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たったひとつの冴えない能力(ちから)  作者: 相田 彩太
序章 蒼天の来訪者
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その1 スカイブルー

 少年は超能力者である。

 彼は地面を舐めていた。

 どうしてこうなったのか、こうなってしまったのか、彼は考える。

 そう、事の起こりは転校初日、道に迷った所からだ。


 桜の舞う春の朝、制服姿の少年は街を走る。

 時刻は八時二十分、始業ベルまで残り十分、少年が能力(ちから)を使えば十分間に合うのだが、現実はそう上手く行かない。

 少年は道に迷っていた。

 「参ったな、このままじゃ転校初日から遅刻だ」

 誰に聞かせる訳でもなく少年はそう呟くと、辺りを見渡した。

 「あった」

 少年が見つけたのは目的の学校ではない、高層マンション。

 「よっ、ほっ、はっ」

 軽い掛け声を発しながら少年はベランダに手足を掛け勢いを付けて体を引っ張り上げる。

 優れたフリークライマーはわずかに指先さえ引っかかる小さな手がかりさえあれば、どんな崖だろうと壁であろうと登る事が出来るというが、少年は違う。

 何をもって違うかと言えば、その速度だ。少年のそれは筋肉の収縮で持ち上げるのではなく、跳ぶように登る。その姿は崖に生息する山羊を思い起こさせる。

 十階程登った所で少年はベランダの手摺にぶら下がりながら周囲を見渡した。

 少年が探すのは目的地、すなわち学校。

 小高い丘の上に、その特徴的な直方体の建物とグラウンドを視界に捕らえ、少年はその方角を記憶した。

 「よし」

 少年は自らの体重を支えていた手を離し、自由落下を開始する。

 途中、階下のベランダに手を引っ掛け速度を落とす事数回、少年は最後に三階から一気に着地した。

 「どすこーい!」

 気合の掛け声で着地の衝撃に耐えると、少年は目指す学校へ向け一気に駆け出す。

 はずであった……

 「きゃん」

 少年の背後で発せられた可愛らしい悲鳴、そして、とすん、という何かが地面に落ちる音、それが少年の足を踏み止まらせ、首を後ろに向き直させた。

 少年の目に入り込んできた物は青い布と少女。

 正確には青い下着、まだ青さを残す少女のパンツが少年の瞳に映っていた。

 少年はしばし硬直する。

 いや見入るといった方が正しいだろう。

 少女もしばし硬直した。

 そして次の行動を起こしたのは少女の方であった。

 少女は股間を手で押さえ、股を閉じ、前かがみの体勢で少年を見上げる。

 「見たわね」

 「み、みてないよ」

 明らかに挙動がおかしい。目が泳いでいる。

 「正直に言いなさい、そうすれば許してあげるわ」

 立ち上がり、詰め寄るように少女が言った。

 その言葉に押されるように少年は「み、見た」と答える。

 「よろしい。感想は」

 少女の問いに少年は空を見上げ、口を開く。

 「抜けるようなスカイブルー」

 パァンという音が響き、少年は青空に流星を見た。

はじめまして、この小説をお読みいただきありがとうございます。

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