表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/14

2013/4/27 東京 一

____2013年4月27日 東京 千代田区 ムラサキタワービル


「わたしが・・・何て・・?」


凛には明石の言っていることがさっぱりわからなかった。

一言一句を噛み締めて意味を探ろうとしても明石の言葉を理解できない。

(世界を動かす・・?)

特にこの言葉は難解であった。

世界を動かすということはどういうことか、物理的に動かすことではもちろん無いと思うが、そうでなければ何なのか?

政治がどうのこうのということならそれはおかしい。国の政策を決める場所は永田町の国会議事堂である。同じ千代田区ではあるが、決してこのビルではない。


「なんだ蒼人、この子には俺らのことを教えてないのかよ」

部屋でスマートフォンをいじっていたウェンが明石に問いかける。

当然凛はこの男のことを知らない。

(私より少し年上かな?なんだろう、今どきのリア充大学生って感じの人ね・・)

「・・あっ!キミは凛ちゃんだっけ?俺はウェン・オンライ。ヨロシク!」

「は、はあ・・どうも」

(初対面なのに下の名前で呼ばれるなんて初めてかも・・なんか馴れ馴れしいなぁ)

凛はこんなことを思っていると明石が話を進めようとする。

「ウェン、話の邪魔だ、入ってくるな」

「おいおい、こんなかわいい娘との話を独り占めしようなんてそりゃ強欲すぎなんじゃねえの?」

「え?えええ?い、いや可愛くなんてそんな、全然無いですよ!?」

「えーそんなこと無いぜぇ凛ちゃん、しかも可愛いって言われてからのそのウブな反応、男心をくすぐってくるぜ」

「なっ、ベッ、べべ別にそういうわけじゃ!?」

「ねえねえ、その反応からするにまだ男と付き合ったこと無いんじゃない?」

「そ、そんなこと答えられません!!」

「もったいないなあ、凛ちゃんならいくらでも良い男が寄ってきそうなもんだけどねえ・・」


「はあ、ウェン、やめなさい。陸奥さんがかわいそうでしょ」

ここでアリスが凛を助けるためにウェンを叱る。

「それとも、ここで私とのフラグを全部折ってしまう?」

「ええっ!?そりゃあ、アリスちゃん・・ねぇ・・?」

「・・・ごめんね、凛ちゃん。俺が悪かったよ」

「・・・・当然です、これからは気をつけてくだい」

「え、凛ちゃん、言う時は言うんだね・・」

「いや、相手が弱った所を見逃さず強気に出てるだけだろ」

話の続きを妨害されっぱなしの明石がそう付け加える。

「ごめんなさい陸奥さん、あんなバカは放っておいてください。

あ、私はアリス・シルヴィ・パートリッジ、アリスと呼んでください」

「は、はい、どうも・・」

ついでにアリスが自己紹介を終わらせる。


「・・そろそろいいか?じゃあ陸奥、俺達が何者か、ということからまず話そう」

「・・はい」

ここでやっと明石が本題に移る。


「まず1つ、俺達はただの人間じゃない。ただの人間が束になってもできないことをやってのける特殊な人間だ。俺達みたいなヤツらのことをこの世界では"ミレニアムノアーズ"、単数形なら"ミレニアムノアー"と呼ぶ。そして俺達の組織名は"カンパネラ"、構成員は管理者を含んで6人の少数精鋭だ」


「2つ、ミレニアムノアーには、なろうと思ってなれるものではない。ミレニアムノアーになる人間というのはある日突然、あるいは何らかのアクションがきっかけとなって力を発現させる」


「3つ、これはキミにとって最も重要な事だ。ミレニアムノアーになった人間は大抵の場合、同業者の組織に組しなければならない。なぜなら、ペーペーの一匹狼が世の中を渡り歩いていけるわけがない、ということと一緒だ。組織の庇護を受けていない、未熟なままのミレニアムノアーはその手の悪趣味な同業者にとって格好の餌だ」


ここまで聞いて凛はなんとなく、明石が自分に言わんとしている結論を思い浮かべることができた。いつかの殺し合いの現場を自分の目で見ているため、彼が言っていることが空想物語でないことはわかる。

とすれば、明石が言った3つ目の話、ミレニアムノアーにとって組織に組することの大切さを説いた話が自分にとって一番大切だということ。

これは自分がミレニアムノアーとしての能力を開花させたということではないだろうか。自覚はないが、そうなら自分は現状、明石の言うペーペーの一匹狼ということになる。


「わたしに・・あなた達の組織に入れと・・そういうことですか」

「鋭いな。その通りだ」

明石は少し意外と言った風に凛の質問に答えた。

「そこまでわかっているならキミはどうするべきかもわかるだろう。キミには俺たち以外に拾ってくれる組織がいないんだからな」

「・・・その通りだと思います」

「けど、それより先にわたしの質問に答えてください」

「ああ、いいだろう」

そう言って明石はソファに座り、タバコを吸い始める。

「で?質問ってのは?」

「なんでわたしはあなた達に呼ばれたんですか?わたしがここに入ることで、あなた達にどういった恩恵があるんですか?」

「キミがなぜこのカンパネラに必要か・・・俺が見たところ、キミには俺達の力量にまで到達できるほどのポテンシャルを秘めているからだ」

「ポテンシャル・・・」

「そうだ、ミレニアムノアーには先天的な才能がある。才能に目覚めてから能力を培うわけだが、人によってその能力の限界ってもんが出てくる」

「じゃあなんで明石さんはわたしのポテンシャルが分かるんですか?わたしはまだ力を使ったことなんてないのに」

「・・いや、違うな」

明石は灰皿にタバコの灰を落として質問に答える。

「?」

「ミレニアムノアーになった時、キミは一度能力を使っている」

「え・・それは・・」

「キミが俺と初めてあった時、どうして人払いがされた空間にキミは入れたと思う?」

「それは・・なにかの偶然じゃ?」

「言い方を変えればそうかもしれない、がそれは違う。キミの能力が俺の人払いを破ったからだ」

「え・・破った?」

「そう、俺が精魂込めて念入りに展開した人払いを陸奥、キミは何の苦労もなしに平然と破ったんだ」

「そ、そうですか・・・わ、悪かったですか?」

過程はどうあれ、人のものを壊してしまったと知ると壊した人は後ろめたさを感じるものだ。凛も例に漏れずなんだか申し訳なくなってそう聞くと

「あーそうだな、キミがあの時、戦闘に巻き込まれて死んでしまうようなことがあれば、その死体の処理には困ったな」

なんて答えが帰ってきた。しかしそう考えると、あの時自分がいかに危険な状況にいたのか、ということがいやというほどわかってくる。改めてとんでもないことになったと感じた凛は顔色が悪くなり、自分でもわかるほど大きなため息をついた。


「けどまあそんなに深刻に考えることもないぜ、凛ちゃん」

ここで顔色の悪くなった凛にウェンが言葉をかける

「蒼人がさっき組織に入らない人間は必ず誰かに殺される、なんて言ってたけどそりゃ嘘だぜ」

「え?・・そうなんですか?」

凛は明石の方を見ると明石はバツの悪そうな顔をして

「・・言葉のあやだ、お前を騙そうとしていたわけじゃない」

と言うあからさまな言い訳が返ってきた。

「おいおい、よく言うぜ。まあ俺としても凛ちゃんがお前が言う通りの逸材ならぜひ一緒に来てもらいたいけどよ、凛ちゃんの選択肢をお前の勝手で潰すってのは感心しないねえ」

ウェンは明石にそう言うと今度は凛に向かって説明する。

「別に組織に入らなくたってすぐに問題が発生するわけじゃねぇよ、未熟なミレニアムノアーを狙って誘拐して、人体実験なんてするステレオタイプな組織なんていまどきほとんどいねぇし、そもそも凛ちゃんが能力開花したことなんて俺ら以外は把握してないんだぜ」

「じゃあ、このままひっそりと生きていけばトラブルには巻き込まれない、ていうことですか?」

「そういうこと、しかも凛ちゃんがその気になれば自分自身で能力の成長訓練をすることもできる。独学だからどこまで行けるかはわからないけどね。

まあ、もし凛ちゃんが自分の力を使って大きなことをやりたいのなら、

ここ"カンパネラ"の構成員になることをオススメするぜ。優しい先輩方が凛ちゃんを一人前のミレニアムノアーにしてあげるからよ。もちろん、組織のために働いてもらうことにもなるけどな」


「・・・・・・・・・」

凛は黙って自分の頭のなかで考えを巡らす。しばらく考え、そしてついに席を立つ。

「えー、本日は貴重なお時間を頂いて、私のわからないことを丁寧に教えてくださり誠にありがとうございます・・・・・・」

場が固まる。凛は今、この部屋からの脱出を目論んでいる。そのための前口上で明石たちに気づいてもらいたい。自分はカンパネラの構成員になるつもりはないと。しかしこの時点で凛はもう心臓が破裂しそうだった。

明石が自分をとんでもない形相で見てくるからだ。はたから見れば感じないが、見られている人からすればその表情の険しさは尋常ではない。

(こ、この人は・・なんでこんなにわたしに執着してるの!?わ、わからないけど・・・もしこのまま帰ろうとしたらわたし、殺されちゃうのかも・・こ、こわすぎ!)

明石に睨まれた凛は言葉が出なくなっていた。あらゆる行動に要する勇気が削がれている。ヘビに睨まれたカエルのように凛はただ恐怖で固まるしかなかった。


(はあ、まったくこのバカは・・)

ウェンが見かねて明石を怒鳴りつけようとしたその時だった。

部屋の固定電話が鳴り出す、どうやらこの場にいないカンパネラの構成員からのものらしい。

アリスが電話に出る

「はい、アリスです・・・・はい・・・・そうですか、分かりました。こちらからは全員で向かいます。・・・はい・・」

どうやら何かあったらしい。これは凛にとっては好都合だ。なんといっても明石がこの場を離れなければならないらしい。凛はこの機を逃さずにここからおいとましたいところであったが現実は自分の思うようには運ばない。しかも凛にとって最悪の方向へと物事は運ばれていく。


明石がアリスの方を見るとアリスは仕方ない、と言った風に頷いてこう言う

「紫共会の残党が確認されました。各員は至急、中野区に出動し残党の殺害を行います」

明石はよし、と言うと今までの表情を一変して、まるで今から遊びに行くような感じで凛にこう言う。



「よし、来い、陸奥。お前に殺しの真髄を教えてやる。ここに入るかどうかの答えはその後に聞こう」

その時の男の目は驚くほどに猟奇的で、きらびやかで、澄んだものだと凛は感じた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ