愛憎の妖精
やはり短いです
あのあと『獣天咆哮』の音を聞きつけやって来た盗賊達を、さらに『獣天咆哮』で挽き肉に変えると、盗賊達のやって来た方向に歩みを進めました。
何やら牢屋でしょうね、捕まっている女性がいました。大方、奴隷としてでも売るつもりなのでしょう。
ここの盗賊達、案外やり手だったのは本当のようでした。捕まっている女性の身なりは貴族ほどではありませんが良かったので、大きな隊商でも狩ったのでしょう。大きな隊商だと護衛も強く、というよりは多くなりますからね。
しかし、失敗でしたね。この女性達は大体十人ほどですが、殺しても賭けの対象にはなりません。
来る方向、間違えましたねぇ。
この女性達はギルドの方で任せて、放っておきましょう。アイリールさんに任せておけば、悪いようにはしないでしょうし。
来た道を戻り、盗賊達の来たもう一つの方へ進みました。
* * * * *
トゥーリ様がやったと思う音が止んだ。途中で近付いたと思ったら遠ざかっていったから、きっと別の道に行ったんだと思う。
とりあえず、そのまま食堂に進むと盗賊達がたむろしていた。
さっきの音が何だったのか話しているようだ。
かなりの数がいるから数えるのが面倒だ。けれど、この数になると私は接近戦だと厳しいから数を減らそう。
『轟天牙咬』
風属性の上位で雷の魔術、私の持っている魔術の中で一番範囲の広い魔術。
その名の通り牙で挟み込むように、雷が上下から盗賊達を襲う。
『轟天牙咬』は面の攻撃で威力は、そこまでなかったりする。それでも防御しなかったら、十分殺せる威力はあるけれど。
念のため、全員殺したかを何人いたかを数えながら見ていく。
部屋の中心辺りに来たとき、後ろに気配を感じて振り向くと、刃が私に迫っていた。
* * * * *
私がもう一つの道を進んでいると、何か焦げるような臭いがしていました。
少し歩みを速めていけば、一つの部屋に辿り着きました。
そこで私が見たのは、赤く染まったレーヴェの姿でした。
もちろん、盗賊の血で、ですが……。
「うわぁ、汚いですね」
「しょうがないんです、躱す余裕がなかったから」
盗賊は殴られた頭が弾けちゃってます。相変わらず、エルフにあるまじきパワーファイター振りです。けれど躱すのが難しかったのは本当のようで頬に刃がかすった跡があります。
「治しましょうか?」
「ん、大丈夫です」
なんとも強くなったものです、なんてしみじみ思いましたが、ここに何人いたのか聞いてませんでしたね。
しかし、聞いてみるとまだ数えてた最中だったようです。
そんなわけでレーヴェが数え終えるまで待って聞けば、五十人ほどだったようです。
これで過半数は片付き、私が殺したのは三十人ほど。ザッカートが殺していると考えれば、もう砦には盗賊も残っていないでしょう。
一応、確認も含めて砦をレーヴェと二人で歩きます。
「たぶんですが、今回の賭けはレーヴェの勝ちでしょう。何か欲しいものとか、して欲しいことはありますか?」
「……考えてなかったです」
「そうですか、焦る必要もないのでゆっくり考えると良いですよ」
そのあとザッカートと合流して、彼も三十人ほど殺したとのこと。歩き回っても見つからなかったのでこれ以上は無駄と判断して、引き上げることにしました。
* * * * *
「お願い、何にするのか決めましたか?」
その日の夜、再度、レーヴェに尋ねました。
まだ幼いクテルはすでに夢の中です。私とレーヴェはクテルを挟んで、ベッドに横たわっています。
「私は父と母の仇を討ちたいです」
今さら言うまでもないことですが、レーヴェの一番大きな目的はそれでしょう。
「けれど、この子が来たときにわかったんです」
レーヴェの瞳はクテルを捉えています。私は黙ってレーヴェの言葉を待ちます。
「私は……、アナタが嫌いです、大嫌いなんです。でも、それと同じぐらい好きなんです、愛しています」
「私は、自分がわからない。アナタのことが嫌いだと思ってたのに、気付けば、この子に嫉妬してた」
この娘を私が縛った言霊は『愛憎の妖精』。
愛と憎しみを相反するものだとよく人は言いますが、私は違うと思っています。裏表のようにはっきりと区別できるものではなく、どうしようもないくらいにグチャグチャに混じりあっているんだと思います。
だから、きっとこの娘が言う言葉だっておかしくはないのでしょう。
キライでスキで、ダイキライでアイシテイル、そんな矛盾しているようで、どこまでも正しい心の在り方。
「ねぇ、アナタは私が求めたら答えてくれますか?」




