悪徳貴族
その世界には魔力というエネルギーが存在した。
その世界には魔力を使用した魔術の存在があった。
その世界には魔力の影響を受け、通常とは異なる進化を果たした魔物や魔獣と呼ばれた存す在がいた。
人の中にもまた通常とは異なる進化を果たしたエルフ、ドワーフや獣人なども存在した。
地球とは世界が違い、存在する種族もその数も違えども人間はやはり社会をつくり、国を建てた。
人が集まれば、そこには光も生まれれば闇も生まれる。それは当然の理だった。
~王国トラバリン公爵領~
「若様、準備が出来ましたのでお召し替えを…」
早いモノだと思う。突然だが、自分ことトゥーリ・トラバリンは前世の記憶を持っている。前世を思い出したのは3才のときではあったが、それから七年経った。そして今日はがその10才の誕生日である。
「はい、わかりました。あなた達は下がって良いですよ」
「畏まりました」
服を着替えつつ、呟く。
「全く、わざわざ人前に出るためだけに着替えなくてはいけないとは、これだから貴族というのは面倒くさいです」
「そういうトゥーリ様も貴族でしょう」
「……ああ、ザッカート。居たんでしたね、そういえば」
「それはないでしょう。護衛にむかって」
「フフッ、冗談ですよ。……半分は」
「半分は忘れてたってことですか、それは」
全くこれだから…、と肩をすくめる彼はザッカートという。処刑人の一族という生い立ちを持つために蔑まれていた彼だが腐ることなく努力をし、家の私兵のなかでも頭ひとつ飛び抜けた強さを持っていた。そのために自分の手駒として護衛に付けるよう、父に頼んだのだった。
「まぁ、それだけ憂鬱なんですよ。今日の催しが」
「トゥーリ様なら余裕でしょう、なんでまた?」
「確かに難しいことなんてありませんが、立ちっぱなしで聞きたくもない話を延々と聞かされるのは面倒くさいんですよ。毎年、無駄に盛大ですから。それに今回は10才ということもあって、さらに盛大らしいです。……ハァ」
「旦那様に可愛がられてる証拠でしょう」
「なら、あなたが代わりますか?」
「それは御免ですね」
全く良い笑顔で、即答しやがりました。
「……でしょうね。普段から色々と甘やかしてもらっている自覚はあるので、今日くらいは我慢しますけどね」
何かにつけて甘やかしてもらっているのも事実である。ザッカートの護衛の件だって、その我が儘の一つである。 それに貴族というのは何かと見栄を張りたがる生き物で、両親は生粋の貴族であるのだから仕方ない、と自分を無理やり納得させ着替えを終える。
「そう言えば、聞きたいんですがトゥーリ様の誕生会は、トラバリン公爵家次期当主様より盛大なのは何故ですか?」
「………貴方は察しが悪いですね」
「な、なんです。聞いてはマズかったですか?」
「いいえ、大したことない理由ですから答えてあげますけど、ザッカートは自分に言うことを聞く相手と聞かない相手、どっちが可愛いと思いますか?」
「それは言うこと聞く方で……って、あ、あーっ!なるほど」
「それ、余り人には言っちゃダメですよ。父と兄が仲が悪いのは、わりと周知の事実ですけどね」
「了解です」
「準備も終わりましたし、会場に向かいましょうか」
「畏まりました」
「それでは参りましょうか。今年は祝いの品に期待できないのが残念ですけどね~」
それを聞いてザッカートはわずかに反応する。
「やっぱり気になりますか?」
「お聞きしても?」
問いかけてあげれば、やはり気になったようだ。
「別に構いませんよ。知られても大した問題でもありませんから」
「では、お聞きしましょう」
「貴族は10才の誕生日に“奴隷”を祝いの品として贈られる慣習があるんですよ」
少し首を傾げながら、知りませんでした?と尋ねると、
「……奴隷ですか」
何とも言えない反応である。それも当然といえば当然の反応でしょうか?あまり気にしても仕方のないことですが。
「そう、奴隷です。色々と理由はあるんですよ?人の上に立つ自覚を~、とか質の良い奴隷を子どもに贈ることで他の貴族に自慢したり、とか。まぁ、大半は後者が理由ですが。家はわりと上の方ですから質だけは期待しても良いんですが、どうにも奴隷は気に入りませんから玩具が増える程度に考えておきましょう」
どうやらザッカートは予想外の答えだったのか少し固まりましたが、なんとか飲み込んだ様子でした。
話しているうちに目的の場所まで辿り着きました。せいぜい、10才の誕生日を盛大に祝われてあげましょうか。
あ、改めて名乗りましょう。私、トゥーリ・トラバリンと申します。
今世にて“悪徳貴族”トラバリン公爵家の次男をやらせていただいてます。