トゥーリ・トラバリンの切り札
いつもより気持ち多め
「では、クテルの能力を見なくてはいけませんね」
「能力って、なに?」
「??」
話したのは私、レーヴェ、クテルの順でした。
クテルに関しては朝食のパンをくわえたまま、首を傾げているので話してはいませんが。
「魔術と違って、魔獣の使う力を能力と言います。どちらも魔力を使うのですから、分ける必要もないのでしょうけど、そこは人の気持ちの問題でしょう」
「ふぅん?」
「??」
分かったのか、分かってないのか、曖昧な反応を示すレーヴェに、口をモグモグとさせているクテル。
……クテルは理解していませんね。というか、まともに食べてなかったのに、あれだけの量をよく食べたものです。内臓も強化されたのでしょうか?
「……まぁ、良いです。とりあえず、クテルは何かしら魔術のようなものが使えると考えてください」
諦めて、そう告げる私にクテルは飛びかかりました。
大した重さもないので軽く受け止めましたが、礼儀も教えないといけないかと悩む私に、どこまでもまっすぐな目をしたクテルが聞いてきます。
「それが使えれば、アナタはアタシを愛してくれますか?アタシを置いていきませんか?」
この娘は親に捨てられ、あの貧民街で暮らしていたのです。きっと愛に触れたことがなかったのでしょう。
だからこそ、赤子のように愛に飢えていたこの娘には、私の言霊は強く縛りつける鎖であると同時に、初めて与えられた愛情でもあったのでしょう。
ならば私の答えは一つしかありません。
「ええ、アナタが能力を使えれば、私はより一層アナタを慈しみましょう。アナタがより求めるなら、さらに強く応えましょう」
強く、強く抱きしめながら言葉を吐き出します。
例え、どこまでも歪んで対価を求めるものだとしても、これも愛の形だと思うのです。きっとこの娘は与えれば与えただけ、応えてくれるでしょうから。
* * * * *
さて、ザッカートを呼び出し、ちょっと前までレーヴェをしごいていた練兵場にやって来ました。
「懐かしいですねぇ、半年ぶりぐらいですかね?どうです、また鍛えてあげましょうか?」
少し顔の青いレーヴェに問いかけますが、残念ながらレーヴェは拒否してしまいました。
まぁ、今回はレーヴェではなくクテルのために来ているので良いですが、時間が余ったらレーヴェも見てみましょう。
「トゥーリ様、何をするか聞く前に来てしまったので何をするか、教えてもらっても?」
「クテルの性能実験ですよ。何が出来て、何が出来ないのかを見るためのね」
「性能実験ですか、……どうするんですか?」
「ひとまず本人が認識出来ているなら問題はないのですが、出来ていないなら本能を刺激する方向で行こうかと」
微妙な顔をしているザッカートですが、最初から分かっているならともかく、分かってないなら無意識に使うように仕向けるのが手っ取り早いのです。
「クテル、何か出来そうですか?」
「ん~?」
「無理そうですね」
どうやら最初から自分の能力を認識できているような都合の良いことはないようです。
「仕方ありません。クテル、せめて一撃で死なないようにしてくださいね?」
私の言葉に戸惑っているクテルに向け、魔術を放ちます。
わかりやすい脅威を見せるためにも、火属性の魔術を使います。
『火炎槍』
鉄板くらいなら余裕で溶かし貫く熱量をもった炎の槍です。躱しても、爆発して被害をもたらす優れものです。
クテルは放たれた『火炎槍』にどうすることも出来なく、立ち尽くすだけでした。
無理だったかと思い、魔術を消そうとした瞬間、クテルの周りを黒い靄が覆い、魔術を喰らいました。
黒い靄の中から、クテルが飛びかかって来ました。先程とは違って、明確な殺意をもった一撃です。
魔力を解放し、身体強化と感覚強化を全力で発動、なんとか躱すことに成功しました。
『危ないですね。魔力反応はなかったはずですから、素の身体能力ということになるんでしょうが、どっちにしろ化け物です、ね!!』
「ガウッ!!」
獣のような一声とともにクテルが間合いを詰めてきました。……よく見ると獣耳が生えてますね。
なんとなくですが、クテルの能力が見えてきましたね。
久しぶりに良い運動になりそうですから、少し遊んでから止めることにしましょう。
『潰れろ』
言霊による重力攻撃も一瞬、足を止めただけ。
割りと強力なはずですが、やはり黒い靄に飲み込まれるように消えました。
『これが効かないとは少し驚きました。なら、これはどうでしょう?』
『捩れろ』
「グルァッ」
莫大な魔力による言霊は、魔術によって体系化される魔法そのものです。
魔術よりも単純な事象しか引き起こせません。けれど、単純故に強力な効果をもたらすことも出来ます。
例えば、空間が捻り曲がるような、魔術では不可能な事象のことです。
『アハハハハハッ!!今のを躱しますか!?』
「「「ガァァァッ!!」」」
クテルが何重にも重なって聞こえる不思議な叫びを上げたと同時に、黒い靄が私に襲いかかります。
『歪め』
空間を歪めて防御しようとしますが、歪んだ空間ごと飲み込まれました。
『やはり魔術無効化ですかね?厄介な能力ですね』
『壁となれ』
練兵場の土を隆起させ、壁にしました。魔力で生み出したわけではないので、黒い靄では消せないはずです。
壁の向こうからドンッと音がすると同時に壁が砕けました。
『まさか素手で砕きますか!?』
「ガルッ」
壁を砕かれたことに驚いた一瞬を突かれ、懐に入られました。
クテルの方が私より小さいので、懐に入られると防御もままなりません。絶体絶命と言ったところでしょうか。
使う気はなかったのですが、死ぬわけにもいけませんから仕様がありません。
『止まれ』
言霊が発動するとともに音が消えます。
それだけではなく、全ての事象が止まりました。クテルも飛び込んだ体勢のままで固まっていますし、レーヴェも、ザッカートも驚いた表情で固まっています。
『止まれ』という言霊は他の言霊とは一線を画したものです。効果はお分かりの通り、時間停止です。効果範囲は大体、練兵場全体ぐらいでしょう。有効時間も一分もたないほどに魔力の消費が桁違いです。
正しく私の切り札と言えるものでした。これを引き出したのだから、あとでクテルを褒めなくてはいけませんね。
その前にクテルを沈めましょう。時間停止が終わったあとに暴れられたら、さすがに死ねますから。
思いっきり顎を殴り、脳を揺さぶります。
『抽出・圧縮・硬化・形成』
練兵場の土から砂鉄を抽出し、圧縮、硬化して、ワイヤー状にしました。これは千切れないと信じたい。
ひとまずクテルを縛り上げて、良しとしましょう。
時間停止が終わりました。気づくと倒れ、縛られているクテルにレーヴェも、ザッカートも驚いています。
「あぁ、かなり疲れました。けれど成果としては十二分ですね」
トゥーリはあくまで最強の一角程度です。
決して無敵でもありません。




