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戦いの始まり

 ほんの数分前に遡る。

 郁人はどこかで爆発する音が耳に入り、目を覚ました。

 寝る時まで一緒だった三人の姿はなく、ベッドの上には自分だけしかいない。

 そこまで考えた時、郁人はベッドから身体を起こす。


「あいつら、まさか……!?」


 あの三人が戦っているということに郁人は気付いてしまった。

 さっきの爆発音もそのせいだと分かると、いてもたってもいられなくなり、部屋から飛び出す。

 廊下は暗闇になっており、三人がどこにいるのかも郁人には分からない。

 そこで一度立ち止まり、耳を澄ませてみた。

 どこかで声のような音が聞こえた気がするだけで場所を判断するまでには至らない。


「くそっ、どこにいるんだよ!」


 焦っても駄目なものは駄目だと分かっているが、それでも焦ってしまう。なぜなら三人を守りたいからだ。

 前世のような後悔はしたくない。

 その一心だった。


「あ、ちょっと待て。三人を襲っているとも限らないじゃないか!」


 郁人はそのことに気付く。

 ここは小十郎の城なのだから、小十郎を町の妖怪のように襲いに来たのかもしれない。

 しかも骸骨から重要な話も聞いていたことも思い出した。

 三人は元側近ということ。

 つまり、三人は小十郎を守っているために戦っている可能性がある。


「閻魔様の寝室か!」


 郁人は時間的にも小十郎が寝室にいると分かると、その場所へと駆け出す。

 寝室がどこにあるかまでは教えてもらっていないが、なんとなく最上階にあると郁人は思った。

 正確に言うと、そこへと呼ばれているような不思議な感覚があったからだ。

 郁人が寝ていた部屋は最上階の一つ下の階のため、すぐ上へと辿り着く。


「後は部屋か! くそっ!」


 この階も廊下は真っ暗だった。

 小十郎が犯人を自分の下へとおびき寄せるようにワザと仕組んだ罠のようだ、と郁人は感じた。

 その時、小十郎がこの城で寝泊りするように言ってきた真意を郁人は初めて気付く。自らの身体を張って、自分が無実だと証明してくれているということを。

 郁人はまた本能に任せて走った。

 立ち止まっている時間が惜しかったためだ。

 そこで一筋の光が郁人の目に入る。

 ちょっとだけだったが明かりが廊下へと漏れ出していることに気付き、


「明かりが点いてるってことはあそこか!」


 その部屋へと全力で走った。

 悩みはしたけれど、そこまで探さなくて済んだことに郁人はホッとした。

 ちょっとでも三人の側にいたかったから――。

 部屋へ辿り着くと、勢いよく扉を開ける。

 郁人の目に入ったのは信じられない光景だった。


「え、なんで俺? いや、俺じゃないみたいだけど……俺?」


 四人が向いている先には紛れもなく自分――吉原郁人がいた。

 もう一人の自分がいることに驚いたように、四人は郁人が来たことに対して、驚いた顔をしている。

 まるでこの場所に来ると思っていなかったような表情。


「お兄ちゃん、なんで来たの!? ここは危ないから逃げて!」


 メアリーが初めて声を荒げて訴えてくる。

 それだけ余裕がないのかもしれない。

 しかし、現状を見る限りでは燐たちの方が押しているみたいなのに、なぜそんなに必死になっているのか、郁人には分からない。


「あなたは早くこの部屋から離れてくださいですわ!」

「良いから言うとおりにするのじゃ!」

「もう勝ったも同然じゃん。膝付いているし」


 足にダメージを負っているらしく、攻撃を食らった部分を手で押さえている。

 しかし、三人は油断出来ない理由が出来てしまったのである。

 それは郁人の存在。

 郁人が来たことで、鬼の言っていた言葉の意味に気付いてしまったのだ。


「ふふ、やっぱりこうなるって分かってたんだよ!」

「郁人、自分の周りに壁を作るイメージをしろ」

「え!?」


 小十郎の声に郁人は一瞬躊躇ってしまう。

 そんなイメージをいきなりしろと言われても出来ないというのもあったが、言っている意味が理解できなかったからだ。

 同時に鬼の姿が一瞬にして消え去り、鬼が張っていた結界がまるでガラスを割ったかのような音を立てて砕ける。

 四人ともその鬼の標的が郁人であることには気付いていたため、郁人の周りに結界を張っていたが意味をなさなかったらしく、


「この身体は再びもらった」


 鬼の声で不気味な笑い声を漏らす。

 同時に郁人の様子も変わる。

 さっきまで鬼と同じように頭から角、犬歯が鋭くなる。爪も同様に伸びるが、身体はそのままの肌色のままだった。

 ちょうど郁人と鬼が半分ずつ混ざり合ったような状態になる。


「ちっ、変な力を身に付けやがって!」


 小十郎が苛立ちを隠さず、呻いた。


「いったい何が起きたんですの?」

「ワシらにも分かるように説明してくれ」

「一瞬だけ実体化する力を使って、結界を無効化したんだよ。最初から逃げようと思えば出来たはずなのに、逃げなかったのはこのタイミングを狙っていたからだろ」

「正解だ」


 今度は鬼が余裕を持った表情で拍手をし、小十郎の回答を褒める。

 それにイラついた燐は再び右手に火球を作り出す。

 陽動を頼むようにエイミーとメアリーに顔を向けるが、二人は顔を横に振り、拒否する。


「なぜじゃ!」

「精神は鬼ですけど、身体は郁人なんですよ!? そのことちゃんと分かっているんですか!?」

「お兄ちゃんから鬼を引きずり出さないことにはどうにも出来ないことぐらい分かるでしょ?」

「そ、そうじゃったな」


 二人の説明を受け、燐は歯軋りをしたまま鬼を睨みつける。

 火球を消し、仕方なく右手を下ろした瞬間、燐は頭を仰け反らせるようにして吹き飛んだ。

 後ろの壁をも破壊し、そのまま吹っ飛んでいくがすぐに空中で態勢を整える。


「いつつ……、いったい何が起きたのじゃ?」


 何が起きたのか分からない燐は痛みが走る額を押さえながら呟くと、メアリーとエイミーも同じように吹き飛んで来た為、燐が咄嗟に自分の尻尾で受け止める。

 破壊された壁から見える鬼を見ると、立ち位置は変わっていない。攻撃をした動作を示すように右足が上がっていた。


「固めた空気をぶつけてきたんだよ、いてて」

「し、しかも遠慮のない攻撃から私たちが攻撃出来ないと分かっていて、防御をあえて捨てて、攻撃に重点を置いているみたいですわね」

「相手も考えるのう」


 悔しそうに燐は自らの爪を噛む。

 二人も立ち上がるも郁人の身体を人質にされているため、身構える事しか出来なかった。

 鬼はさっきよりも邪悪な笑みを作り、三人へと歩み寄る。

 途中ですれ違った小十郎に、


「あの三人さえ殺せば、次は閻魔の番だ。あいつらの生命エネルギーも奪えば勝てるだろうからな」


 と話しかけたが、特に気にする素振りは見せずに言い返えされる。


「そうか。楽しみにしとこう。勝てれたらいいな?」


 小十郎に助ける意思は全くなく、ベッドに座った。

 その様子に鬼もちょっとだけ意外な発言に一度立ち止まったが、すぐに歩みを再開。

 何事もなかったように空中へと立つ。


「お前ら、閻魔に見捨てられたぜ?」

「なんじゃと!?」

「嘘だよ!?」

「演技の反応は止めなさい! 手加減して勝てる相手ではないのですから!」


 燐とメアリーがふざけた反応し、それにツッコミを入れるエイミー。

 三人は驚いた様子は一切なく、いつも通りの反応だった。

 さすがに鬼も笑いの一つさえ出ない様子で三人を見つめている。


「鬼には悪いが、最初から閻魔殿に助けてもらおうとは思っておらんのじゃ」

「前世の頃、郁人には迷惑をかけてしまいましたからね。その恩返しの一環としてやれば良いだけの話ですわ」

「そ、閻魔様は守るべき存在の一人というところだね。問題はどうやってお兄ちゃんを助けるかって部分だけ」

「それもなんとかして見つけるしかないですわね。思いつく限りでは、あなたが疲弊するぐらい追い詰めるしかなさそうですけど」

「なぁに、力を使わせればよいのじゃろ? 簡単なことじゃよ」


 燐が軽く呼吸をして、全身に力を入れた。

 全身が逆立つようになり、瞳孔が獣のように一直線のものへと変わる。同時に周りの空気がピリピリとしたものになり、殺気を鬼へと絞る。

 それはエイミーとメアリーも同じように変わる。

 エイミーは燐とほぼ同じ感じの状態へとなったが、メアリーは目が血に染まったように充血する。今回は殺気で脅すのではなく、肉体も使うための戦闘スタイルになっていた。


「最初からあいつらの心配はいらないってことだ」


 小十郎は完全に見物モードになっている。

 三人の本気状態に怯えてはいなかったが、小十郎の言った言葉の意味が分かると生唾を一回飲み、


「それでも俺の優位は変わらないけどな」


 そう呟いて、初めて余裕を失くしたかのように身体を身構えた。


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