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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第二章 悲願の達成者
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その1 ABCD定食包囲網

 キーンコーンカーンコーン

 午前の終業を告げる鐘が鳴り響く。

 「お昼ーお昼だよー、昼ごはん食べに食堂にいくよー」

 力尽きたように机に突っ伏していた雑賀の席の前で朝顔が言った。

「やっとお昼か、一分が千秋のように感じたぜ」

 フゥと溜息を付きながら雑賀が立ち上がった。

 二人は生徒の波に沿ってゆっくりと食堂に向かう。

 「やっぱり元気ないね。昨日は『ヒャッハー飯だぁー』と言って食堂に駆けて行ったのに」

 雑賀の顔を少し心配そうに覗き込みながら朝顔が言った。

 「今日はエネルギーを使い過ぎた。おかげで俺のエネルギー袋はからっけつだ。これはABCD定食を全て食べないと回復しそうにない」

 グルルルルと唸りを上げるお腹を押さえながら雑賀はその足を進める。

 「あークラス代表戦で酷い目にあったからねぇ」

 数時間前の出来事を思い出しながらウンウンと朝顔が頷く。

 「ああ、突っ込んでは倒れ、向かってはもんどりを打って転び、進めば地面とキスをする。正直何が起こったのか分からなかった。十分間水中でもがいていた感じだったぜ。あ、おばちゃーんA・B・C・D定食一つずつね」

 雑賀はカウンターの前で、四人前の注文を告げた。

 「そんなに食べるの?」

 片手にトレイを二枚、両手で計四枚のトレイを指先で器用に挟んだ雑賀を眺めながら朝顔が言った。

 常人であったならトレイ上の定食の重さに指の握力が耐えられず落としてしまうであろう。雑賀が念動力(テレキネシス)を使っている事は明白であった。

 「いつもよりちょっと多めだけど、全部ちゃんと食べるから大丈夫さ」

 そう言ってウインクしながら雑賀は席を探し始めた。

 「うーん、どこも一杯だね」

 サンドイッチとミックスジュースをトレイに載せ、朝顔も空席を探し始める。

 「そうだな、あ、あそこが空いてる」

 食堂の一角に目を付け、雑賀がその空間に足を進める。

 「え、あ、ちょっと雑賀君、ストップストップ」

 「転ぶなよー」

 四つのトレイを持ちながらも器用に人波を避け雑賀は進む。

 「ここ空いているかい?」

 四人掛けけのテーブルに一人で座っている女生徒に雑賀が声を掛けた。

 「見ての通りですわ」

 声を駆けられた金髪の少女が紅茶のカップを優雅に口元に運びながら言った。

 「そっか、じゃあ相席させてもらうよ」

 「ご自由に」

 その応えに満足したのか、雑賀はトレイをひょいひょいとテーブルに置き、遅れて来る朝顔に手を振る。

 雑賀は朝顔が来るまでの間、ただでさえ足りないスペースに無理矢理詰め込んだ四つのトレイの上にある皿を詰め、朝顔の為のスペースを作り始めた。

 「テンテレテンテレテテレレテレレレ」

 ブロックパズルの元祖のミュージックを口ずさみながら雑賀は朝顔の到着を待つ。

 「待ってよ雑賀君、そのテーブルは……」

 やっと人波を掻き分けて合流した朝顔がテーブルに座る女生徒を見て言葉を止めた。

 「ねえ、雑賀君、別の席を探さない?」

 少し小声になって朝顔が言う。

 「他には空いていないし、彼女も相席もOKって言ってくれたし、ここで良いよ」

 そう言って雑賀は席に座った。その前には二倍の密度で整地された定食が並んでいる。

 「で、でも、その人、デイジーさんだよ。今日、雑賀君と戦った人だよ」

 「ああ、そうだな」

 「そうだよ、雑賀君は転校したばかりで知らないかも知れないけど、デイジーさんって、この学校で最強どころか七年前から中学生以下の部で優勝しちゃうような人で、破滅の女王って呼ばれていて、将来Aランク間違い無しって言われていて……」

 そう言った所で朝顔はハッと口を(つぐ)む。

 「わたくしはお邪魔なようね」

 手にしていたトーストをカッカッカッと手早く口に詰め込むと、デイジーと呼ばれた少女はトレイを手に持ち席を立った。

 「いや、そんなに気を使わなくても……」

 雑賀はそう言って声を掛けるが、デイジーはスタスタと下膳口に向かって進んで行った。

 「悪い事しちゃったな」

 「雑賀君、まずいよ、デイジーさん怒っちゃったかもよ」

 「いや、この程度で腹を立てるような心の狭い子じゃないだろ」

 「あたしもそう思うけど、あのデイジーさんだから注意しといた方が良いよ」

 空いた席に腰を降ろし朝顔が言う。

 「そんなに怖い奴なのか? 見た目は可愛い女の子、いやどちらかと言えば美人な女の子に見えたぞ。確かにさっきの戦いじゃ手も足も出なかったけど」

 雑賀の言葉を聞いて朝顔はふぅと溜息を付く。

 「じゃあ、教えてあげる。彼女の名前はデイジー・ディジー。A組の特殊型超能力者でその能力名は『赤い双星』目標に対し運命的な破滅を与える能力よ。さっきも中学生以下で最強と言ったけど、この国で彼女に勝てるのは総帥と戦力庁のリーダーとAランク数名と言われているわ」

 「運命的な破滅ってよくわからないけど、特殊型ってあれか、『排他』と『定常』が特徴で、防御が出来ない能力(ちから)なんだろ」

 雑賀は昨日の試験の時に受けた説明を思い出した。

 「運命的な破滅ってのはあたしも良く分からないけど、確率を操作する能力らしいわ。それも悪い方向のみにね。簡単に言うと対象を大失敗(ファンブル)させる能力。この確率には量子論的な確率も含まれていて、あらゆるものを破滅させるって噂よ。ああ、量子論的確率というのは、粒子の状態を確率でしか表現できないという不確定性原理に基づくものなのだけど、彼女が本気を出せば対象となった物質は科学的には分子間、原子間の結合が壊れていくらしいわ。一説には弱い力か強い力に関係しているかもしれないって言われて……」

 「要するに凄く強いと」

 長い説明に少し辟易したのか、雑賀が言葉を遮った。

 「要し過ぎる気がするけど正解」

 そう言って朝顔はフルーツジュースで乾いた喉を潤した。

 「そうなのか、俺にはそんなに怖い奴には見えなかったけどなぁ」

 雑賀はデイジーが去っていった方向を見ながら呟いた。

お読み頂きありがとうございます。

ここから第二章に入ります。主人公の第二のヒロインの話です。

今回の小ネタは冒頭の朝顔の台詞が、Kanonのヒロインの一人の台詞のパロディなのと、「ヒャッハー飯だぁ」が北斗の拳、ABCD定食包囲網、第二次世界大戦のABCD包囲網ですね。


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