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その6 初めての対決と十萌町変質者情報

 小学生かっ!?


 緊迫した空気の中、対立しあう二人の男の子を前にして、うっかり叫びそうになった。

 男の子といっても、一人はコスプレ風な巫女服姿だけど。

 二人が対立しているのは、不思議なものが見えちゃう以外は至って平凡な私をめぐって、というわけでは決してない。

 えーと。宗教的な、見解の、相違・・・? ちょっと、違うような・・・・・。

 本人たちはものすごく真剣で、本人たちにとってはとても大事なことなんだろうということは、分かりたくはないけれど、分かっていた。

 分かってはいるんだけれど、なんだか物凄くどうでもいい。

 ただ、切実に家に帰りたい。

 大体、これ。傍から見たらどういう構図なんだろう・・・・。

 ほんのちょっと前までは、私ももう少し緊張していたんだけどなー。

 なんて、どこか途方に暮れた気持ちで、こうなるまでの過程を振り返ってみる。




 部活の後、校門の前で待っていてくれた亜弓君に出迎えられ、またしても付いてきた茶道部のみんなに冷やかし交じりに見送られて、十萌神社へと向かった。

 ここまでは、昨日と同じだ。

 違うのは、神社の入り口に見慣れない人影が立っていたことだ。ずっとこちらを窺っているので、待ち合わせでもしているのかなと思った。

 待ち合わせじゃなくて、私たちを待っていたんだと気が付いたのは、顔が判別できるくらい近づいてからだった。

 この間、帰り道で会った目つきの悪い男の子。十萌の巫女には関わるなと言ってきた、あの男の子だった。

 こっちを見ていたのは、通りを窺っていたのではなくて、私たちを見ていたのだ。

 どうして遠くからでも私たちのことが分かったのだろうと、疑問に思いかけてすぐに答えにたどり着いた。

 巫女服は遠くからでも目立つ。

「亜弓君・・・・」

 亜弓君に知らせようと、巫女服の袖口をツンと引っ張ると、亜弓君が頷いた。

 予想はしていたみたいだ。

「あいつ・・・・見たことあるな・・・」

「十萌の子?」

「いや。十萌のヤツなら、どこの誰だかすぐ分かる。たぶん、隣のクラスのヤツだ。名前は知らないけど」

 亜弓君の通っている小戸成中央高校は、結構レベルの高い進学校だ。ということは、あの男の子も、結構頭がいいということだ。ちょっと、意外。目つきの悪さから、もっとガラの悪い学校に通っているのかと思っていた。人は見た目で判断してはいけない。

 それはそれとして。

「十萌の子じゃないのに、どうして十萌の巫女のことを知っているんだろう?」

「まあ、魔法処女は兎も角、十萌の巫女のことは別に隠しているわけじゃないから。十萌出身のクラスメートから聞いたのかもしれないし、単純に両親のどちらかが十萌出身って可能性もある」

「あ、そっか」

 普通に会話をしながらも、私は緊張していた。

 こっちを見ている男の子から、物凄い敵意を感じるのだ。

 亜弓君が一緒じゃなかったら、走って学校まで引き返していたと思う。

 亜弓君からも緊張が感じられた。

 でも、それは。私みたいに怯えているからじゃなくて、受けて立つぞという気構えからだった。凛とした眼差しで敵意に応えている亜弓君に、頼もしさを感じる。

 恰好が格好なので、頼れるお姉さまみたいな感じではあるけれど。

 半面、不安もある。

 相手は、妖ではなくて人間なのだ。妖を祓う力を持っている亜弓君だけれど、人間同士のケンカとなったらどうなんだろう?

 体格的にはそんなには変わらないと思うけれど、目つきが悪い分相手のほうがケンカに慣れていそうな勝手なイメージ。

「大丈夫。葉月には手出しをさせない。あいつとはオレが話すから、葉月は少し離れていて」

 巫女服姿の亜弓君に男の子を感じて、私は少しドキリとした。

「ここで待っていて」

 男の子の少し手前で、そう言われて立ち止まる。

 ずっと、亜弓君の肩の上に乗っていた、十萌の神様の御使いキリちゃんがトトと亜弓君の体をつたい降りて、私の前に立つ。

 私を守ってくれるってことかな?

 仲間に認められたみたいで、ちょっと感動した。



 私を置いて、一人、あの男の子のもとへと進む亜弓君。男の子は、無言で亜弓君が近づいてくるのを待っている。

 1メートルくらい手前で、亜弓君が立ち止まった。男の子の唇が、皮肉気に歪む。

「野郎のくせに、なかなか似合っているじゃねえか。偽物の神様に仕える、偽物の巫女が」

「どういう意味だっ!?」

 うん。どういう意味?

 偽物の巫女は兎も角として、偽物の神様?

 気色ばむ亜弓君とは対照的に、男の子は余裕の表情で腕を組んでいる。皮肉気なのは変わらないけれど。

 ・・・・・・・・クールなの?

「言葉通りの意味だ。本来の神様を山に封じ込めて新しく神になった、裏切り者で偽物な神様に仕える偽物の巫女だって言ったんだよ」

「おまえ・・・・・一体、誰だ?」

 亜弓君の質問に、今度は答えはなかった。

 ただ、挑発的に、亜弓君を睨んでいる。



 後ろでハラハラと見守りながら、かおる先輩から聞いた十萌の伝承を思い出した。

 十萌には、新しい神様と古い神様がいるのだ。

 元々、山を守護していた十萌の古い神様は、神の花嫁と呼ばれた十萌の巫女を穢されて、祟り神になってしまう。それを鎮めるために命を落とした5人の巫女が祀られて、新しい十萌の神様になった。その後は、古い神様の御社は叶家が、新しい神様の御社は西山家が守ってきた。

 十萌町に住んでいる人なら誰でも・・・・・は、言いすぎか。最近は、私の家みたいな小戸成市から引っ越してきた新参者もいるからなあ。でも、叶、西山、葉山のお家の人なら、誰でも知っている伝承だ。別に隠しているわけでもないみたいだから、十萌の人間じゃなくても、調べるのは難しくなさそう。

 神社とか伝承とかのマニアじゃなければ、わざわざ調べたりはしないと思うけど。

 ということは、あの男の子はつまり。

 中二病をこじらせて自分を古い神様の使いだと思い込み、新しい神様の使いである亜弓君にケンカを吹っかけている。

 もしくは。

「実は叶家の隠し子で、自分こそが本物の魔法処女だと思っている、とか?」

 亜弓君が振り返り、男の子がため息をついたことで、うっかり口に出していたことに気が付いた。

 し、しまった。隠し子とかデリケートな問題を、うっかりペロッと口にしてしまった。

「俺は水月草摩。叶家は関係ねぇよ」

 隠し子じゃなかったらしい。よかった・・・・・のか?

「大体、何だよ。その魔法処女ってのは。その巫女装束もどことなくコスプレっぽいし。どっかの風俗の出前サービスかっての」

 フォローできない。

 しかし、風俗って。その発想はなかった。これが、高校生と中学生の違いなのか。とりあえず、お巡りさん呼んでいい?

「魔法処女は兎も角として、清らかな乙女じゃないと巫女にはなれないんだったな。つまり、処女喪失と同時に、おまえは十萌の巫女の資格も、ついでに魔法処女の資格も失うってわけだな?」

「な、なぜそれを!?」

 亜弓君の全身を嘗め回すように見ていた男の子、水月草摩が、ニヤリと笑った。

 コスプレ風巫女服とか魔法処女とか、理解不能な部分はあっさりスルーして、与えられた情報から答えを導き出す。こういう思い切りの良さも成績に影響するのだろうか?

 そうだよね。分からないことは後に回せばいいんだよね。特にテストの時は。

 亜弓君も頭いいはずなのに、その驚愕の意味がよく分からない。

 清らかな乙女イコール巫女。清らかじゃなくなったら巫女じゃなくなる。

 私でもわかる簡単な理論。

 水月草摩がその答えにたどり着いても、何も不思議はないと思うんだけど。

「だったら話は早い。俺がおまえの処女を奪って、偽物の巫女ですらいられなくしてやる!」

「な!?」

 片手でスカートの後ろを抑えるようにして、亜弓君が数歩後ずさる。

 しょ、処女を奪うって、ボーイズラブ的な意味で!?

 に、逃げて、亜弓君。超、逃げて。

 って、いや、ちょっと待って。

 もしかして、これ他人事じゃないんじゃない?

 亜弓君の次は私の番だったりしたら、どうしよう!? どうしたら!?

 わ、私は魔法処女じゃないし、十萌の巫女でもないからっ!!

 身の危険を感じてあわあわしていると、直ぐにでも襲い掛かってくるのではと思った水月草摩は、両手を胸の前で組み合わせて何やら口の中で呟いている。

 ・・・・・・・・・・・・・?

 あ! もしかして、アレ? 呪文とか唱えちゃっているの?

 中二病的な、痛々しいヤツ?

 ごっこ遊びに付き合ってくれる、お友達が欲しかったとか?

 なんだか物悲しい気持ちになって、そっと見つめると、水月草摩はギラッと目を光らせた。

 ひゃっ!?

 な、なんか、なんか現れた。

 なんかっていうか、中身の詰まっていそうな白い手袋が一組。人差し指を突き出し、両手袋を組み合わせたポーズで宙に浮いている。

 そう。

 小学生がいたずらでやる、指カンチョーの構えだ。

「くっ。卑怯だぞ!」

 片手でお尻を守りつつ、ハリセンを構える亜弓君。

 なんで、そんなに真剣なの?

 君の処女は、それで喪失しちゃうの?

 なんと声をかけていいか分からない私の足元で、キリちゃんが身じろぐ気配がした。

 さっきまで、毛を逆立てて警戒するように水月草摩を睨みつけていたのに、今はすっかり気を抜いて地面の上で丸くなっている。

 キリちゃん的にもこの戦いはどうでもいいことらしい。

 たぶん、十萌の神様的にもどうでもいいんじゃないだろうか。

 私はため息をつくと、キリちゃんの隣に腰を下ろした。

 目の前では、執拗に亜弓君のお尻を狙い続ける白手袋と、それをハリセンで叩き落そうとする亜弓君の果てしなくどうでもいい戦いが繰り広げられている。水月草摩は同じところに立ったまま、白手袋を操るのに集中している。手袋を操りながら、自分も動く余裕はないみたいだった。

 なんだかなー。

 放っておいて、もう家に帰りたい。

 実行しないのは、もちろん隣にキリちゃんがいるからです。

 無防備なキリちゃんがこんなに近くにいるのは、これが初めてじゃなかろうか?

 真っ白い手乗りキツネ。可愛い。

 触りたい。撫でたい。モフりたい。

 うずうずしながらも手を出しあぐねているのは、下手に手を出したら逃げられちゃうかもしれないから。

 ああ。でも。もしかして、今なら触らしてくれるんじゃないだろうか?

 どうでもいい戦いそっちのけで、ぐるぐる葛藤していると、キキッと自転車がブレーキをかける音が聞こえてきた。

 顔を上げると、知らないおばちゃんが亜弓君たちの近くで止まっていた。

「亜弓君、何しとるん? お友達?」

「違いますっ。あの男が、オレの処女を奪おうと・・・・」

 おばちゃんの動きがピタッと止まる。

 い、いやいやいや?

 そうだけど、そうじゃないでしょ?

 水月草摩もぎょっとした顔で、動きを止め、おばちゃんの動向を窺っている。

 おばちゃんはギギッと首を動かして、水月草摩と亜弓君と離れたところで座り込んでいる私を順番に確認すると、素早い動きで自転車のカゴに入っているバックから携帯を取り出した。おばちゃんとは思えない素早い動きで指を動かし、携帯を耳に当てる。

「大変よっ。十萌神社の前で、目つきの悪いチンピラ風の男が亜弓君と女子中学生に襲い掛かろうとしているの! お前の処女を奪ってやるとか言っているわ!! 至急、変質者情報を流してちょうだいっ!!!」

 不審者情報のことかな?

 しかし、一体どこに連絡したんだろう?

 おばちゃんの行動力、恐ろしい。まるで、自分で見聞きしたかのように話しているけれど、若干ねつ造入っているよね? 別に、私は襲われていないから!

 おばちゃんは携帯を耳に当てたまま、水月草摩を睨み付け、ふんっと鼻を鳴らした。

「もう大丈夫よ。じきに応援が来るからね!」

 それから、亜弓君と私を見て、大きく頷く。

 水月草摩の顔が、引きつっている。


 ピン ポン パン ポン


 町内放送の合図が流れた。


「十萌町から、お知らせします。只今、十萌神社入り口で、目つきの悪い、チンピラ風の男が、女子中学生に、襲い掛かろうとしている、という通報がありました」


 え? えええええええええ!?

 ちょっ、これ。十萌町全域に放送されているんだよね!?

 さ、さすがに、これはちょっと可愛そうな気が・・・・・。


「くっ。今日のところは、これで引き上げる。次は、こうはいかないからな!」

 町内放送はまだ続いているけれど、最後まで聞き終わらないうちに、水月草摩は捨て台詞を残して、駅のある繁華街の方向へ向かって走り出す。全色疾走だ。なかなか速い。彼は、こんなことしていないで陸上部にでも入った方がいいんじゃないだろうか。

「逃げたわ。十萌の人間じゃなさそうだから、たぶん駅に向かったんじゃないかしら? ええ、こっちは無事よ。怪我人はいないわ。じゃ、後はよろしく」

 まだ、電話は繋がったままだったようだ。水月草摩が逃げたことを伝えると、おばちゃんは携帯をバックにしまった。

 彼はちゃんと十萌から抜け出せるんだろうか。さすがに、これは濡れ衣っていうか。亜弓君に指カンチョーをしようとしていたのが、女子中学生に襲い掛かろうとしたことになっちゃっているよ。

 どちらも変質者には違いないとはいえ、前者はシャレで済むけれど、後者はシャレでは済まない。

「ありがとう。春江さん」

 知り合いか。

 処女喪失の危機が去って、肩から力を抜いた亜弓君がお礼を言っていると、あちこちから軽トラやら自転車やら原付やらが駆けつけてくる。

 本当に、応援来たよ。

 駆けつけたおっちゃんたちは、怪我人もなく犯人? が逃げたことを確認すると、各々仕事に戻ったり、町内のパトロールへと向かっていった。

 これが、十萌の防犯力。




 私のことは、普段着に着替えた亜弓君が送ってくれることになった。

「葉月が無事でよかった」

 男の子の格好でそういうの、無駄にドキドキするからやめて欲しい。

「葉月・・・・・」

「え? な、なに?」

 なるべく亜弓君の方を見ないようにしようと思っていたのに、声に真剣さを感じて、思わず見上げてしまう。

「あんな奴に負けるつもりはないけれど、でも、もし、オレが魔法処女の資格を失ってしまったら、後のことを、葉月に頼みたい」

 ドキドキはあっさり消え去り、むしろ心臓が凍り付いた。

 弱気になっている亜弓君に、ではない。これからの、自分の運命を想って、だ。

 つまり、亜弓君が処女を奪われたら、代わりに私があのコスプレ巫女服を着なくてはならないと?

 あと、気が付いたんだけど。もし、そうなったら、次に狙われるのは私なんじゃ・・・・・?

 ひ、他人事じゃない。他人事じゃなかった。

 どうでもいい戦いとか言っている場合じゃなかったよ。

「亜弓君。私も協力するから。何としても処女を貫き通そう!」

「葉月・・・・。うん。もちろんだ」

 最初はびっくりして瞳を揺らしていた亜弓君だったけれど、すぐにいつもの力強さを取り戻し、揺るぎない笑顔を返してきた。



 よし。これで、とりあえず魔法処女の後継者問題はうやむやになった。


 指カンチョーで喪失する亜弓君の処女よりも、自分の評判の方を優先してしまう私は、いけない子でしょうか?

 神様?



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