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三人の家庭教師①

「そういうわけで郁人には三人の家庭教師を付けることにした」

「三人? なんで三人?」

「どういう妖怪になるか分からないから、さまざまな妖怪をつける方が良いと判断して。しかも女だ。男よりは女の方がやる気が出るだろ?」

「それはそれで複雑かも」


 小十郎としては粋な計らいをしてくれたのは分かったが、郁人には悪い予感しかしなかった。

 漫画なアニメ、小説などにある展開に似ているからだ。

 そういう作品では三人の女の子が主人公を取り合い、いろいろと大変な展開になっていく。

 それが自分の身に起きるとしても、現在いまの立場では素直に喜べそうにない。それどころか変な風に怒りを買い、殺される可能性もある。そう考えるだけで郁人はやる気以前に恐怖の割合の方が大きく心を占めていた。

 そんな郁人の考えを知らない小十郎はよく分からないという表情をしている。


「何を悩んでいるのかは分からないが、紹介しよう。ほら、お前たち変身を解け」

「え? 変身?」


 郁人の間抜けな声と重なる形で、ボンッという音を立てて、郁人が最初に気になっていた三体の人形が煙に包まれた。

 その煙に晴れる頃には人形の面影は全くなくなり、人間と同じ大きさの妖怪が現れる。


 キツネの人形は九尾の狐に変わっていた。その特徴的な九本の尻尾がウネウネと動き、頭には獣耳が生えている。和の妖怪らしく、和服を少し着崩した感じで着用している。それなりに胸もあるため、郁人からはその姿がエロく映り、慌てて視線を逸らす。

 しかし、郁人が視線を逸らす前に九尾の狐の方が先に気付いたため、口端を歪め、意地悪そうに郁人を見ていた。


 九尾の狐のような見た目から分かる特徴は一つもないネコの人形には郁人は少し悩んだ表情を見せる。

 しかし、全くヒントがないわけでもなかった。

 とんがり帽子に黒いローブを着用し、極めつけは変身をしていた人形が魔女の使い魔とされるネコ。

 このことから郁人は魔女と予想することが出来た。

 九尾の狐とは違い、こちらは郁人には全く興味がならいしく、俯く形で顔を帽子で隠している。


 そしてシンデレラみたいな人形の元となった妖怪が全然分からなかったようで、魔女の時以上に眉間に皺を寄せて考え込んだ。

 容姿は幼い少女。

 もちろん幼い少女だけを考えるのならば、『トイレの花子さん』と『座敷童子』を郁人は思いついた。が、思いついた妖怪ではないことに気付いたらしく、頭を左右に振る。

 なぜなら、九尾の狐と同じように和の妖怪のように和服の服を着ていないためだ。


 この妖怪は現代に近いフリルの付いた洋服。

 そのせいで郁人の知っている西洋の妖怪の中で当てはまるものがなく、思い付かなかったのだ。

 郁人のその行動で彼女には郁人の考えていることが分かったらしく、困ったような表情を浮かべる。


「もしかしてだけどボクが何の妖怪か分かってない? 二人は分かったみたいだけど……」

「ごめん。俺の知っている妖怪の中で、君に当てはまる妖怪が思いつかなくて……」

「あっはっはっは! そりゃ、分からんじゃろうよ。ワシにもそいつが妖怪の枠に入っても大丈夫なのか、分からぬほどじゃからな」

「そうですわね。わたくしにも分かりませんわ」

「何回、そのネタでボクは弄られ続ければいいのさ~」

「落ち着け。妖怪や幽霊の枠に縛れる存在じゃないのは仕方ないだろう。怖い話というよりは都市伝説の話に入るからな」

「そうだよ、電子機器の第一人者みたいなもんだよ!」


 九尾の狐は爆笑していた。

 魔女はあくまで冷たく返す。

 小十郎も郁人が知らなくて、当たり前のような返事。

 彼女だけが少し不満そうにしている。

 こんな状況の中で郁人に分かるはずがなかった。


 唯一のヒントである『電子機器』の単語に関わる存在を思い出そうとしてみるが、郁人にはさっぱりだった。唯一、思い出すことが出来たのは個人サイトで出てくるびっくり画像ぐらい。もちろん怖いことだけは分かっているので、郁人は一度も見た事はないのだが――。

 その子だけがちょっとだけ残念そうな顔を浮かべている。

 だから申し訳なくなり、郁人はつい謝ってしまう。


「ご、ごめん」

「仕方ないよね~。最近、そんなに噂とかにもなってないしさ~」


 その子が不貞腐れたように言い終わると同時に内線の電話が鳴り始めるが、誰も立ち上がろうとする素振りすら見せなかった。

 客人として呼ばれた郁人が取りに行けるはずもない。

 そのため、四人の様子を見守っていると郁人はあることに気付く。

 四人の視線が自分に向けられていることに――。

 郁人は電話に向かって指を差し、次は自分にその指を向けると四人とも頷く。

 つまり、「郁人が電話に出ろ」と言っているのだ。


「ちょっと待って! それは何の冗談!?」

「何がじゃ? 気にせずに出るが良い」

「そうですわ、さっきからうるさいから早くお出になってください」

「うんうん、早く行きなよ、お兄ちゃん」

「あの電話は間違いなく郁人へのものだ。早く出ろ」


 その発言から、四人が何か仕組んでいることが郁人には丸分かりだった。

 しかし、郁人にはそれを回避できる手段がないため、電話に出るという選択肢しかなかった。椅子から立ち上がり、電話の所に向かいながら、何回か四人がいる方へ顔を向ける。


 小十郎と魔女はさっきと同じように素っ気ない顔をしているが、九尾の狐とその子だけはちょっとだけワクワクしているらしく、身体をピクピクさせていた。

 その様子を見るだけで、郁人は出たくない気持ちが増し、受話器を取る事さえも手が震え、躊躇ってしまう。四人とも口には出さなかったが四人からは「早く出ろ」というプレッシャーを郁人は背中に感じたため、勇気を振り絞り、受話器を耳に当てる。


「も、もしもし?」

「私、メリーさん。今、あなたの後ろにいるの」


 郁人はその声を聞いた途端に身体が固まってしまった。

 もちろん声にも驚いたが、自分の背後にいきなり人の気配も生まれたためである。 

 この状況で後ろを確認しないわけにも行かず、錆びたロボットが身体を捻るようにぎこちない動きで後ろを確認すると、郁人の背後には彼女が立っていた。

 満面の笑みで。

 脅かすつもりがなかっただけが郁人の唯一の救いだった。


「これで分かったでしょ? ボクが何の妖怪になるか」

「う、うん。確かに妖怪に入るのかどうか分からないね」

「そうだよね~」


 その子の正体はメリーさんだ。

 親がそういう噂があった、と昔に言っていた事を郁人は思い出す。

 最近では完全に途絶えてしまった噂の一つ。現代っ子である郁人が知らなくても当たり前なのかもしれない。

 メリーさんは少し落ち込んだ様子で元座っていた席に向かって歩き始めたため、郁人もその後を追うようにして席に戻った。


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