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反抗声明  作者: みざり
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孤独の混合獣


 かぽーん、なんて鳴りはしませんが、気分としてはそんな感じです。

 今は夏で、暑さは魔術で緩和できますけれど、座禅を組んでいる最中は魔術の効果も切るので、どうしても汗をかいてしまいます。なので、こうして朝から汗を流せるのはありがたいことです。


 動けないクテルの体を洗うと、あまりの汚れに泡がたちませんでした。

 昨日、汚れを拭ったときに布が黒くなったことでも予想してましたが、汚れまくりですね。

 動けないことを良いことに、くすぐったそうに体を捩るクテルをむきになって泡立つまで洗いました。こんなことにむきになるとは私もまだまだ若い。

 クテルの反応が面白くなったのもありましたが、湯船を黒くなるのも嫌だったのもあります。本当ですよ?


 そんなわけで現在はレーヴェも一緒に湯船に浸かっています。

 動けないクテルは後ろから抱きつくようにしています。

 何でしょう?クテルはレーヴェのイジメたくなる可愛さとは別で、愛でたくなるような可愛さなんですよね。


 「クテルの髪は白かったんですね」


 汚れてたから気づきませんでした、という私に対してクテルは顔を俯けました。

 反応からして、自分のことがあまり好きではないんでしょうね。


 「ねぇ、クテル。アナタは自分が嫌いですか?」

 「……キライ」

 「そうですかぁ、人と違うということは大変ですからね。アナタの言うことも分からなくはないです」

 「………」


 きっとクテルにとっては白い髪も、見えない目も生きるには邪魔だったんでしょう。けれど―――


 「アナタが嫌っていても私は好きですよ?」

 「え?」

 「そんなに驚くことですかねぇ?」


 ジワリと体から魔力を滲ませます。二年前とは違って、扱いきれてなかった魔力は暴走することなく、効果を発揮します。

 ザッカートも、レーヴェもほとんど無意識で言霊で縛っていたのに気づいたのは結構、最近のこと。問題もなかったので放置しましたが。

 ですが、クテルは私が自分の意思で縛るべきだと思うんですよね。この娘は人の、子供の姿をしていますが本質的には魔獣に近いのですから。

 本人にその意識はなくても、その本質がいつ表に出てくるかもわかりません。

 せっかく、手なずけた動物を奪われないためには首輪をつけて、安全だと示さなくてはいけません。


 『クテル、アナタにとっては、その白い髪も、見えない目も、もしかしたら自分の全てが嫌いで、憎いのかもしれません』

 『けれど、私からしたらアナタの嫌う髪も、目も愛おしくて仕方がないのですよ』

 『何よりもそれだけ自分自身を嫌いながらも、この世界に生きようとするアナタが愛おしいのです』

 『アナタがどれだけ自分の髪を、目を、あるいは自分の全てを嫌い、吐き出し、否定しようとも』

 『アナタの髪も、目も、アナタの全てを、私が愛しましょう、食らいましょう、受け入れてあげましょう』

 『だから、私に繋がれなさい。孤独の混合獣』



 制御できるようになったのも本当のことですが、どうしても完璧とは言えません。

 言霊の使用中というのは、一種の神憑りといえば良いのでしょうか?

 自分という意識が体から乖離しているような感覚があるので、自分が何と言っているか把握しきれないのです。それに加えて、暴走しようとする魔力も抑えつけないといけないので、余計に何を言っているか、分からなくなります。


 滲ませた魔力を抑えて、クテルを見れば、全くの無表情で涙を流していました。

 何か不味かったかと、若干、焦りつつもクテルの涙を拭いながら、尋ねました。


 「涙なんか流してどうしましたか?」

 「……アナタは」


 良かった。表情が全然変わらないので反応もなかったら、どうしようかと思いました。


 「私がどうかしましたか?」

 「アナタは、……アナタはアタシを愛してくれますか?」


 思わぬ問いかけに、思考が止まりそうになりました。けれど、クテルの灰色で濁った目に強く、強く渇望を浮かべるのを見ました。

 私はクテルの体を正面から向き合うように抱えなおし、言葉を並べます。


 「クテル、私は人が抗う姿を何よりも好みます。そして、アナタは死から抗ってみせました。だから、アナタが愛して欲しいと言うなら、いくらでも愛してあげましょう」


 きっとは私は抗う姿を見たなら、嘲るように笑いながら、手を差しのべるでしょう。

 何の区別もなく、求められるならば、求められるだけ全てに応えるでしょう。それが、より強く抗う姿を見せてくれることに繋がるから。


 酷く歪んだ、この思いに名前を与えるなら、きっと愛と呼ぶのだろう。


 記憶にもない、ずっと昔、誰かが言った。

 ―――愛とはひどく奇妙だと。

 硝子のように透き通っていたかと思えば、絵具を垂らした水のように濁る。

 平等かと思えば、大きく一つのものへと傾く。


 その時、私はなんと答えただろうか。


 結局は思い出せやしないけれど、私は愛とは決して平等で、無償でないと知っている。



 「けれど、愛し続けて欲しいと願うなら、私に価値を示し続けなさいな。そのための力は既にあるのですから」



 湯船から立ち上がり、言葉を続ける。


 「でも、抗う前に食事にしましょう。お腹が減っていては抗えるものにも抗えなくなりますから」






ザッカートも、レーヴェも空気だー

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