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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第一章 砂塵の疾走者
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その8 超常スクワット!

 一同がグラウンドに着くとドルルルルルゥと低いモーター音が周囲に響き渡る。

 「あれ何? トラクターのお化け?」

 音の主、巨大な重機の姿を見て、朝顔が言った。

 「ありゃ大型フォークリストだな。港湾とかでコンテナとかを運ぶやつだね。見たことないの?」

 そう雑賀が説明する。

 「うん、初めて見た」

 「そっか、この国には大きな港が無いからか」

 フォークリフトの隣には鳳仙先生が立っていた。

 「よく来たな雑賀。あとは野次馬か、なんだ天野も居るじゃないか、やっぱ転校生は人気だな」

 「こいつが無様に潰れる姿を見たくてね」

 天野が言った。

 「そんな危険な事はしないさ。雑賀よく聞け」

 「Yes! Sir!」

 「ははは、まだそれをやるのか、いいノリだ」

 朝のやり取りを思い出したのか、鳳仙が吹き出す。

 「よし、よく聞け。このフォークリフトのフォークの下に入れ。そしたらゆっくりとウエイトを下げる。肩にフォークが触れたら動力を切る。気をつけろ急に重さが掛かるぞ。そのままウエイトを上下に動かせ、動かせたら合格だ。安心しろ、地上一メートルの所に安全用の留め金がある。無理だと思ったら地面に突っ伏せ。理解したか」

 「なるほど、巨大なスクワットマシーンだと思えばいいのか」

 「理解が速いな。その通りだ。さて、まずは二トンから始めるか」

 「んーと五トンからでいいよ」

 軽くストレッチしながら雑賀が言った。

 「おー自信だな。じゃあ五トンから始めようか」

 鳳仙は大型フォークリフトに乗り込むと隣に積んであるウエイト五個をその櫛で持ち上げ、安全の為、ワイヤで固定した。

 「よーし来い」

 雑賀がフォークリフトの櫛の下に入る。

 ルルルルルルル、モータが回転し、ゆっくりとウエイトを下げ、その櫛が雑賀の肩に軽く載った。

 「いいか、動力を切るぞ」

 「どうぞー」

 鳳仙先生がエンジンを切ると雑賀の肩にウエイトが圧し掛かる。

 雑賀の膝が曲がり、腰が落ちた。

 「ああっ、危ないよ」

 朝顔が思わず声を上げた。

 だが、雑賀の膝は曲がった後に、再び伸びそれに合わせてウエイトも上がる。

 雑賀はその上下運動を何度か繰り返した。

 「この程度なら大丈夫だよ。うん快適なスクワットマシーンだ」

 余裕のある表情で雑賀が言う。

 「いいね、まずは中間地点突破か。どうだ、この倍行けるか?」

 再び動力を入れ、櫛を雑賀の上でロックしながら鳳仙が尋ねる。

 「倍かー、うーんギリギリだけど大丈夫かな」

 少し自信なさそうに雑賀は応えた。

 「よし、じゃあちょっと離れてな」

 雑賀がウエイトの下から離れるのを確認し、鳳仙先生はフォークリフトを操作すると脇に置いてあったウエイトの上に今載せているウエイトを置き、櫛を抜いた後、その櫛を下げ重なったウエイトの下に挿れた。

 ギュルルルルル

 機械のモーター音がさらに重い唸りを上げ、総計十トンとなったウエイトを持ち上げる。

 鳳仙先生の視線が追加のワイヤを一瞥(いちべつ)すると、それは生き物のように勝手に動き出しウエイトを縛りつけ固定する。

 念動力(テレキネシス)を使い、ワイヤを動かしたのだ。

 「さあ雑賀、挑戦の時間だ」

 鳳仙先生の声に促され、雑賀は再びウエイトの下に入った。

 「よーしそれじゃあ動力を切るぞ」

 その声が聞こえた数秒後、雑賀はその双肩に人生最大の圧力を感じた。

 思わず膝が折れ、今まで何物にも負けなかった大腿筋が悲鳴を上げる。

 櫛を持ち上げようとする両手は固まったまま動かず腹筋はくの字に曲がった。

 「なんだあれはひしゃげた蛙みたいに無様じゃないか」

 天野の悪態に耳を傾ける余裕もない。

 「雑賀君、無理しないで。危なかったら伏せればいいんだよ」

 朝顔の声も微かにしか聞こえない。

 雑賀の頭に一瞬諦めて地面に伏せようという思考が浮かぶ。

 だが、その思考を拭い去り、四肢に全ての筋力(ちから)念動力(ちから)を込める。

 心臓の鼓動は聴覚だけでなく、触覚で感じる程に大きくなり、雑賀は初めて血管で血流の流れを感じる事が出来る事を知った。

 「ぐおおおぉぉ!」

 肺の空気を搾り出すような雄叫びと共に重力に屈していた膝が、腰が、肩が動き出す。

 そしてゆっくりとウエイトは持ち上がった。

 雑賀は直立不動の体制を取ると、今度は膝を少しずつ曲げ再びウエイトは重力に従い降下する。

 だがこれは膝の敗北ではなかった。

 半分程膝を曲げた後、再びウエイトは雑賀の体に押され上昇を開始した。

 再び直立体勢を取った時、ガコンと音が鳴り櫛がその動きを止めた。ロックが掛かったのだ。

 「よし雑賀、LV5合格だ」

 鳳仙先生の声が響き、周囲からワッと歓声が上がる。

 「すげえ、新記録だぜ」

 「何あれ化け物クラス!?」

 「雑賀君やったぁ」

 腰を地面に降ろし、軽く手を振ってその声援に応える。

 「いや、それは論理的におかしい」

 賞賛の声を遮ったのは天野であった。

 「ん、なぜだい天野」

 鳳仙先生が尋ねる。

 「LV5の合格条件は念動力で十トンの物体を動かす事です。厳密に言えば彼はその筋力を加えて動かしています。その分を考慮すべきです」

 「あー確かにそうだな」

 頭をポリポリ掻いて鳳仙先生が言う。

 「どうだい、あと百キロ追加できるか?」

 鳳仙先生は雑賀を見て尋ねた。

 「んー無理!」

 息を切らしながらも爽やかな声で雑賀が答えた。

 「そうか、じゃあLV5は次回にお預けだな」

 少し残念そうに鳳仙先生が言う。

 「だが、九.九トンだとしても中学生記録である事は間違いない。よくやったな雑賀」

 鳳仙先生が両手を叩き賞賛した。

お読み頂きありがとうございます。

LVの設定が出てきました。念動力、瞬間移動はLV毎に10倍の基準になります。

対数表記なのは少し科学的っぽいですね。

今回のネタはサブタイトル「超常スクワット!」これは超常スマッシュ!ギンガイザーです。古すぎますね。

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