クテルの能力
「……んぅ」
「起きましたか?」
現在、ワイヤーで縛られているクテルを膝枕しています。
男としては逆な気がしますけどね。クテルの体格でそれを求めるのも少し厳しいですから、今度にでもレーヴェにさせましょう。
「ぁう、うあ」
私に気づいたクテルが顔を真っ青にしました。
おや、どうも暴れたときの記憶はあるようです。制御するために特訓が必要かと考えていましたが、案外、必要ないかもしれません。
「ご、ごめ、ごめんなさい」
「ふぅん?何を謝っているのです?」
「だ、だってアタシ、トト様に」
この娘、どうにもトゥーリが言いづらいらしく、私のことをトト様って呼ぶんです。なんというか年下の女の子に父様と言われているみたいで、こう、むず痒く感じますね。
おっと、今はそんな話ではありません。
「あはっ、私としては褒めたいくらいなんですがねぇ」
「……なんで?」
目に涙なんか貯めて、ゾクゾクしてしまいそうです。
大体、私が自分でやったことに対して、そのことで他人を責めたりはしません。
それに、何より―――
「言ったじゃありませんか。アナタの能力が使えるなら、アナタをより愛す、と」
―――私は約束は守る主義なんです。
ワイヤーを解き、クテルを抱きしめて告げます。
「アタシは、使えますか?」
「ええ、とても素晴らしいものでした」
「アタシは、捨てられませんか?」
「アナタを捨てたりしませんよ」
「アタシは、愛してもらえますか?」
「アナタは約束通り、私に抗えると示しました。ならば今度は私が約束通り、アナタを愛しましょう」
アナタは生を求めて抗いました。次は愛を求めて抗うのでしょうか?
アナタが私に愛を求めると言うならば、私はいくらでも与えましょう、注ぎましょう、捧げましょう。
そして、その愛を鎖として、首輪としてアナタを縛りましょう。
そのあと抱きついたクテルの力が予想以上に強く、魔力も足りないので強化も出来なくて、洒落にならないダメージを負うことになるのは、割りとどうでも良いお話。
* * * * *
「さて、今回で分かったクテルの能力について話していきましょう」
「はぁ、と言われても私達には理解できてないんで、どうしようもないですよ?」
ザッカートがそう言ってきますが、最初から分かっています。今回、クテルの能力を話すのは別に目的があります。
「そんなことは分かっていますよ。クテルの能力を話すのは、仲間内での情報の共有も兼ねているので聞いているだけで良いです」
「それなら分かりました」
レーヴェも頷いているので問題ないでしょう。レーヴェは案外バカですからね。なるべく確認しておかないと理解しないで放置することになってしまいますからね。
「では、話しますね。クテルは基本的に二つの能力を所持しているのでしょう。一つはザッカート達にも見てとれたように、あの黒靄です」
「あれは何です?トゥーリ様の言霊を消してましたけど」
「ええ、あれは恐らく魔術の無効化、正確には一定以下の魔力の無効化と言ったところでしょうか」
私の言霊による重力制御は『火炎槍』の魔術と比較すれば、おおよそ十倍程の魔力を使用しています。通常の上級魔術と同程度の魔力使用量です。
次に空間制御による防御は重力制御の二倍程、空間破壊による攻撃は防御の五倍といったところです。
ちなみに時間停止は空間破壊の百倍の魔力を毎秒ごとに使用します。
考えるに重力制御を消すまで若干の時差があったので、あの黒靄を突破するには通常の上級魔術の五倍の魔力が必要ということになります。
ひとまず黒靄に対する見解を述べた、ザッカート達の反応といえば―――
「上級の五倍って、普通に禁呪が使えるじゃないですか」
「……私は絶対に無理」
「厳しいのは確かですね、ザッカートも禁呪は使えますけど、殺しきれないでしょうね。レーヴェは論外ですね」
「トト様、アタシすごい?」
抱えたままのクテルをすごい、すごいと頭を撫でつつも、話を次に写しました。
「まぁ、味方なのでそこまで必死に攻略法を考える必要もありませんから、次に移りましょう」
「見た感じじゃ、あの身体能力ですよね?」
「そうです。でも、あれは実は身体強化も掛けてなかったんですよね」
「じゃあ、素の身体能力だったの?」
そこが疑問に思うところでしょう。しかし、あれは純粋に素の身体能力でもなかったのですよね。
「半分くらいは素だと思いますよ」
「その、半分というのは?」
「ザッカートも、レーヴェも私が何を造ろうとしたか覚えていますか?」
クテルは見た目はまんま幼女だから忘れているかもしれませんが、私が造ろうとしたのはキメラです。
「ああ、キメラでしたね」
「そう、魔獣であるキメラです。魔獣の」
魔獣は基礎能力からして人とは格別しています。なので、戦闘時に見せたクテルの身体能力は素の部分があるでしょう。先程も抱きつかれただけで、殺されかけましたし。
しかし、それだけでもないでしょう。戦闘時のクテルには体に変化がありました。
獣耳が生えていました、獣耳です。
好きな時に生やせるようにして欲しいですねぇ。私、動物好きなんですよね。
話が逸れました。
確証はないですが、蠱毒の際に死んだものの特徴が出ているのだと思います。
蠱毒終盤のときのような密度で負の魔力が発生していれば、人間でも体調が悪くなりますし、犬ぐらいまでなら余裕で死ぬことになるでしょうから、獣の特徴が出ても驚く程でもありません。
せめての救いはクテルがムキムキな筋肉のついた体にならなかったことでしょう。
これも確証がないですが、自分とは違う種族の特徴が表に出たのでしょうね。たぶんですが、戦闘中は見えなかっただけで瞳や爪なんかも変化して、尻尾も生えていたんじゃないかと思います。
見えなかったかとレーヴェ達に尋ねてみますが、
「見えなかったですね、あれだけ速いと難しいです」
ザッカートはそう言います。レーヴェに関してはただ首を振るだけです。
「そこからは、これから確認できるようにすれば良いでしょう。今日は終わりましょうか」
「あれ、もう終わるので?」
「ええ、予想以上に魔力を使っちゃいましたから」
「それはまた……」
ザッカートは驚いた様子ですが、レーヴェはほっとした様子ですね。
こうなってくると少し苛めたくなりますね。
「思った以上に早く済んだので、レーヴェの相手をザッカートがしましょうか」
「えっ」
「そういえば、レーヴェの相手は私がしてたので、ザッカートとはさせてませんから、ちょうど良いですね」
自分で言っておいてなんですが、レーヴェ対ザッカートというのは見たことがないので、見る価値はあるでしょう。
「うん、半分くらいは冗談で言いましたが、案外良いかもしれません。……ということで、やってください」
「言われたなら、やりますが。……どこまでやって良いので?」
「そうですね、禁呪さえ使わなければ大抵のことは良いですよ」
「わかりました。……というわけで、嬢ちゃんの相手になるぜ」
わかった、と告げるレーヴェにはさっきよりも余裕があります。まぁ、私とするときは禁呪も使いますからね。
どこまで保つか、楽しみですね。
なんてことを考えながら、クテルとともに二人の戦いを見始めました。