらが意図した行動は全て大失敗されるからな。ああ、頭がスカッと晴れるようにならないかな」
そう言いながら天野は天を仰ぐ、その空は曇天を帯びていた。
「残念だけど、今日の天気は曇り、明日は晴れ、午後は所によって一時夕立だよ。スカッとした晴れは来週かな」
「さすが人間気象庁。明日は傘を持っていくよ」
朝顔の予知能力は天気限定ではあるが、精度は天気予報より遥かに高い、週間予報では外れる事は無いと言って良いくらいだ。
「ちょっと待て、今の話を詳しく聞かせてくれ」
天野はガバッと上体を起こし両手をテーブルに付けて朝顔に迫る。
「えっ、覚悟や相討ち上等って所?」
「違う! その後!」
「ええと、明日の天気は晴れ、午後は所によって夕立って所」
「そう、そこだ!」
「良いけど、そんなに真剣に聞くって事は……」
希望に満ちた目で朝顔は天野を見つめる。
「ああ、作戦が出来た。デイジーに一泡吹かせてやるぞ。朝顔の予言を聞いたら、電話だ。ポイントを少々使って仕事を依頼するぞ」
能力者がその能力を行使して金銭を稼ぐ財力庁、そこでは通貨の他にポイントを使って仕事を依頼する事が出来る。学生である天野達にも少量ではあるがポイントは付与される。天野はそれを使って仕事を依頼しようとしているのだ。
「えっ、でも竜ちゃん、あたし達の持つポイントだとあまり高い仕事は依頼出来ないよ」
ランクが上位の能力者や、レアな能力を持つ者への仕事の依頼料は高い。
朝顔は天野がボランティアを率先して行い、ポイントを貯めているのは知っていた。だがデイジーとの決闘に役立つような能力者となると、かなり高ランク、最低でもAランク以上の能力者の助力が必要なはずだ。
そしてその依頼料は高価だ。
「大丈夫さ、依頼時間も内容もそんなに高くはないさ」
少し厭らしい笑顔で天野は言った。
お読み頂きありがとうございます。
ポイントの使い道が少し出てきました。この国でのポイントはお金の代わりに能力者への仕事の依頼に使えます。その方がお金より効率は良いのですが、ポイントは貯めればお金に代えられないボーナスになるので、リンはクラスメイトの為に少し大盤振る舞いしている事になります。
小ネタはサブタイトルの乙女の元気予報です。きんぎょ注意報のOP「わぴこ元気予報」からですね。




