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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
第一章 砂塵の疾走者
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その7 カッコいいポーズ!

 天野が言っていた通り、念動力のエリアは生徒はまばらだった。

 「おーいみんな注目してくれ、今から転校生がLV4に挑戦するってよ」

 天野の声に生徒達が振り向き、雑賀は視線の的となる。

 「さあ、見せてみな、お前のLV4の念動力ってやつを」

 天野に促され雑賀が試験官の前に立った。

 「ああ、転校生の雑賀君か。じゃあ、あそこのウエイトを持ち上げて」

 試験官の示した先には直方体の金属の塊が置いてあった。

 その形を例えるならば金属で出来た箪笥(たんす)の引き出し。金属の塊に牽引用の取っ手を付けた物であった。

 その隣にある重量上げ用のバーベルとは密度が違い過ぎる。

 「あの一トンのウェイトを持ち上げたら合格だ。精々頑張りな」

 少し嫌味の篭った声で天野が言った。

 「雑賀君がんばっ」

 朝顔が少し無邪気さを込めた声で応援した。

 雑賀はしょうがないなといった風潮で頭を掻きながらウエイトに向かった、

 「ちょっとラインを超えちゃうの、マイナス付くよ」

 ウエイトの前一メートルに貼られた白線のラインを超え、雑賀はウエイトに手を掛けた。

 「よっこいしょっと」

 気合とは掛け離れた声で雑賀は難なくウエイトを持ち上げる。

 「あれ、持ち上げただけじゃ駄目なんだっけ」

 沈黙する皆の様子に少し困惑したのか、雑賀は少し悩む仕草をするとウエイトを持ったまま膝を曲げ、伸ばし、スクワットを開始した。

 「おいっちに、さんし、ごーろくひちはち」

 ストレッチでもしているようなリラックスした声で上下運動をし続ける。

 「ああ、もういい合格だ」

 試験官が声を掛けると、雑賀はゆっくりとウエイトを降ろす。

 「雑賀君、ひとつ聞くが、君は手を触れずにそのウエイトを持ち上げる事が出来るかね」

 試験官が尋ねた。

 「いや、俺は手を触れずに動かす事は出来ないんだ。おまけに体も同時に動いてしまう」

 「なるほど、雑賀君、LV4--(マイナマイナ)合格っと」

 試験官はそう言って雑賀の記録用紙に記入した。

 「はっはっは、こりゃいいや転校生、限定型で条件付かよ、いやLV4は中々だが、使えねぇな」

 天野が腹を抱えて笑う。

 「なんだよ、ちゃんと合格したじゃないか。それに条件付って何だよ」

 「雑賀君、条件付ってのは能力の発動が特定の条件下でしか行使出来ないって事だよ。念動力(テレキネシス)は物体から一メートル離れた距離で、基準の重さを持ち上げると合格なんだけど、雑賀君の場合、ゼロ距離でしか行使出来ないでしょ、それがマイナス評価になっちゃうの。あと体も動いちゃう事もマイナスになっちゃったの。だからさっきの合格では雑賀君はLV4--(マイナマイナ)が評価点なの」

 「なるほど、評価は合点がいった。つまり『カッコいいポーズ!』と言いながらキメポーズを取らないと能力(ちから)が使えないのならマイナス評価が付いちゃうって事か」

 「そうそう、雑賀君、意外と理解がいいねっ」

 雑賀の肩をポンポンと叩きながら朝顔が褒める。

 「やっと概論ってやつが分かって来たよ、でも何であんなに笑われないといけないんだ」

 少し腹を立てた様子で雑賀が言った。

 「はっ、そいつは六要素の最大のメリットである『相乗』が生かせないからさ。ゼロ距離じゃあ力を合わせてそれを三メートルの高さへ持ち上げる事も出来ないだろ。だが、お前より弱い百キロのウエイトを持ち上げれる念動力者が十人集まれば、それは出来る。こんなのも分からないのか、馬鹿だなお前は」

 「竜ちゃんちょっと言葉がひどいよ。ごめんね雑賀君」

 「いや、物を知らないのは真実だからな。そんなに腹は立たないさ」

 「殊勝だな転校生」

 「だが言われっぱなしなのは気に食わん。だから言葉じゃなく能力(ちから)で黙らせる。試験官の先生、LV5に挑戦するぜ」

 雑賀は試験官に向かってピシッとキメポーズを取った。

 「残念だけど、ここにはLV5のウエイトは無いよ。なんせLV4の一トンに対し、LV5は十トンだからね。床が抜けてしまう」

 念動力の試験はLVが上がる毎に目標の重さが十倍になる。試験官の言葉はもっともだった。

 「えっ、確か転校前の試験でLV4を出したから、転校先ではLV5のテストをするって言われたんだけど」

 「いや、私は聞いていないね」

 試験官の言葉に雑賀はあれれと首を傾げる。

 その時、虚空から一帯に声が広がった。

 「あーあーチェックチェック。B組、雑賀魚一、雑賀魚一、君の念動力LV5試験を始めるのでグラウンドへ来なさい」

 声を聞き、雑賀は安堵の息を漏らした。

 「やっぱりLV5のテストあるんじゃないか。心配したよ」

 「雑賀君、LV5受けるの? 凄いよ、合格したら中学生記録だよ」

 「そうなのか?」

 「うん、念動力はLV毎に重さが十倍になるんだもん。LV4から先はとーっても大変なんだよ」

 朝顔は両手を大きく広げその大変さを表現した。

 「ふん、受けるだけなら誰でも出来るさ。自慢は合格してから言う事だな」

 「そういうあんたは受けないのかよ。LV4合格したんだろ?」

 「自分の能力(ちから)くらいは知っている。己を知るのも重要だ。馬鹿には分からんかもしれんがな」

 「つまり、無理だと分かっていると」

 「ええい、うるさいな。そういう事だ」

 少し怒りの言葉を込め天野が言った。

 「よし、じゃあ行くか」

 そう言って雑賀は体育館から出てグラウンドへ向かう。

 「あたしも見学するー」

 朝顔もそれに続く。

 「おいどうする。LV5だってよ。見てみないか」

 周囲からも雑賀の挑戦に興味をそそられた生徒の声があがり、雑賀がグランドに到着する頃にはちょっとした一団に成長していた。

お読み頂きありがとうございます。

今回のネタはサブタイトルにもある「カッコいいポーズ」が魔法陣グルグルです。

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