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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第三章 汚泥の帰宅者
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その3 小乙女の伝説

 代表戦のエリアにデイジーと百合子が入り、審判が開始の合図を送ろうとする。

 「あら、B組の代表は天野さんではありませんこと」

 相手が自らの想像と違いデイジーは少し驚きを見せる。

 「百合子では役者不足と言いたいのですの。こう見えても百合子は貴女と同じ特殊型の能力者ですのよ」

 「ええ、存じてますわ。でもあたくしとしては少しでも被害を抑える為に心霊治療(ヒーリング)のレベルが高い相手が良かったですのに。あなた、ちょっと痛い思いをしますわよ」

 デイジーにとっては勝利など容易い。重要なのはいかに手加減して相手に被害を与えない事なのだ。

 彼女の言葉の裏にあるその意に気づき百合子は怒りを覚えた。

 「ご心配ありがとうですの。でも、今日はその高慢な態度を二度と出来ないようにしてあげますの」

 そう言って百合子は懐から銀色に光る刃を取り出す。

 ドスだ。

 対するデイジーはその手を広げ直立する。

 一見何気ない仕草に見えるが、超感覚の一種『超常視』を持つ能力者には見えている。彼女を中心に薄暗い何かが放射されていくのを。

 その何かは試合場の形、即ち立方体を形成した所でその拡がりを止めた。

 相変わらず化け物じみているな。

 外から試合の様子を眺めていた天野はそう思った。

 天野がそう思ったのはあらゆる行為を大失敗(ファンブル)させる能力そのものではない。

 もちろん『赤い双星』の能力は脅威だ。だが、デイジーの凄さはそこだけではない。

 彼女は『赤い双星』の範囲を自らを中心とした同心球状ではなく、直方体の空間に限定してみせた。これは能力の効果範囲を自在にコントロールできる事を意味する。それは集団戦において大失敗(ファンブル)するのは敵だけで、味方には無害とする事も出来るのだ。

 鳳仙先生もA組の担任も驚きと感心を持って眺めている。生徒達の間でデイジーが畏怖されている存在なのは知っている。

 だが教師達の間での評価は違う、彼女は『珠玉の宝玉』だと称されているのだ。

 だが天野は同時に思う、その視線の先にある百合子のを見て。デイジーが綺羅の珠というならば、百合子は荒野に輝く一輪の花、その手に宿るのは伝説の光。

 百合子の特殊型能力『三分伝説インスタントレジェンド』により伝説の武器と化したドスだ。

 「どうして……」

 疑念の声が思わず天野の口から零れる。

 デイジーの表情も強張る。

 だがそれも一瞬で元の平静を取り戻した。

 「成程、百合子さん、あなたの能力は発動してしまうタイプの能力でしたか」

 「そうですのよ。つまり貴女の天敵ですの」

 その言葉に天野の疑念が晴れた。

 能力者の中にはまれに自分では制御できず常時発動してしまうタイプが居る。

 危険な能力ならば隔離されてしまう可能性もあるが、そうでないならば、その能力者は第一に自らの能力を制御する事から鍛え始める。百合子もそうなのだろう。

 そしてデイジーの『赤い双星』は百合子の自らの能力への制御を大失敗(ファンブル)させてしまっているのだ。

 結果、今の百合子は、元の常時発動する状態となっているのだ。

 「よろしくてよ、ではそのドスでわたくしを刺してごらんなさい」

 デイジーは両手を広げゆっくりと百合子に歩み寄る。

 それに対し、百合子は腰を落とし、ドスを両手で腰だめに抱え、その切先の狙いををデイジー下腹部に定めると、そのまま走り出し体ごとぶつかって……いかなかった。

 ずべっしゃー!

 どこかのコメディ漫画を思い起こさせる動作で百合子は頭から地面に突っ込んだ。

 「あら、大丈夫ですか」

 地面に突っ伏す百合子にデイジーは手を差し出す。

 だが百合子はその白い掌へ横薙ぎに刃を繰り出す。だがその刃もデイジーの掌を捉える事は出来ず虚空を切った。

 デイジーがその手を引っ込めた訳ではない、その刃が外れたのだ。

 百合子は片手で上体を支え、もう一方の手でドスを振り回す。だが、いずれの白刃の軌跡もデイジーの体を捕える事は出来ない。デイジーは手を差し伸べたまま微動もしていないのに、だ。

 もはや誰の目にも明らかで、百合子自身も気づいていた。百合子は『赤い双星』の影響下にあり、刃を振るう攻撃の命中判定に大失敗(ファンブル)しているのだと。

 「そんなに動くと危ないですわよ」

 デイジーの言葉が終わらないうちに百合子を支えていた腕が滑り、百合子は再び地面に頭を打ち付ける。

 「ほら、いわんこっちゃないですわ。落ち着いてゆっくりと動くのが良いですわよ」

 「うるさい!」

 頭をがばっと上げ、百合子は立ち上がろうとする。だが、その足は地面を真っ直ぐに捉える事は出来ず、百合子は再び地面に倒れこんだ。

 「だからゆっくりですわよ。足と大地をしっかり見て、体のバランスを取りながら立ち上がるのですわよ」

 百合子は一瞬デイジーをキッと睨み付けたが、言われた通り足と地面をしっかりと見て、ゆっくりと立ち上がった。

 「そうそう、わたくしの『赤い双星』の影響下でも日常生活の行動でしたら気を付けて動けば大丈夫ですのよ。うふふ、わたくしの能力の弱点かもしれませんわね」

 口に手を当てデイジーが上品に笑う。

 「では、そろそろわたしくの攻撃ですわね」

 デイジーは右手を上げ、百合子に平手を放つ。

 そして百合子の左頬はパチンと音を立てた。

 「さあ、続けていきますわよ」

 今度は左手。デイジーの掌は百合子の右頬を捉える。 パチンパチンと音を立て、百合子の両頬は赤く色づいていく。

 百合子は抵抗しなかった訳ではない、何度か避けようと、腕で防御しようとしていたが、デイジーの掌は確実にその頬を捉え、防御の腕もすり抜けていく。

 デイジーの動きが速い訳ではない、巧みなフェイントを掛けている訳ではない、百合子は大失敗(ファンブル)しているのだ、その回避と防御判定に。

お読み頂きありがとうございます。

前章で説明が不足していたデイジーの「赤い双星」の能力が描写されました。

ネーミングはTRPGをやっている人にはおなじみのピンゾロからですね。

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