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2013/5/1 香港

____2013年5月1日 中華人民共和国 香港


香港島からその統治組織であるカンパネラが忽然と姿を消してから幾日か経った。今、この島は空白地の獲得に燃えるミレニアムノアーズたちの戦場となっている。戦場といっても一般人は何一つ変化のない日常を送っているが、島のあちこちには人払いが展開され、多くの血が流れている。

かつてカンパネラが所有していたビルを制圧した2人の男が、座り込みながら壁にもたれ、この拠点を維持するための増援の到着を待っている。

「ふー、きっつ。もう動きたくねえ」

「おいおい、しっかりしてくれよ?いま別の組織に襲撃されたら俺らだけで持ちこたえなきゃならんのだからな」

「あー、わーってるって。いやーそれにしても・・今日だけで何人殺したんだよ?俺ら」

「数えてみるか?」

「・・・・めんどくせ・・・あーあ、こりゃ特別ボーナスくらいねぇとやってらんねぇ」

男たちの周りには多くの死体が転がっている。これらはすべてミレニアムノアーズである。この中には敵も味方もごっちゃになっているが彼らは味方を区別して弔うようなことはしない。2人にとって組織の味方とはそういうものである。それはたとえ今生きている人間が死体で、今の死体が生きている人間になっていたとしても変わらないだろう。


ミレニアムノアーズが作る大半の組織は例えるなら人事異動の激しい会社である。野良の能力者を構成員がスカウトし、組織のために働かせる。ここで重要な事は、働く方はいつでも組織を脱退できることだ。

組織が個人のミレニアムノアーに望むことは、組織の目標を達成するための駒になることだけであって、忠誠心とか、組織内での友好関係を築くことを望んではいない。純粋に顧客と顧客がほしい物を提供する会社の関係である。

顧客とは組織のことで、会社は個人のミレニアムノアーであり、会社が取り扱う商品は"力"だ。

会社が商品の供給を顧客に一定期間提供する契約を結んだとして、契約が切れたあとの契約更新をするかどうかの判断は会社が行う。

自分にとって都合のいい顧客だと判断すれば契約を更新するし、そうでないならさっさと縁を切る。組織を抜けたあともその後にまた両者の需要が一致し、再び組織の構成員になることもざらにある。


ちなみに世界を舞台に活動する組織の目的は大きく分けて3つある。


マフィア系

そのままの意味でヤクザ稼業をなりわいとする。


反動派

紫共会のように現代人類の進歩を否定し、人間は一度過去に立ち返るべしという主張を元に行動する。

具体的には現代人類の科学信仰から"開放"するため、科学技術の進展のキーマンとなる学者、政治家を殺害することがある。この時組織は、殺人であることがばれないようにその人物の存在自体を抹消する。つまり記憶操作であるが、全人類を対象にしてそんなことができるのはそれなりのノウハウを培う反動派組織くらいである。

また民主主義国家を王政、貴族制まがいの前時代的な政治形態に転換されるように世論や国民を影から誘導する。これは人類の思想を"矯正"するためだ。


進歩派

反動派の行動をそのまま逆に置き換えた組織と考えれば良いが、人類の進歩を積極的に促進しているわけではない。

反動派は「人類にどういった影響をあたえられるか?」と言った行動理念を軸に行動しているが、進歩派は「反動派にどういった障害をあたえられるか?」という、自分たちと相反する反動派組織を潰すことを軸に行動している。

つまり進歩派をアンチ反動派と置き換えると、2つの組織形態の違いがわかる。進歩派は決して反動派から人類の進歩を守る組織だとは限らない。ただ単に特定の反動派組織を潰したいがために、進歩派の看板を付けてほかの進歩派組織との連携を目論んでいるだけの組織も多い。


反動派と進歩派はその行動理念から、会社でいうところの管理職に当たるような、組織を実際に動かしている構成員は組織の思想に染まっている。よって組織からの離脱はまず無い。出入りが激しいのはマフィア系組織がほとんどである。

またマフィア系と反動派、進歩派の全体的な比率はおよそ2:2:1となる。


これらの情報を踏まえてもう一度、香港島のビルの現状を見てみる。

生き残っている2人が所属している組織はマフィア系だろう。彼らには死んでいった仲間たちへの弔いの念などはない。生存者も死者も全員大金で釣られた組織の末端たちだ。

そしてマフィア系と戦っていた組織は同じマフィア系か、反動派のどちらかが当てはまる。進歩派がマフィア系と争う道理はないことから進歩派は除外してある。


「なあ、タバコが切れた。くれ」

「あいにく俺はスモーカーじゃないんでな。けど、こいつのをもらっていいんじゃないか?」

そう言うと男は死体のポケットからタバコを取り出してもう一人に渡す。

「おーサンクス・・・ふー」

ジッポーで火をつける。そして煙をゆっくり吸って吐く。

そして再び煙を吸おうとしたその時、忽然とタバコの火が消える。

「・・・・は?」

「・・・っ!?」

タバコを吸っていた男は自分の身に起こったことにあっけにとられていたが、もう一人はこれが明らかに何者かの所為であると判断し、戦闘隊形に入る。

そして比較的近くから声が聞こえる。


「ノースモーキングだ」

いつの間にか一人の男が2人の目の前にいた。そのことに2人は全く気づけなかった。一体どうやって自分たちの前に来たのか?いつからここにいたのか?といったことが全くわからなかった。

「いきがりたいのはわかるが、君のようなチンピラが吸っていても滑稽でしか無い」

男がそう言うと今度はタバコが消える。喫煙者の首とともに。

「なっ!?」

生き残ったもう一人は急いで距離を取る。この時男は悟った。こいつは自分の手には負えない。にげなければ今度は確実に自分が殺される。敵前逃亡となれば組織からの報酬は無いだろうが、命とカネを比べるのなら前者が圧倒的に重い。


「そう逃げなくてもいいじゃないか、これを殺したのは単にこいつにイラッときただけさ」

一人を殺した男が自分に最大級の警戒を行うもう一人にそう告げる。

「そのエンブレム・・・開邦会のかたですか・・」

「ああ、別に見せびらかしたいわけでは無いんだがね。一応規則なんで」

男の服にはあるエンブレムがデザインされている。もう一人の男はそれを見て自分と対峙している人物が、アジア最強の反動派組織の一員であると察した。

「私はザハール・ボリーソヴィチ・コルタコフ。今回は開邦会の命令でここの情報収集に来た。君が何かするわけでもないなら私は君に危害を加えないし、用が済めばここから立ち去ろう」

「・・・分かりました」

「よしよし、物分かりのいいやつは好きだぞ。能力者っていうのは自惚れがあるのか身の程をわきまえるっていうことを知らない奴が多いからね」

「・・・けど、ここに前いた組織が残していった情報はないと思いますよ。情報隠蔽もできない半端な組織では無いですから」

「そうだね、カンパネラはそうさ。だからこの私が呼ばれたんだよ」

そう言うとザハールは壁に手を当てる。少しの間、部屋を静寂が包んだが、地面が揺れだしたと同時に、マフィアの男は信じられない光景を目撃する。


戦闘で散らかった部屋が元の整頓された状態へ戻っていく。それだけではない、死体が崩壊していく。細かく分解された肉片や衣服はまた別の人間とその衣服となって形を整える。

そして出来上がる。カンパネラが、4月5日、ここで会議があった時の部屋の状況、構成員、全てが部屋にあるもので再現されてゆく。

そしてザハールが作り上げた神山がふと口を開ける

--「全員、集まったようだな」--


この時点でマフィアの男はすさまじい恐怖を感じた。今まで死体だったものが姿を変えて新しい人間として息を吹き返したのだ。

(じ、人体の創造・・・空間からの記憶再現・・・し、信じられない、こんな人間がいただなんて・・・)

「ん?明石が喋らないな・・あ、小指が再現出来てないじゃないか。死体の中に指を詰めてる奴がいたんだな・・・」

ここでザハールは男の方をチラッっと見る。

「・・・ごめんねチンピラ2号くん。捜査にご協力くださいってやつだ」

ハザールは念力で男の指をちぎろうとする。ブチブチィッという明らかに痛そうな音が男の小指から鳴り響き、絶叫がこだまする。ちぎられた指はひとりでに作られた明石の方へ飛んでいき、小指の付け根と接合される。接合が終わると、指と付け根の境界は全くわからないほどにまで整形されていた。


--「香港島を1ヶ月も立たないうちに手放す理由は?」--

「よしよし、これで大丈夫だな」

ハザールは納得した表情で再現されている会議を傍聴する。

小指を奪われた男は痛みに悶えながら、異質な現場再現が一刻も早く終わるよう祈る。

そしてしばらく話が進み、必要な情報を得たと判断したハザールは再現を中止する。整頓された部屋は元通りの散らかりに戻り、カンパネラの構成員を模倣して作られた肉塊は音を立てて崩れる。どうやら人間は空間と違って元に戻せないらしい。つまり生きている男の小指はもう二度と本来の持ち主の元へ帰ることはない。

「なるほど、紫共会がそんなことにねぇ。そりゃたかが4人程度でカンパネラの襲撃に対応できるわけがないからな」

ハザールはそう言うと男に対して

「ご協力ありがとう、チンピラ2号君。もう用事はないので失礼するよ」

「は、はい・・どうも、お疲れ様です。・・・・っ!!」

痛みをこらえながら男は今を生き残るための問答を行う。そしてハザールがこの場から消えると男はどっとでた疲れからぶっ倒れる。

(ああ・・・良かった・・・生きてて・・)

男は涙を流しながら今ある生に感謝した。もうこんな仕事はやめよう、この世界から一切足を洗って、故郷の村に帰って親父の仕事を手伝いながら静かに生きよう。そんな考えが男の頭を支配していた。

そんな時に、部屋に大勢の人間が入ってくる。しかしそれは男が待ちわびていた増援ではなく、新たにこのビルを制圧するために来た別の組織の人間だった。

男は急いで立ち上がるが、満身創痍の男に大勢の能力者が襲いかかり、無残にも男は殺される。


カンパネラが姿を消してから、こういったことが香港島各地で起こっていた。


面倒なので一部ミレニアムノアー=能力者という風に書き換えています


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