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戦闘②

 二人が手をかざすと鬼を囲むように魔法陣が現れ、一斉に鎖が伸びる。

 動きを止める=捕獲がエイミーの出した結論だった。

 鬼もそのことが分かっていたらしく、鎖が自分に到達する前に燐を攻撃したもので魔法陣を全部破壊しようとするが、やはり全部は無理だったようで腕や腰に巻きつく。

 しかし、それもすぐ破壊するとその場から脱出。


「甘いよ!」

「なっ!?」


 その動きをメアリーが金縛りにより封じた。

 しかし、あまり効果がないようで郁人の身体はゆっくりだが確実に動いている。


「エイミーちゃん、早く!」

「分かってますわ!」


 この鬼に対して、メアリーの金縛りは一時凌ぎにもならないことが分かっていたエイミーはさっきと同じように魔法陣を展開し、鎖を射出した。

 鎖一本で上から下まで鬼を包み込むように巻きついていく。その鎖の上にさら鎖を巻いて、何重にもしていき、最終的にいくら強靭の腕力の持ち主でも絶対に解けないほどの分厚さになった。


「これでいいですか、燐!」

「でかしたぞ! これだけ分厚いなら行けるはずじゃ!」


 分厚く巻かれた表面の鎖が音を立てて砕け散った。

 すでに金縛りは解けた鬼が次は鎖を引き千切ろうとしている証拠。

 燐は慌てて、自分の右手を青白く光らせた。

 燐のその手を見て、二人は燐が何をしたいのか分かったらしく、


「あまり持たないみたいですわ! 早くやってください!」

「いっけ~!」


 二人の言葉に応えるように燐は鬼へと向かい、突撃した。

 右手を振りかぶる。

 鬼に巻かれていた最後の鎖は抵抗もなく簡単に引き千切られる。が、逃げるには遅く、燐の右手が郁人の身体を貫く。


「やりましたわね」

「まさか精神的にダメージを与えるとはね!」


 燐の攻撃は郁人の肉体ではなく、鬼の精神そのものを狙ったのだ。

 鬼が表面に出ているという事は、現在郁人の身体を支配しているのは鬼の人格。つまり精神的な攻撃だったら、鬼にだけダメージを与える事が出来る。

 もちろん、威力によっては一撃で消滅。例え、消滅出来なくてもそれなりのダメージはあるため、郁人の精神が勝った場合は鬼を追い出せる可能性が見込めたのだ。


「あ、あれ?」

「おかしいですわね」


 燐と鬼はその状態のまま、動こうとしなかった。 

 本来ならば反撃を食らわないように燐がすぐさま戻ってくる、と思っていた二人にとって、この状況が異常だと気付く。


「ふ、ふふふ……狙いは良かったな。しかし、どうした?」


 鬼がさっきまでと同じように余裕を持った声で高笑いをし始める。

 まるでダメージを一つも負っていないかのように。


「な、なぜじゃ!? なぜなのじゃ!!」


 信じられない現実を突きつけられたように燐は叫ぶ。

 そんな燐の腹部に鬼が手を置くと、燐はエイミーとメアリーの下へと吹っ飛ばされる。

 吹っ飛ばされ戻ってきた燐をエイミーが受け止めた。


「いったいどうしたのですか!? 攻撃は成功したはずなのでは……!」

「タイミングばっちりだったじゃん!」


 燐が今の状況が信じられないように、二人にとってもそれは同じはずだった。

 だからこそ、燐の身に何が起きたのか、尋ねずにはいられなかった。


「そ、そのはずじゃったんじゃ……しかし、邪魔されたんじゃ……」


 燐は立ち上がりながら、自分の手を見つめる。

 あの時、動きを止まったのは頭の中に聞こえた声のせいだった。

 その声は夢の中で聞いたあの声――つまり前世の声である。


『それは駄目です!』


 必死に訴えてきたその声に燐の身体が勝手に反応し、身体がいきなり硬直してしまったのだ。

 そのことを燐は二人に説明した。


「そ、そんな……バカなことが……!」

「で、でもでも燐ちゃんがあのタイミングで止めるはずないし……」


 二人も燐の話を聞いて、驚きを隠せないようだった。

 このタイミングで記憶を取り戻したデメリットが戻ってくると思わなかったためである。

 そもそも何が駄目なのか、燐にも分からずにいた。

 三人がこうやって悩めば悩むほど、郁人の身体は鬼の殺気に耐え切れず、傷口が増えていく。

 すでに服やズボンも血により変色していた。

 このままでは出血多量で郁人の身体が死ぬ事は間違いない。つまり身体の死=郁人も死を迎えてしまうということなのだ。


「くっ、たぶん同じ事をしてもまた止められるのじゃろうな」

「私たちが燐の真似をしても鬼にはバレてますし、たぶん燐と同じように前世の記憶に邪魔されるんでしょうね。そんな気がしますわ」

「うん。ボクもエイミーちゃんと同じかな?」


 そこで小十郎がようやく重い腰を上げる。

 鬼に向かって、二重の結界を張ったのだ。


「お前ら、前世の言葉に耳を傾けてやれ。その間は任せろ」

「閻魔殿、なぜじゃ?」

「理由があるからだろ。分かったら、集中しろ」

「いったいどうした、閻魔?」


 鬼はそう言いながら、中に張ってある結界に触れようとすると弾かれ、手が傷つく。しかし、それはあっという間に治癒された。

 小十郎は防御結界と治癒結界を張ったのである。


「良いから、お前は黙ってろ」

「はいはい、俺もこれは願ってもない回復だから良しとするか」


 そう言って、鬼は全身の力を抜いた。

 小十郎と三人が攻撃を仕掛けてくる様子がないと分かったためである。

 鬼にとっても無駄なエネルギー消費はしたくなく、なおかつ小十郎が郁人の身体を治癒するために張っているので、一息つけると思ったのだろう。

 その頃、三人は自分の精神世界の中にいた。


「なんで邪魔するのじゃ。桜花おうかは郁人を助けたくないのか?」


 燐は自分の心にそう話しかける。

 そうすると自分の中から桜色の結晶体が出てきて、夢の中で見た前世の姿――桜花の容姿を形成した。

 同時に景色も出来上がる。 

 それは夢の中でよく映っていた桜の樹の下。

 桜花は悲しそうに首を横に振り、燐の言葉を即座に否定した。


『違います。助けたい。でも、あの攻撃は駄目なのです』

「意味が分からんぞ?」

『鬼と郁人さんの精神の結びつきが強いから問題なのです。吉原郁人として生まれて、ずっと一緒にいたのですから、鬼も郁人さんの精神の一つなのです。もし、あのまま燐さんが攻撃をしていたら、郁人さんの精神までダメージを受けてしまいます」

「なるほどのう。だから止めたのか。すまぬ、前世の記憶を……ワシ自身を信じれなくて……」


 燐は桜花に向かって、頭を下げる。

 精神的なダメージは妖怪にとって致命的なものであるように人間にも同じ事が言える。

 ちょっとした事で心が簡単に壊れ、廃人になってしまう。

 人と人の会話でもそれほど簡単に傷つくものなのに、直接精神的にダメージを与えるという事はそれ以上の問題が起きる。

 それを想像するだけで燐はゾッとした。


『大丈夫です。それよりも燐さんは怪我の方は大丈夫ですか?』

「問題ない。ワシらに郁人のことは任せておくがよい」

『はい。では、後は頼みます』


 桜花と景色は再び結晶体となり、燐の中に入る。

 燐はゆっくりと目を開けると、エイミーとメアリーも続いて目を開けた。


「前世に助けられて良かったですわね」

「燐ちゃんだけを攻めるつもりはないけど、本当にお兄ちゃんが無事で良かったよ」


 二人も自分の前世に桜花と同じ話を聞いたらしく、安堵していた。


「そうじゃのう。しかし、これで打つ手がなくなってしもうたな」


 燐が少しだけ悔しく呟く。

 残されたものは最初の通り、持久戦に持ち込む方法しか残っていない。

 鬼のほうを見てみると、小十郎の治癒結界の中にいる鬼の精神エネルギーは自体は回復していないため、あくまで小十郎が行っているのは郁人の身体の治癒のみということが三人には分かる。

 三人の前世との会話が終わったことに気付いた十郎はその結界を解除し、再びベッドに座り、傍観に戻る。


「さぁ、そろそろ決着を付けさせてもらおうか?」


 鬼は先ほどと同じように殺気を全開にすることなかった。

 三人の様子を見て、殺気を全開にする必要を感じなかったためである。

 それだけ三人は追い詰められていた。



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