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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
序章 蒼天の来訪者
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その2 少年は大地を駆ける

 「正直に言えば許すって言ったじゃないか!」

 痛む頬をさすりながら少年が抗議の声を上げた。

 「言い方ってものがあるわよ! 君は馬鹿なの!」

 少年にそう言い放ち、少女は腕時計に目をやる。

 「もう、君のせいで時間がなくなっちゃったじゃないの。これじゃ学校に間に合わないじゃないの!」

 少女は再び少年にまくし立てる。

 「そんな事、言われても俺も急いでいる身で……学校?」

 「ひょっとして君の言っている学校ってセカンドミレニアム第二中学校?」

 「そうよ、君も同じでしょ、そのカバンを持っているのなら」

 少女が指差すのは少年が肩から掛けているスポーツタイプのカバン。

 そこに示されている大きな二と中の合わさった文様は校章で、学校の指定カバンである証だ。

 「ああ、今日から転入するんだ。だから、俺に乗れ!」

 そう言って少年は少女に背を向け、屈みこむと掌を上下させた。

 「は? 何を言ってるの君?」

 「だから、俺に乗れを言ってるんだよ。俺は速さを出せる。そして君は学校までの道を知っている。二人が力を合わせれば学校に間に合う。だから、早く!」

 少年が再び少女を促す。

 「わかったわ、君はあたしをおんぶしても間に合う事ができる能力(ちから)なのね」

 「ああ、俺を信じろ」

 少年は首を後ろに曲げ、親指を立てて少女に応える。

 「わかったわ、じゃあ急いでよ」

 少女が意を決し、少年の背中におぶさると少年はスックと立ち上がった。

 「まずはこの道をまっすぐよ」

 「OK!」

 少女の声を背に受け、少年は走り始めた。

 いや(はし)り始めたと言った方が正しいだろう。

 「ちょっと、速い、速いって」

 予想を超えた速度に少女が焦りを帯びた声を上げる。

 「大丈夫、車はかわす、人は避ける、振動も舌を噛まない程度に抑えるから君は道案内に徹してくれ」

 少年の言葉通りであった。

 少女が一呼吸置いて風景を見ると、その流れは速いものの、少年は見事に車や通行人という障害物を避け、振動もちょっと揺れる車程度に抑えていた。

 「次の信号を右、それから二つ目の交差点を左」

 落ち着きを取り戻した少女が少年に指示を出すと、少年はその通りに道を進む。

 「このまま真っ直ぐ行くと右手に学校の看板があるわ、そこから右に入ると学校への私道よ」

 「了解、あの看板だな」

 少年が指差す先には『第二中学校』と書かれた看板があった。

 「そうよ、その道に入ったら、道なりに進めば正門よ、でも登り坂だし、曲がりくねっているから気を付けて」

 「山道に多いスイッチバックってやつだな、任せろ、そういう道は慣れている」

 学園への私道に入った少年は見事なコーナリングで道を曲がり、また曲がり、丘の上の正門へひた(はし))る。

 丘の中段に差し掛かった頃、少女の視界に少年と同じように走っている生徒の姿が見えた。

 「ちょっと跳ぶから舌を噛まないように口を閉じて」

 「ええっ跳ぶって……」

 少女の返事を待たず、少年は下肢に力を込め跳ぶ。ちょうど陸上競技のハードルを越えるように。

 障害物走との違いは高さ。少年の跳躍は三メートルを超えていた。

 ふと下に目をやると、寝癖だろうか、それともファッションだろうか、ギザギザに立った髪型の少年がぽかんと口を開けてこちらを見ていた。

 そしてその姿は後方に消えていく。

 少年が猛スピードで彼らを追い抜いて行ったのだ。

 流れる風景の先に見えるのは正門。

 そして少年と少女の耳に鐘の音が響く。

 「速度を上げる! しっかり掴まっててな」

 少女は、少年の声と少女の腿を支える腕の力が強くなったのを感じ、少年の首へ回した己の腕に力を込めた。

 一段と速く流れる景色。耳に当たる風がゴォという音を立てる。

 風の強さを感じながら、少女は自分が今にも閉じかかっている門の隙間に走り込もうとしているのを見た。

 間に合わない。

 少女がそう思い目を閉じた瞬間、さらに強い風と後方への重力を感じた。

 少年がさらに速度を上げ、門の隙間に滑りこんだのだ。

 そして少女は車が急停止した時のような前への重力を感じた。

 それは、やがて弱まり、そして消えていく。

 「セーフ!」

 少年の声を聞き、少女が目を開けると目の前に校舎の入口があった。

 えっ?

 少女は考える。

 校門には間に合った、それは分かる。

 だけども校門から校舎の入口までには百メートルは離れているはず、だけども目の前には校舎の入口がある。

 それが意味する事を想像し、少女は振り向いた。

 その眼前には二本の線。

 少年が急制動を掛けた時に生じた軌跡がグラウンドに刻まれていた。その長さは約百メートル。

 逆を言えば、停止するのにそれだけの長さを必要とするスピードで飛び込んだ事を意味していた。

 「ありがとう、おかげで助かったよ」

 少年はそう言いながら、ゆっくりと膝を折り少女の足が地面に着くよう腰を降ろした。

 「あ、ありがとう、結構スゴイ能力(ちから)を持っているのね」

 少女はその白い足を地面に着け、少年の前に回りこみ、そう言った。

 「ああ、力自慢が俺の自慢さ」

 「ところで、もう一つ教えて欲しいんだけど」

 「何?」

 「職員室はどう行けばいいのかな?」

 「ちょっと奥まった所にあるけど、本当は教えてあげたいけど、今は急ぐから、ごめんねっ」

 そう言って少女は駆け出した。

 「ちょ、ちょっと」

 少年の制止に少女は応えない。

 「校門に先生が居るから聞くといいよー」

 代わりに適切な答えが返ってきた。

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