戦力把握と禁書
「そういえばエルフって耳が弱いですよね」
兄が部屋を出たあとに真っ赤なレーヴェを後ろから抱きつきながら呟きます。
脈絡のない私の呟きにザッカートが呆れたようにしていました。
「なんですか?いきなり」
「いえ、お兄様の話は今のところ、どう転んでも参加したくはありませんが備えておくに越したことはないですから。こちらの戦力の確認ですかね?」
「なんで疑問形なのですか、それに戦力の確認とエルフの耳は関係ないでしょう」
「そうなんですけどねぇ、つい反応が可愛くて」
そう答えれば、ザッカートはやれやれといった様子をしていました。気にすることなくレーヴェを弄り続けますが……。
ですが戦力の確認をしてたのも事実です。一応、私もザッカートも等級外と同じくらいの実力はありますが、あの化け物連中と戦って無傷とはいかないでしょう。
それに間違いなく、レーヴェを戦いに巻き込んでしまえば死なすことになります。
それだけは避けなくてはいけません。そんな私の楽しみを潰すようなことを許せるはずもありませんから。
そのためにはレーヴェの実力を上げるのが正しいのでしょうが、たかだか一級の実力を短期間で等級外まで引き上げるのは簡単なことではありません。はっきり言って無理ですし、出来るなら三年は欲しいです。
なのでレーヴェの安全を確保した上で、革命を楽しめるようにするためにも戦力の増強は必要です。
しかし信用は二の次でも良いのですが等級外と渡り合える実力者なんてそこらに転がっているわけもないです。
考えているうちに、一つ思い出したことがありました。
「ああ、なんだ簡単じゃないですか。いないなら造れば良いじゃないですか」
「いや、何を造るつもりかはわかりませんけど、そろそろその娘を放さないと危ないんじゃないですかね?」
ザッカートの言葉にレーヴェに目を向ければ、顔を真っ赤に染め、息も荒れていて、髪も服も乱れ、服がはだけ白い肌を覗かせる、何とも艶っぽい様子になっていました。
どうやら考え事をしている間も無意識にレーヴェを弄っていたようです。というよりも無意識だったからここまでの様子になったのでしょうけど。
「ふむ、エロいですね。とても同じ年の子どもとは思えませんね」
「いや、そこじゃないでしょう。見るべきは」
「何を言っているのですか。私だって男ですから興味がないわけじゃないですよ?」
「頭から湯気沸かしてるじゃないですか、見てるこっちも恥ずかしくなってくるんで止めてくださいよ」
「嫌ですよ。今は特に楽しいこともありませんから、少しくらい楽しんだって良いでしょう」
そう言って、レーヴェの首筋を甘噛みします。するとビクンと一際大きく反応したあと、反応がなくなってしまいました。
どうやら気絶してしまったようです。
「あらら、気絶しちゃいました。もう少し弄ろうと思ったのに」
「それでも抱きしめたまんまなんですから、トゥーリ様、反省してませんよね」
* * * * *
ところかわって次の朝、昨日はあのままレーヴェを抱き枕にして眠りました。
今日は昨日、思いついたことを調べておこうと思います。そのために朝食のあと、公爵邸の図書室に来ました。
いつも考えますが、うちの屋敷は無駄が多いのですよね。まず誰も泊まらないというのに、客室だけで十部屋以上あるのですから。
けれど、こうして図書室などで恩恵を受けている以上、文句はありません。
真に素晴らしきは、領民の血税かな。
思考が逸れましたが、やることをさっさと片付けてしまいましょう。
前に言ったように、貴族とは見栄を張りたがるものです。そして、それは自分の持ち物に関しても同じです。例え、使うことのない物だろうと。
見栄を張るのなら、人の持っていない物を持とうとします。人の持っていない物、つまり違法品などです。
そんなわけで公爵邸の図書室には、禁書指定された本があったりします。
実に多種多様な本がおいてあります。
平民から始まり、果ては王族までの醜聞を集めた『悪徳法典』、王族の醜聞なんて世に広めるわけにもいかず禁書指定された本です。
次に『魔術狂本』、この本は中身自体は普通の魔術の教本だったのですが、これを読んで発狂した人が続出したために禁書指定されています。
他にも『色彩の聖女』、『無知猛舞』、『絡繰仕掛けの書』、『拷問大全』、『犯罪魔術教本』など上げればキリがないのですが関係ないので説明はしません。
今回、必要な本は数ある禁書の中の一冊、『東西人魔識本』という物です。
この本は私のいる大陸を東へ抜け、海を越えた先にあるという島国に伝わる魔術をこちらの大陸の魔術に解釈し直したり、その島国の魔獣を絵姿に残したものです。
なぜ禁書指定されているのか分からない本でもあります。
私はその本をめくり、あるページに辿り着きました。
そこには『蠱毒による合成獣の生成』とありました。
少し短いので、蛇足的な?
『色彩の聖女』、言っちゃえば当時の聖女を題材にした艶本、薄い本をイメージしてください。当然、教会が発禁しました。
実は購入者の三割が教会関係者だった(一部、女性を含む)。
『無知猛舞』、読んだ人が我を忘れたかのように踊りだすという意味のわからない本。本自体は全ページが白紙なのだが、めくったページ数によって踊る時間が増える。最後までめくると死ぬまで踊り続ける。
誰が何のために作ったのかも不明、当時、冗談でめくった王族がいたので禁書指定。
『絡繰仕掛けの書』、多彩なギミックが仕掛けてある本。始めは飛び出す絵本程度のものだが、最後の方になると「悪魔召喚」なんて洒落にならない仕掛けになっている。
『拷問大全』、説明する必要もないほど名前の通り。ただし、書いたのが悪魔と言われているほどに酷い拷問が載っている。
『犯罪魔術教本』、大悪党と呼ばれた男が書いた本。透視から洗脳、呪殺まで、ありとあらゆる犯罪を可能とする魔術が載っている。
この本のすごいところは普通の魔術は一切、載っておらず、その大半が大悪党のオリジナルというところ。