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2013/5/1 東京 千代田区

紫共会とは、世界でも指折りの歴史と実力を誇るミレニアムノアーズ組織であった。

設立された時期は日本が安保闘争で揺れ動く波乱の時代である。


安保闘争とは戦後日本史において発生した最大級の抗議デモ活動である。

日米安全保障条約という条約がある。この条約がどういったものであるかを知らなければこの時代のことはもちろん、当時の人々の気持ちもわからない。

日本は世界に戦争を挑み、そして敗れた。その事の善悪はさておき、戦後の日本は米軍を主体とするGHQによって占領統治されることとなった。それと同時に、日本の国防もGHQが一手に引き受けることになる。

1951年のサンフランシスコ平和条約によって日本は当時の連合国各国に主権を認められ、独立国として再出発をすることになった。

当時の日本人たちは熱狂したであろう。今まで自分たちの住む土地は遠く海をまたいだ国の一部という扱いだった。それが今からはまた自分たちでこの国の舵取りをしていくのだ。今まで我が物顔で砂塵の舞う街路を闊歩していたアメリカの軍人たちにはこの日本の歴史からご退場願おうと思っていた。

が、日本からあのにっくきヤンキーが消えることはなかった。

当時の議会の与党が米国との安全保障条約を強行採決したのだ。安全保障条約の内容とは、日本の要請によって米国はGHQが統率していた米軍の日本への駐在を継続し、在日米軍として日本の土地を使用する、というものである。

時は冷戦のまっただ中である。独立して間もないの日本が一人で国の立て直しを図れるような時勢ではなかった。日本が隣接している共産主義国家のソ連と中華人民共和国に独力で対抗できるわけがない。だから同盟国である米国の虎の威を借りることは国防政策の一環として必要不可欠である。

そういったことを十分に理解していた当時の政治家たちはこれを行うしかなかった。こうしなければ最悪、日本を巡ってソ連とアメリカが正面衝突する。そうなれば一度味わった戦火の炎、そのさらに凶悪な衝撃を日本が直に受け止めることになる。それだけは何とか避けたかった。


結果、与党が民意を無視して日米安全保障条約を慎重審議なくして強行採決する、という事態になった。

日本人たちはすさまじい怒りに燃えた。結局のところ、我々はアメリカ人の支配から抜け出せていないじゃないか、という意見が出てくる。その後、条約締結に異議を唱えるものが大勢現れ、声を大にして国会を糾弾する。与党に対して反対意見を持つ国会議員だけでなく、労働者や学生、一般市民までもが国会を取り囲み、条約締結の見直しを求めた。 

日本史上における空前規模の反政府、反米運動であった。


結成期のメンバーは当時、大学生が中心となって愛国の理念を貫き、日々行われるデモによって悪化する東京の治安を改善するという目的によって集まった。夜は街に出没する悪漢を制裁し、昼は学生として勉強すると言った、今の様な世界的な組織である紫共会とは全く異なるローカルな行動内容だった。

しかし彼らが懲らしめる悪漢とは、ただのチンピラだけでなく、組織力のあるヤクザも含まれていた。

ヤクザ組織を強大なミレニアムノアーズの力でねじ伏せていくと東京ではその手の人間の姿が全くなくなっていった。このことを最初、紫共会のメンバーは我々の功績としてほこらしく思っていた。

が、この時彼らは自分たちが東京を支配する新たな組織となっていることを知らなかった。

そのことは、メンバーの一人が麻薬の密売に手を出していることをほかのメンバーが知った時と同時に、初めて知ることとなる。


密売を行っていたメンバーは即座に殺された。警察に突き出すといった行動は一切取られなかった。なぜなら彼らは全員がすべからくミレニアムノアーだったからだ。彼らは刑務所の塀など塀と思っていない。一般人にミレニアムノアーを囚人として管理させれば必ず逆襲される。最悪の場合、密売を行ったメンバーが暴走してその正体が世間に露呈される。紫共会という訳の分からない超能力集団が東京の治安を脅かしていると世間が認知してしまうことだけは避けなければならなかった。

だからほかのメンバーは犯罪者に成り下がった一人のメンバーを殺した。今まで同じ学生として勉強し合い、遊び合い、夢を語り合った友を、集団で殺した。

その頃から、紫共会が設立された当初の理念はねじ曲がって行くことになる。共産主義にかぶれていく。それだけならまだいい。彼らは共産主義すら曲解し、人類の進化を否定し始める。彼らは人類が成し得た産業革命を間違った進化だとし、世界はそれ以前の時代に回帰するべきだという主義を自ら確立していった。

ミレニアムノアーズ組織の反動派、その最大組織の一角としての紫共会の歴史はこのころから始まる。


そして設立から50年ほどの月日が流れた2013年、紫共会において空前の内ゲバが発生する。

紫共会が真っ二つにわかれた原因は1つ、財政難がゆえに麻薬の密売を開始するか否か、ということであった。


内ゲバの結果、密売をよしとせず、東京の守護者であり続けるという理念を持つ細川派が辛くも勝利した。

しかしその犠牲はあまりに大きい、紫共会の構成員の9割以上がこの時点で死亡した。数字だけ見ても壮絶な殺し合いがあったことがわかる。なぜここまでの騒動に発展したか、それは争いが単なる利益や権利の競合のために起こったのではなく、"東京の守護者"としての紫共会の使命をかけた戦いだったからだ。


結局、生き残ったのは細川をいれて4人だけだった。これではもう以前の組織としての機能を維持することは到底できない。外から東京を狙って進出してくるほかのミレニアムノアーズ組織から、自分たちの東京を守ることさえできないと悟った細川は、なけなしの運営資金である傭兵を雇う。


____2013年3月18日 東京 千代田区


細川が使っている部屋のドアからノックの音が響く

「どうぞ、お入りください」

細川がそう言うとドアが開き、部屋に一人の女が入ってくる。女は長大な刀を携えていた。

女はなにか話すわけでもなく自分の雇い主である目の前の初老の男を静かに見つめる。

細川が先に口火を切る。

「ようこそ、紫共会へ・・私が会長の細川と申します」

「・・・・」

女は黙ったままである。

「・・まあまあ、そう怖い顔をなさらず、気楽に話を聞いてくれませんか?」

「・・・結局、わざわざ呼び出してまで伝えたい命令とはなんだ、それを先に言え」

女は雇い主との会話に使うべきではない態度で、初めてものを言った。

「・・・まあいいでしょう、あなたにも相当の事情があると伝え及んでいますから、ここはあなたの意志を汲んで率直に命令を言い渡しましょう」



「簡単な話です、ボディーガードですよ。しかし護衛するのは人ではありません。東京です」


____2013年5月1日 東京 千代田区 ムラサキタワービル

 

ここはかつて紫共会の根拠地として機能していた高層ビルである。今ではカンパネラがここを所有している。今日ここには来訪客が3人訪れていた。


「まさかそんなことが・・・」

「・・・・」

礼子と公彦は今まで凛がおかれていた状況をアリスから説明された。そして凛が無意識に2人の隠れたミレニアムノアーとしての才能と共鳴し合い、自分たちもまたその強大な力を持ちうる可能性があるということを知らされた。

今日、この場には凛たちを含め、カンパネラの全員が集結している。

凛は今日ここで組織に入るかどうかの表明をしなければならなかった。

「・・・では、聞こうか。陸奥凛」

カンパネラの管理者である神山が凛にファイナルアンサーを求める。神山と凛は今日が初対面である。

「はいりたくないです」

きっぱり、はっきり、即座に、凛は拒絶の反応を示した。当然だが。

「っっっっ???!!!!!」

ガクガクと明石が震えて激しい怒りを表現する。しかし直接的な手段に出ないことを凛は学習しているため、冷静でいられた。

「おおいおい落ち着けって!」

ウェンが何とかして明石をなだめようとする。それにしても明石という男は一見すれば普通だが頭のなかは大概おかしく、自分の思い通りにならないことが不満で仕方ないらしい。

「うわー明石くんキレッキレじゃないの―。おもしろっ」

カラスと言うらしい少年が傍から明石を面白がって見ている。

「・・そうか、君の意志は分かった。・・所で、今日私にある取引の話が来てね・・・」

神山が話を続ける

「ある傭兵からこう言われた。もし陸奥凛がカンパネラに入ることを拒んだときは・・・」

その時、部屋のドアが開く。そこにはこの場にいる全員が見知った相手である。

「今まで紫共会に雇われていた・・古賀霞氏に・・陸奥凛の身柄を引き渡すことになっている」

カツカツと女は凛の方へ歩み寄る。

「え・・あ、あなたは・・なんで・・?」

凛があっけにとられていると、女が口を開く。

「私の名前は古賀霞、よろしくね・・・さあ、ついてきて」

「え、ええっ!?ちょっ・・まって・・!」

強引に腕を引っ張られる凛が古賀と一緒に部屋をあとにしようとする。

そこで神山が待ったをかける

「まあ待て、もう一度、陸奥の意見を聞こうじゃないか」

「・・・その必要はないわ、神山。この子の意見はさっき聞いている」

「まあそう慌てるな、その時陸奥は我々の勧誘を断れば君に連れ去られるなんて思ってなかっただろう?」

「そ、そうです!だ、だから離してください!」

凛が必死に抗議する。

「・・・・」

古賀は一度凛の方を向いて少し残念そうな顔をし、陸奥の手を離す。

「・・・気が向いたらまた来るわ・・・その時は凛、もう一度考え直しておいて・・・」

そう言って部屋から出ていった。


しばらく部屋を静寂が包んだが、明石がそれを破る。

「フフ・・それで、陸奥、お前の選択肢はなくなったというわけだ」

嬉しそうに凛を見つめる。凛はもうこの男から逃げられないと悟った。




「・・はいりたくないですが・・・入ります・・どうかよろしくお願いします・・・」

凛の人生という軌道が転換される。


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