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2013/4/5 香港

____2013年4月5日 中華人民共和国 香港


話は凛が男と出会う時より二週間ほど遡る。

香港は巨大な都市である。九龍湾沿いには高層ビルが立ち並び、中心街は昼も夜も人の熱気で溢れかえっていた。

余談だが香港映画のスター俳優のように香港に住む華人の名前が英語名+中華の姓

なのは、かつて香港が英国の植民地であったことに由来する。

高度な発音の分類、ピンインを必要とする中国語の人名はイギリス人にとってわかりにくいものであった。

日本人からしてみても陳(Chan)と張(Cheung)の発音の違いなどそうそうわかるものではない。

そういったことにより、イギリス人は香港に住む華人に英語名を名乗らせて人名の区別をわかりやすくした、という経緯がある。


とあるビルの最上階、その会議室において重要な集会が開かれていた。

そこには数人の男女が思い思いの席に座っている。

「全員、集まったようだな」

会議室、その最奥の席に座っている白髪交じりの、50代ほどの男がそう言うと

部屋にいるほかの者達は体を老人の方へ向ける。

「わざわざ全員をここに集結させたのにはそれなりの理由がある」

「これより香港を出て拠点を移す」


一瞬部屋がざわついた。そして1人が男に対して質問する。

「香港島を1ヶ月も立たないうちに手放す理由は?」

香港島とは一般的に「香港」と呼ばれる地域の一部で、沿岸部は都市部として香港の中枢を担っている。この会議に参加している者達はその香港島を「自分たちのシマ」として話を進めている。

緊張した空気の中、白髪交じりの男が言い放った言葉は至ってシンプルであった。

「もっといい場所が見つかった」

「それは一体・・・?」


「・・東京だ」

男は簡単にそう答えた。しかしそれを聞いた者達は信じられない、と言った様子で再びざわめき始めた。

「東京?、まず東京は我々の勢力範囲では無いですし、力ずくで手に入れようとしてもそれすら難しいところがあります」

「アリスちゃんの言うとおりだぜ、神山さん。それともアレかい?また俺らにとんでもない無理させようってか?」

神山と呼ばれた男が二人の質問に答える。

「最後まで話を聞け、ウェン。いいか、確かに普通、正攻法で東京を手に入れるなんてのは難しい」

「・・しかしな、今東京を"維持"している組織になら正攻法でも、いや、正攻法しか我々は知らないが・・

勝つことができる。我々の力を持ってすればな」

「どうしてだよ・・・」

「あの組織・・反動派の紫共会だが、最近内部分裂が極秘裏に起こっていたらしい」


「結局、頭領側が反逆した者たちを一人残らず始末したらしいが・・」

「あ、ひょっとしてその人員が欠乏している所を狙っちゃう感じ?へぇ~、そんないい情報を持ってきてくれるなんて、おっさんもちゃんと仕事してたんだぁ~」

1人、話を遮って全身真っ黒の奇抜な格好をした少年が声を上げ、

次に男の怒鳴り声が響く、その男には右腕が肩から無い。

「カラス!神山さんの話に割り込んでくるんじゃねえ!殺すぞ!」

「んー?別におっさんを馬鹿にしてなんかないよ?ドミ?むしろ褒めてるんだけど」

「そういう問題じゃあねぇんだよ・・!あと、俺のことは略さずに"ドミトリ"と呼べ!」

「・・・まあ、カラスの言う通りだ、向こう側の損害は凄まじく、

現状使い物になる戦闘要因は正規構成員が4人

我々は紫共会が人員を再び充足させる前に襲撃、東京を手に入れる」


「正規でと言うことは、フリーランスも雇っているということですか」

アリスと呼ばれた女が神山に問う。

「そうだ。たった一人だがな」

「ほう・・ずいぶん余裕らしいな・・もっとも、そのフリーランスは強者なんだろうな?」

着崩したスーツの男が神山に問いかける。

「それは情報がない。が、大したことはないだろう。私の踏むところでは」

「情報がないってことは経歴が浅いから大した奴じゃあないってことかな。

ま、気楽に行こ―ぜ、蒼人」

神山にウェンと呼ばれた青年がそう付け加える。


「・・行動開始は4月10日、アリスを除く各自は別行動で東京に移動し

こちらから追って伝える所定の場所で待機せよ。」

「全員の東京行きが完了次第、紫共会への総攻撃を命令する、詳しい戦略はそれまでに追って伝える」

「以上だ・・何か質問は?」


「・・・ええと、神山さん、一応聞いておくけど

詳しい戦略ってのはどこまで高度な戦術を要求される感じ?」

ウェンがそう問うと神山は、「わかりきってるくせに」とでも言いたそうな苦い表情で無言を貫く。

見かねたアリスが

「あなたはどこどこにいる誰々を殺して、きみはどこどこにいる誰々を殺して、これだけです」

と事務的に話す。

「あー、やっぱりそういう感じ?」

「我々の伝統です」

「悪習だよ、悪習」

蒼人と呼ばれた男がすかさず突っ込む。

「いつも言ってるだろ、綿密な戦略を建ててから俺たちに指示を出せと。お陰でいつも情報の少ない現場ですべてを判断しなけりゃいかないんだぞ」

「蒼人、オメェはわかってねぇな、このシンプルかつ大胆な意思表示を含んだ命令を。そんなんじゃあいつまでたっても神山さんの信用は得られねぇぜ?」

ドミトリがアリス(神山?)を擁護する。


「・・もういいか?では諸君、我らカンパネラにおける目的のために」

「各自の一層の努力を期待する」



____2013年4月27日 東京


凛があの日、男にあってから一週間がたった。あの日、男に腕を掴まれ、恐怖の中で目を閉じていると、ふいによく聞きなれた街の喧騒が聞き取れた。目を開けてみるとそこには大勢の人が大通りを歩いている。その時の時間はなぜか夕方まで戻っていた。凛は驚いて周囲を見回してみたがあの男は自販機でタバコとジュースを買って、自分の方に歩いてきていた。

「おう、さっきは驚かせてしまったな、お詫びだよ」

そう言われて缶のエナジードリンクを渡される。

「あ、あなたは・・一体・・」

「今君にそれを言うことはできない」

「だが、そうだな・・一週間後だ、一週間後、千代田区にあるムラサキタワービルに、12時頃来てほしい。その日なら俺も予定が空いてるだろう」

「な、なんでですか・・」

「そこは俺の仕事場だよ。新しい職場なんだ。そこでなら君が聞きたいことも俺はなんでも答えることができるし、俺も君に聞きたいことがある。とにかく君にはぜひ、そこを訪れてほしい」


この時、凛はこう考えていた。

わたしはこの男の人のせいで訳の分からない、恐ろしい目にあった。

もうこの男の人と関わるようなことはやめよう、危険すぎる、いつ自分も襲われるかわからないのだから。今は男もこうやって優しそうに接してくるが、途端に態度を逆転させてわたしを脅してくるかもしれない。

無理もないが、凛の思考はこの男に対する警戒心でいっぱいだった。

「・・・考えときます」

凛はそう言うとそそくさと立ち去ろうとする。

そんな時に男はこういった

「一週間のうちは君の安全を全面に保証しよう」



「ただし、それより先はわからない。突然、君をさらう人間が現れても、俺は一切関与しない」


これが一週間前の話である。



礼子は放課後、凛を迎えに行く前に公彦と2人で話をしていた。

「なあ、最近の幼なじみの様子はどうだ?」

「へ?幼なじみ?んーそうやな、「その花」以来ろくなモンが出てへんな。今のはさっぱりあかんわ」

「バカ、誰がアニメの話しろって言ったんだ、お前の幼馴染のことだよ」

「あ、凛ちゃん?・・・ああ!たしか最近様子が変で礼子に言わなアカンなあって思っててん」

「やっぱりそうか?アイツ、どうも元気が無いと思ってたんだ」

「うーん、勉強についていけてへんとか?

それやったらいつでも俺を頼ってくれって言っとるんやけどなあ」

「どうする?今日、本人に直接聞くか?」

「うーん、あれで凛ちゃんは結構デリケートな心の持ち主やからなぁ、さりげなーく聞いてみるか?」

「ああ、そうしよう」

2人はいつも凛が待っているはずの教室に赴く。


2人が考古史学科のホームルームに来た時、凛の姿はなかった。

2人は凛のクラスメイトに彼女の動向を聞いたところ、どうも午後の授業の時点ではすでに欠席をしていたらしく、これは明らかにおかしいと思った2人は親友の身を案じて、彼女が居そうな場所をくまなく調べることにした。



凛は午前で学校を出てから、例の男に言われた高層ビルの一階に足を踏み入れる。

怖くないはずがなかった。いくらあの男が自分の安全を保証するといってくれても、

このビルの階をエレベーターで上へ上へと登っていくたび、心は締め付けられるような思いだった。

もし自分がもう一度あの男と会ってしまえば今度こそ後戻りができないような、そんな予感が頭をよぎっていた。

そして凛はついにビルの最上階、男に指定された部屋の前に到着する。


「ここが・・・」

はじめ、凛は男がいうビルとはボロボロの、それこそ危険な団体が事務所にしているような、いかついものを想像していた。

だが実際はどうだろう、場所は都心、周りは高層ビルが立ち並ぶ整備の行き届いたところである。

ビル自身も立派というほかなくどんな大企業が部屋を使っているのだろうと思ってしまうほどにきれいなものだった。

もちろん今、凛が立っている最上階の廊下もただの廊下ではない。ピッカピカの大理石である。

(あの人・・・一体何もんなのよ・・)

(てゆーかなんでここに入ってから誰にも会ってないんだろ・・)


そんなことを考えながら、重厚なドアの前をウロウロしていると、後ろから女の人から声をかけられた。

「あら、お客さんかしら?」

「え!?あぁっ!ええと・・」

「?・・・ああ、きっと明石くんが言っていた子ね?ようこそ、カンパネラへ。あなたを歓迎します」

「あ、ど、どうも・・」

「さあどうぞ、中へ」

「は、はい・・失礼します・・・」

突然のことに戸惑う凛だったがこのまま自分だけでは状況を動かせないと思っていた彼女にとって、この女性が声をかけてくれたことは幸運だった。

(あの男の人の仲間?ええと、明石っていうのはあの男の人の名前だろうけど・・)

(それにしても・・・きれいな人だなぁ・・)

自分が歓迎されていると言われれば、大抵の人は気が緩んで相手に心を許してしまいがちだ。

凛もその例に漏れることなく、こんなことを思えるようにはなっていた。

実際、危機的な状況の凛に手を差し伸べてくれた女性は凛が雑誌でよく見るモデルの人達よりずっと綺麗な人物だった。



凛は女性の後について部屋に入る。そこには複数のソファやデスク、本棚などが設置されていて

その中に2人ほどの人間がいることを確認した。

そしてその中の一人、凛が唯一ここに来る前から知っていた人物に視線を向ける。


「明石くん、お嬢さんをつれてきたわ」

「・・・フフ、待っていたよ」

「・・・・・・」

凛は男と対峙する。恐怖からか、自分から言葉が出てこない。

「ようこそ、ここは世界を動かす場所、世界を動かせる者達が生きる場所だ」

「・・おっと、自己紹介が済んでいなかったな、俺は明石蒼人、君は?」

「陸奥凛・・です・・」

「陸奥・・キミは・・ここになぜ呼ばれたか、

今の状況だけではわからないと思うが・・・」



「君は我々の仲間になれる、世界を動かす者達の仲間に。

・・君の意志次第でな」



 

改稿しました

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