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反抗声明  作者: みざり
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そして、暴虐は日常となる




 レーヴェは思う。両親が死に、自分は奴隷となった。

 ついこの間まではそこが絶望の底なんだと思っていた。

 そう、過去形である。確かに両親の死は悲しいものだし、両親を殺した鎧を思い浮かべれば胸の奥で憎悪の炎が吹き上がる。

 主人であるトゥーリ様のことは憎んではいるが、同時にトゥーリ様がいなければ自分はどうすることも出来ずに、全てを諦めたままだったから少し感謝もしている。



 だが特訓は地獄だった。

 トゥーリ様の攻撃は一撃一撃は軽かったが的確に急所を狙ってくるから、どの攻撃も当たれば一発で終わりになる。

 けれどあの人は回復魔術が使えた。痛みに悶えようが、骨が折れようが、内臓を傷付けようが全て癒してくれた。

 それだけ聞けば、良い人のように思えるかもしれないけれど、傷を付けたのもトゥーリ様であったし、傷が癒えれば再び特訓という名の暴力に晒された。


 私の体力の切れるまで(体力までは回復魔術でも回復できない)、延々と殴る蹴る、骨を折るといった暴力を受け続けた。

 絶望の底がないことを噛み締めていた私に、特訓が一週間過ぎた頃にトゥーリ様は言ったのだった。


 『良いですか、レーヴェ。こうしてアナタを鍛えているわけですが、別に毎日、無意味に追い詰めているにわけではないのですよ?』

 『命の危機に瀕するほど生物は本能から強く抵抗するんです。だから、こんな風に追い詰め続けて、アナタの体に覚えさせているわけです』

 『現に昨日は一昨日よりも、今日は昨日よりも、確実に動きが良くなっていますよ。あとは毎日、倒れるまでに体力を使っているから、体力の底上げにもなってますし』


 私は首を傾げたが、護衛の人も頷いていたから間違ってはないのだろう。

 自分が成長していることに少し嬉しくなったが、次の瞬間には血を吐いて倒れたことでその気持ちもどこかに行ってしまった。



 そうして地獄はトゥーリ様が実戦を経験しても大丈夫だと判断するまで、実に1ヶ月ほど続いたのだった。




* * * * * 




 ~レーヴェの特訓・ダイジェスト日記風~



 一日目


 ご主人様になったトゥーリ様が鍛えてくれると言った。

 先日のこともあって怖い。

 しかし、震える私に拳や蹴りが撃ち込まれる。

 なんとか防ごうとしても吹き飛ばされ続けた。

 動けなくなり地面に倒れてからトゥーリ様を睨むと、ニコニコとして気にした様子がなかった。

 近くにきたトゥーリ様が何か言っていたが、眠くて聞こえなかった。

 けれど頭を優しく撫でる手が気持ちよかった。



 二日目


 昨日よりも酷いものだった。

 トゥーリ様がすぐに間合いを詰めてきたあと足払いを受けて、その日の特訓が終わるまで、つまり私の体力がなくなるまで立たせてもらえなかった。

 足払いのあと、ずっと踏まれ蹴られを繰り返した。

 気付いたらベッドでトゥーリ様の抱き枕にされていた。



 三日目


 今日は昨日のようにされないために足払いに気を付けていたら、踵落しを受けた。

 倒れそうになったところで、今度は顎を蹴り抜かれた。

 そのまま、何度となく繰り返された攻撃に倒れることすら許してもらえなかった。

 意識を失う最後に感じた地面に少し安心した。

 今日も気付くとトゥーリ様に抱き枕にされていた。



 四日目


 今日は足払いも踵落しも受けることはなかったけれど、トゥーリ様の拳を防ごうとした腕の骨を折られた。

 ブランと動かなくなった腕に呆気に取られたが、トゥーリ様が折れた場所に攻撃をしてきた。

 痛みのあまり悲鳴を上げたが声にならなかった。

 次の瞬間には何事もなかったように痛みも消え、特訓が再開した。

 今日だけで十回近く骨が折れた。

 意識を失うことはなかったが、やはり抱き枕にはされた。



 五日目~十四日目


 この間はそれまでと似たように、一方的な展開が続いた。



 十五日目


 今日吹き飛ばされずに、骨を折られることもなく、トゥーリ様の攻撃をちゃんと防げた。

 回避は最近できるようになっていたけれど、防げたのは最後の一撃だけだけど初めてだった。

 ただそれを見て、笑っていたトゥーリ様がとても怖かった。

 やはり抱き枕にされ続ける日々は続いている。



 十六日目


 トゥーリ様が特訓の段階を一段階あげると言った。

 ただ防御し続けろと言われた。

 言われた通りに構えて防御しようとした。思ったよりも遅い攻撃だったから安心したが、受けてみて分かった。

 ちゃんと防御できないと、死んでしまうかもしれないことが。

 一撃で防御していた腕が弾かれて、もうすでにトゥーリ様は次の攻撃を構えていた。

 一日の特訓が終わる頃には顔は真っ赤になっていた。

 死ぬかもしれないという恐怖から汗で服が肌に貼りついて気持ち悪い、腕もジンジンとしびれていた。

 息を荒げる私を見て、トゥーリ様が「失敗したかもしれません」と微妙な顔で言っていたが何だったんだろうか?



 十七日目~二十四日目


 防御の習熟に当てられたため、大きな変化はなかった。



 二十五日目


 この日から防御も及第点には届いたから、攻撃に関することを教えると言われ、色んな武器を見せられた。

 なるべく使いやすいのを選ぶように言われた。

 父の使っていた長剣を手に持ってみた。するとトゥーリ様にいくら魔力による強化があっても体格に合わない武器はやめたほうが良いと言われた。

 それでも未練の残る私は、もし復讐をしたいなら完璧に扱える武器にするべきだと言われ、仕方なく諦めた。


 結局、私は杖を選んだ。

 他の武器も見てみたが、どうにも剣などは合わなかったからだ。


 その日は杖の基本的な扱い、振り下ろし、払い、突きを教えてもらったあと、ずっと的に向かって、その動きを繰り返すだけだった。

 これまでに比べれば楽だと思っていたが、そんなことはなかった。

 振り下ろしからの突き、突きからの払い、払いからの振り下ろしとトゥーリ様の言う通りに繰り返していったが、回数を重ねるごとに集中できなくなり間違いが増えてきた。

 間違えるたびにトゥーリ様は「十回追加です」と言う。

 結局、私の体力が尽きるまで終わることはなかった。



 二十六日目~三十日目


 突き、振り下ろし、突き、払い、振り下ろし、払い、振り下ろし、突き、払い、払い、突き、振り下ろし、振り下ろし、突き、払い………と延々と繰り返されている。



 三十一日目


 特訓が終わったあと、トゥーリ様にそろそろ攻撃も形にはなってきたと言われた。

 なので次の段階に進むと言った。

 しかし、次と言われても何をするかわからない。

 基本的な動きをやってきたから応用でもするのかと思ったが、トゥーリ様はどこまでも無邪気な笑顔を浮かべ、


 「次は実戦です!」


と声高らかに告げた。




レーヴェが剣を選ばないのは、両親を殺した鎧が剣を使っていたからです。

本人は意識していませんが。


杖は〈つえ〉ではなく〈じょう〉とお読み下さいませ。

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