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戦闘①

「さて、どういった作戦で攻めるのじゃ?」

「傷つけないようにしていくしかないでしょ?」

「傷物にした人が責任を取らないとね~」

「メアリーよ、さすがのワシもこのシリアスな状況ではそういう発言は出来ぬぞ?」

「ごめん。真面目に考えて、切り傷や打撲ぐらいならお兄ちゃんも許してくれると思うよ?」

「ま、相手も待っていらっしゃるようですし、行きましょうか!」


 エイミーがそう言って、鬼へと突撃した。

 勢いはあるものの傍から見れば、ただの右ストレート。さっきまでのようなフェイントや駆け引きは一切ない。

 鬼はそれを左手で受け止める。


「さっきのような駆け引きはなしで勝てるのか?」

「うるさいですわね、燐!」

「分かっておるわ!」


 燐が鬼の右側に身体を捻った状態で現れると、そのまま九本の尻尾全部を鬼の背後へと叩きつけようと振る。

 二人は確実に当たると確信した。

 三人にとって郁人の身体が大事なように鬼にとっても郁人の身体は大事なはずだから、さっきのような結界までとはいかなくも障壁を張って防ぐと予想していたのだ。

 しかし、鬼は表情さえ変えずに、


「舐めてるだろ?」


 そう言うと煙のように消える。

 そして現れたのはエイミーのすぐ後ろ。

 エイミーの背中に手を置くとさっきと同じように空気を固めて、そのまま前に押す。

 すでに止めることの出来ない勢いだった燐の尻尾にぶつかるも空気の壁はまだ存在していたらしく、エイミーは挟まれた状態になり、吹き飛ぶ事はなかった。

 燐が慌てて尻尾を引くとエイミーは気を失っているのか、そのまま重力に任せる形で落下していく。


「エイミー! 貴様、ゆ――」

 燐が怒りを露にし、鬼の方を向くと同時に周りに配置されているものに気付く。

 数十個の火球――。

「なっ!?」

「お前はこれが好きみたいだから、俺がプレゼントしてやろう。あの一発のお返しだ」


 鬼の言葉が引き金となり、全部が一気に燐へと突撃し、直撃、爆発の繰り返しをしばらくの間続ける。

 その爆発が終わると、燐は煙を纏ったようにエイミーと同じく落下していった。


「それで隠れているつもりか?」

「バレるのは時間の問題だったから気にしてないよ!」


 メアリーは真上から現れ、右手に魔力を溜めて振り下ろす――その前にメアリーの身体に指一本を腹部に置くと電撃音が鳴り響く。

 その指に支えられるようにメアリーは全身の力が抜けたようになり、口から煙を吐いた。


「電撃は美味しかったか?」


 メアリーの下から横に移動すると落下してくるタイミングに合わせ、背中に蹴りを食らわせて落下スピードを上げた。


「はっ、元側近の割に弱いものだな。閻魔、そろそろこいつら殺すぞ?」

「戦い方が駄目なだけだろ。まだ始まったばかりだ、俺の出る出番じゃない」

「……だとよ、そんな調子じゃ、こいつは助けられないぜ?」


 鬼は舌を見ながら、郁人の体を親指で差す。

 三人は下から鬼が今いる高さを合わせる様に上がってくる。

 先ほど電撃を食らったメアリーはエイミーの腕に抱えられていた。


「肉弾戦しか出来ないのが、こんなに大変だとは思わなかったのですわ」

「まったくじゃ。しかも、あやつはなるべく力を温存しておるしのう。それより、さっきの攻撃のせいでワシの服がボロボロになってしもうた」


 着物がところどころ焼けており、穴が空いていた。着方もラフだったが、さきほどの攻撃のせいで、さらに露出する部分が増している。服を確認しながら、残念な表情を浮かべる燐。

 その着物が気に入っていたらしい。


「普段と変わってないですから、気にしない方がいいですわ」

「そのケンカは後で買うとしてもどうするかのう」

「諦めるか? 敵に作戦を話すぐらいだしな」


 鬼の発言に二人は思わず言葉に詰まる。

 攻める前に話したことを思い出したためである。


「ドジにも程がありますわね」

「いやいや、きっと言わんでも分かっておったと思うぞ?」

「ううっ……」

「あ、気が付きましたか?」


 メアリーはゆっくり目を開けた。

 様子を確認するように二人が覗き込む。


「ごめん、ちょっと油断しちゃったよ。ギリギリで防御したから問題はないけど……」


 そう言って、メアリーはエイミーの腕の中から降りる。


「大丈夫なら問題ない。しかし、なぜ人形でやらなかったのじゃ?」

「物理的な面が多いし、なるべく傷を付けたくなかったから」

「そうですか。でも気をつけないと駄目ですわよ?」

「うん、分かってるよ」


 メアリーが目を覚ましたことで準備が揃ったかのように鬼へと向き直る。

 鬼は三人が向かってくるのを待っているかのように、ジッとその様子を眺めていた。

 さすがの三人もその様子に対して疑問を持ったのか、


「なぜ攻撃を仕掛けてこないのじゃ?」


 代表して燐が尋ねた。


「三対一で自分から仕掛けるほど馬鹿じゃないし、お前が言ってたろ? 精神エネルギーを削るように持久戦を仕掛けてくることは最初から分かってるからな」

「それもそっか」


 その言葉にメアリーはあっさりと納得してしまう。

 エイミーはその様子に呆れて、ため息を吐いた後、メアリーの頭を叩く。まるで納得するな、と言っているように――。

 メアリーは口に出さなくてもエイミーの言いたい事が分かっているため、舌を出して誤魔化す。

 鬼は三人のその様子に何か不思議さを感じたらしく、首を傾げた。


「いったいどうしましたか?」

「お前らは本当に閻魔や郁人を助けるつもりはあるのか? もうちょっと真剣になっていいんだぜ?」

「あぁ、そのことですか。いったい何を勘違いしているのです? 本来、あなたなんか敵じゃないんですよ?」


 笑顔のまま、エイミーはそう語る。

 しかし、目は全く笑っていない。


「あ~、ボクたちの本気が見たいんだね~。見せてあげよっか? ま、お兄ちゃんの身体から出ない時点で負ける事が分かっているんだろうけどさ」

「こら、挑発しないの。そうやって挑発したところで出てくるわけないのですから」


 メアリーの挑発を注意しながら、エイミーは鬼をさらに挑発した。

 鬼の表情を余裕がなくなったように険しくなる。本能的に負けることを感じてしまったらしく、鬼も全身に力を入れる。

 三人と同じように鬼の方からも殺気が出された。

 その時、鬼の口端から一筋の血が流れ出るが、すぐに鬼は手で拭う。


「ワシらの攻撃がヒットしたかのう?」

「してないはずですわ」

「ボクのもヒットしてないよ?」


 ヒットしていないのに口端から流れる血が気になった三人の頭の中に嫌な答えが浮かんだ。

 考えられるのが一つしかなかったためである。


「その通り、俺の本気に郁人の身体が悲鳴を上げているんだろ? どうする? お前らが犠牲になれば、郁人の身体は無事になんだがな。俺に殺される事で……」


 そう言っている間にも郁人の右手から血が流れ、下へと垂れていく。


「考えますわね。鬼は全力を出したところでダメージを追うのは郁人の身体。その身体をなるべく傷つけたくない私たちは下手に攻撃をすることが出来ない」

「簡単な話、ボクたちは殺られるしか今のところお兄ちゃんを救う方法しかないね。さ、どうしようか?」


 さっき以上に悪くなった状況に二人は深刻そうに次の手を考えるように髪を掻く。

 この状況に苛立ちを隠しきれないのだろう。

 そんな中、燐だけが笑っていた。

 この状況を打開する手があるかのように、さっき爆発で破れ、邪魔になった着物の部分を自らの手で破り捨てている。


「さっきの二の舞にならないように作戦までは言わぬ。二人には鬼の動きを止めることだけに専念してもらいたいのじゃが……」

「ん、分かったよ」

「ちゃんと状況を打開してくださいですわ」

「任せておけ」


 二人は燐の前に一歩出ると、鬼に向かって手をかざす。


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