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反抗声明  作者: みざり
22/29

大侵攻



 ひどく懐かしい夢を見た。ひどく歪んでいた、あの人の夢。


 あの人は人間が大好きなくせして、大嫌いだった。

 人は美しいと思うんだ。人が人を憎むさまはどこまでもソイツしか見ていない、何とも一途だろう? そう言って泣いていた。

 人は醜いと思うんだ。人が人を愛するさまは縛りつけようとしているようで、何とも見苦しいだろう? そう言って笑っていた。


 アナタは実に歪んでいるね、と言うワタシにあの人はただ笑うだけだった。

 あの人の側は居心地が良かった。例え、ワタシが何であろうとあの人は受け入れてくれたから。




* * * * *




 目を覚ます。まだ夜は深く、レーヴェもクテルもまだ寝ています。

 ぼやけたままの頭で、懐かしい夢を見たものだと思う。

 きっと眠る前のことが原因でしょう。


 あのあと、レーヴェは答えを求めませんでした。


 「私はまだアナタを嫌いでいたいから、ですか……」


 ベッドから抜け出し、窓に近付きます。

 月明かりが部屋を冷たく照らしています。


 「間違ってないと思いますよ、その答えは」


 誰に言うでもなく、独り呟きます。

 ええ、きっと間違ってないのでしょう。私はあのとき求められれば応えたでしょうから。

 そして、一度でも触れてしまえば離れがたくなるから。


 誰も彼も、この世界は歪んでいるのでしょう。

 無駄と知りながら剣を捨てられなかったザッカートも、敵わないと知っても復讐を誓うレーヴェも、死ぬしかないと知り生にしがみついたクテルも、そして人の弱さを知っていながら抗うことを求める私も、皆みんな歪んでどこか狂っている。


 「あの人はこんな世界でも受容するのでしょうねぇ……」


 夢のせいでしょうか、自分がひどく脆くなってしまった気がします。

 月の光を遮るように手をのばします。


 「けれど、この世界には私がいるだけで、アナタ達はいないのですよ?」


 掴めるはずもない月を握りしめる。


 「私がこの世界に生まれた意味があるのかなんて知りませんが、まだまだ楽しみたいことがあるのです。だから、動物よろしく目先の楽しみを喰らい尽くすとしましょう」


 ふたたびベッドに横たわり、眠りにつく。

 隣で眠るレーヴェとクテルを抱きしめつつ、明日の楽しみに思い馳せながら。




* * * * *




 「大侵攻の予兆が見受けられます」


 朝からギルドに行くと、アイリールさんからそんな言葉を告げられました。

 大侵攻とは魔獣の異常繁殖のことで、爆発的にその個体数を増やしたことで、餌の足りなくなった魔獣が餌を求め、大群となってあちこちに攻めこむことです。


 「魔獣の種類は?」


 大侵攻自体は珍しくありません。ただ大侵攻を起こす魔獣によって難易度が変わってきます。

 例えばゴブリンならば八級の冒険者から受けることができます。しかし、これがオーガなどになると難易度は跳ね上がり、五級以上が依頼受理の条件になります。

 なので、大侵攻が予想されるときは、まず魔獣の種類を知らなければなりません。


 「亜竜です」

 「………」

 「はぁっ!?」

 「えっ?」


 亜竜は竜種の中で最も力の弱い存在ではあります。しかし、強力な個体の多い竜種であることは変わりなく、人間よりかは遥かに強い存在であることは確かです。

 公爵領は終わったかもしれないと他人事のように思ってしまいました。

 現実逃避気味の思考を戻します。声こそ上げませんでしたが内心はひどく混乱していました。他も驚いていましたが、クテルだけはいつも通りですね。


 「この情報、他に知っているのは?」

 「ギルド長がすでに公爵様に上げているはずです、他には箝口令をしいてありますが、時間の問題でしょうね」

 「そうですね、亜竜の大侵攻など通常等級の冒険者では手に負えません」

 「トゥーリ様は等級外が来ると思われるのですか?」

 「恐らく家からもグゥ爺がでるでしょうし、国の子飼いが一人、二人は来るんじゃないでしょうか」


 まぁ、グゥ爺が投入するのは亜竜が公爵領の目と鼻の先ぐらいに近付いたときだけになるでしょう。

 間違いなく公爵家最高戦力にして、最終兵器ですから。


 「グガール・ベルべディア様ですか?」

 「はい、引退したとは言え、元等級外の冒険者ですから、亜竜に遅れを取ることはないと思いますよ?」

 「いえ、そちらではなく。国の子飼いは王家の管轄ですよね?」


 ああ、王家が悪徳貴族と名高いトラバリン公爵家に助けを寄越すか、という心配をしているのでしょう。

 けれど、今回に限れば心配することもないでしょう。


 「詳しくは話せませんが大丈夫だと思いますよ?」

 「そうですか、トゥーリ様が仰るのなら間違いもないでしょう。では、今日は何のご用件で?」

 「今日は良いです。亜竜の件もありますから」


 そう言って、私は席を立ちます。

 アイリールさんが意外そうな顔をしていますが、気にすることなくギルドを出ました。


 「依頼、受けなくて良いんですか?」


 ザッカートが尋ねてきます。

 私は呆れた様子をザッカートに向けます。


 「……そんなわけないでしょう。今から亜竜を少し狩りに行きますよ!!」


 力強く宣言する私に、レーヴェもザッカートも、やっぱりかといった様子ですが、クテルは何やら楽しそうにはしゃいでいます。



 では、竜殺しと洒落こむとしましょう。



 



9月入ったら、毎日更新は厳しいかもしれません。

ここまで読んで下さった方に感謝を。



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