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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第二章 悲願の達成者
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その6 岩を開く

 「こじ開けなさい!」

 悩む雑賀の後ろからデイジーの声が聞こえてくる。

 そして雑賀は理解した。

 「破滅よ! 岩を縦に!」

 デイジーが叫び、岩に縦の亀裂が走った。

 「ナイスだ!」

 雑賀はその亀裂に掌を差し込むと、岩を左右に割り開き、そして弾き飛ばした。

 そして岩は少年少女を中心に対称に落下した。

 水を叩く大きな音が聞こえ、少年少女は左右から来た波にさらされる。

 雑賀は波に一歩遅れて岩場に着地した。

 「大丈夫か!」

 叫びながら、雑賀は子供達を捜す。

 子供達は目の前に居た。岩が二分の一になっていた事と左右均等に波を受けた事が幸いし、びしょ濡れではあるが波に攫われずに済んだのだ。

 「うぇーん、怖かったよ」

 少女が涙を流す。

 「怪我は無い? ともかく安全な場所に行こう」

 雑賀は少年少女をその腕に抱くと、ひょいひょいと岩場を跳び浜辺へと向かう。

 「よしっと」

 道路へと続く階段の前に着き、二人を降ろす。

 「大丈夫だった? 痛い所無い?」

 雑賀は問いかけた。

 「うん大丈夫、な」

 「ううんへーき、ちょっと怖かったけど」

 目を擦り涙を拭きながら二人が言った。

 「どうしたの? 大きな音がしたけど」

 道路の上から若い女性の声が聞こえた。

 「あ、お母さん」

 少女が喜びの声を上げる。

 「まあ、ずぶ濡れじゃないの!」

 二人の姿を見てお母さんと呼ばれた女性が言った。

 「岩が落ちて来たんだ。それで濡れちゃったんだよ」

 少年が答える。

 「このお兄ちゃんスゴイんだよ、岩をパーンと二つに割っちゃったんだから」

 雑賀を指して少し興奮気味に少女が言った。

 「ああ、ではあなたが二人を助けてくれたのですね。どうもありがとうございます」

 状況を察したのか、女性が頭を下げた。

 「いえ、怪我がなくてなりよりです。では、俺は行く所がありますので」

 二人の無事を確認した雑賀は再び海に向かう。

 「ありがとーお兄ちゃん」

 少女の声を背に受け、雑賀は駆けだした、見捨てないと言った彼女の下へと。

 デイジーは海を漂っていた。そして思い出していた。自家用クルーザーで父親とバカンスに出かけた時に教えてもらった事を。

 船から海に落ちたら慌てず、無理に泳がず、ただ浮いていなさい、そうすれば必ず助けが来ると言われた事を。

 「無敵と思っていたわたくしの能力にも弱点がありましたわ。海に落とされると何もできませんわ」

 誰に言う訳でもなくデイジーは呟く。

 海を漂うと色んな音が聞こえてくる。波の音、鳥の声、そして自分の心臓の鼓動。その中にパシパシと規則的に何かを叩く音が聞こえてくる。

 首を上げ、音の主を探すと彼女の予想した通り、雑賀がこちらに向かって水面を駆けて来るのが見えた。

 「遅くってよ」

 デイジーは安堵の気持ちを隠し、音の主に声を掛ける。

 「ごめんごめん、今そこに行くから」

 手を振りながら、あと数回跳べば届く距離まで近づいた雑賀はそこでザブンと水中に落ちる。

 「ちょっと、あなた!」

 デイジーは声を上げる。雑賀の能力(ちから)が尽きたと思ったのだ。

 「遅くなってごめん。迎えに来たよ」

 平泳ぎで近づき、デイジーの元に到着した雑賀が声を掛ける。

 「あ、あなた大丈夫ですの? 能力(ちから)は尽きてませんの?」

 デイジーが心配そうに声を掛ける。

 「へ? 大丈夫だけど」

 「でも、水に落ちて……」

 「ああ、俺は走ってないと水に落ちちゃうんだ。君を水から抱え上げないといけないだろ」

 そう言って雑賀は軽くウインクした。

 「そ、そうでしたのそれは殊勝ですわね。クシュン」

 そう言いながらデイジーは可愛いクシャミをした。

 「春とはいえ海水浴には早いな。とっとと出ようぜ」

 そう言うと雑賀は海に潜った。

 「そうですわねって、ちょっと」

 股下からの力を感じ、デイジーが軽く悲鳴を上げるとその身体が海中から空中へ投げ出された。

 「よっと」

 続けて海中から飛び出した雑賀がデイジーを受け止め、その足で海面を大きく叩く。

 デイジーを抱きかかえた雑賀は再び海面を走り始めた。

 「ちょっと無礼ですわよ」

 顔を赤らめてデイジーは抗議する。

 「ごめんごめん」

 そう言って、その両手にデイジーを抱きかかえる。

 「ん、もう」

 デイジーはそう言いながらも、お姫様抱っこされる自身の姿に少し喜びを感じていた。

 「よし、じゃあ俺の背中に廻ってくれるかい」

 「え、何故ですの?」

 このままでも良いのに、という言葉を飲み込みながらデイジーが尋ねる。

 「春とはいえ濡れた服で直接風にあたると冷えるだろ」

 デイジーの問いに雑賀は至極当たり前のように答えた。

 「ん、もう」

 不満の声を口にしながらも、その心遣いが嬉しくて、デイジーは素直に後ろに廻った。

 その背中は温かかった。

お読み頂きありがとうございます。

唐突に岩が落ちてくるのは少し強引な展開だなと思います。(反省)

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