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正体

 深夜、廊下を歩いている人物がいた。

 もちろん小十郎や燐、エイミー、メアリー、郁人ではない他の人物だ。

 その人物は人間が普通に歩くスピードのまま、足音一つ立てない。まるで存在そのものを消しているような状態だった。

 その人物はある部屋の前で止まる。

 部屋の前に掲げられているプレートには『ベッドルーム』と書かれてあった。


「閻魔が寝ているのはここだな」


 ボソボソと独り言のように小さく呟く。

 まるで小十郎がこの部屋で寝ていることに確信を持っているような呟き方だった。

 その人物は息をさらに静めるようにドアノブに触り、回す。鍵はかかっていなかったらしく、あっさりと開くドア。


 軽く口端を歪め、人が通れるぐらいの隙間を作り、素早く部屋へと入る。

 ドアは完全には閉めず、ラッチボルトの部分がギリギリ入らない程度に隙間を開けていた。

 そして、ベッドで寝ている人物――小十郎へと近づく。

 小十郎はその人物に気付いていないらしく、静かな寝息を立てて寝ている。


 しばらく様子を見守った後、その人物は右手を構えた。

 握り拳でなく、貫手。

 先端からは爪が伸び、一瞬で手が凶器へと変わる。

 その手を小十郎の胸元部分へと狙いを定めると、躊躇なく振り下ろす。

 貫手は小十郎の胸元へと吸い込まれていき、あと少しで布に触れるという位置で、


「お前は何者じゃ!」


 その声と共に直前でその貫手を止められる。

 声の主は燐。

 燐はいつの間にかその人物の隣に立っていた。

 その人物が燐の方へ顔を向けたとほぼ同時に明かりが点き、燐に腕を掴まれた人物の姿が露になる。


「お主は……!!」


 燐は一気に怒った顔から絶望した顔へと一気変わる。

 燐に腕をつかまれていた人物――吉原郁人。

 彼がいた。

 ただ普段と違い、邪悪な笑みを浮かべている。


「なぜじゃ! なぜお主が閻魔殿を!?」

「そいつは郁人じゃない。初めて会ったのは郁人をここに招いた時だったな」

「……」

「あの時の奴じゃと?」

「そうだ。言ってみれば、郁人のもう一人の人格ってところか?」

「もう一人?」


 小十郎はその手から離れるようにベッドから降りて、郁人を見つめる。


「それはどういうことですか? そんな情報、聞いてないんですが……」

「意味が分からないよ。人間界に居た時は二重人格みたいな症状なかったのに、なんでここに来た途端に出てくるの?」


 どこからか現れた二人はドアから逃れられないように立っており、燐の元へと少し近寄りながら尋ねた。


「転生するときに手違いで紛れこんだのさ、こいつは。な、地獄の鬼」

「やっぱバレてたか」


 郁人は燐の腕を振り払うと、窓際へ跳躍する。

 着地すると本性を現すように、頭からは角、口からは犬歯が伸び、左手も右手と同じように爪が伸びていく。そして肌は赤黒いものへと変わる。

 最終的に郁人の素体と比べると赤鬼の割合が多い状態へと変化した。


「地獄の鬼? それがなんでお兄ちゃんの姿になるのさ」

「意味が分かりませんわ。それに手違いで人間界に行ったとしても栄養がないから消滅ぬのでは……」

「よく分からんぞ?」

「明弘の魂に憑いて行ったんだよ、この鬼はな。そして郁人の中でこいつは生きていた。だからなんだろ、郁人のあのビビり体質の原因は」


 小十郎は確認するかのように鬼に確認する。

 今度は両方の口端をつり上げて笑った。


「正解、そこまで調べ上げてたか」

「いや、意味が分からんのじゃが?」

「馬鹿だな、燐は……」

「だいたい読めてきましたわ。つまり郁人の体質をそうすることで、直接『負の感情』を食べて生きながらえていましたのね」

「だから、お兄ちゃんはここに来て、ビビり体質が治まったんだね~。それもそっか! ここには空気中に『負の感情』がいっぱいあるから、お兄ちゃんから摂取しなくも問題ないもんね」

「おおー! そういうことじゃったか!」


 二人の説明に燐も鬼が今まで生存していた理由がようやく分かったようで、一人納得するように頷く。

 その様子に燐を除く三人はため息を吐いて、呆れていた。


「しかし、なぜ妖怪を襲ったのじゃ?」

「自分の身体を実体化させるためだろ。いくら空気から摂取したところで高が知れている。地道に摂取するよりも他の妖怪の生命エネルギーを奪った方が効率が良いからな」

「昨日の連中は特に美味しく頂いたぜ? おかげさまで完全に実体化することが出来たしな」


 鬼は小十郎の考えを否定せずに堂々と語りながら、周囲を確認していた。

 逃げるタイミングを伺っているのだ。

 もちろん四人はそのことに気付いており、逃がすつもりは全くない。

 そのため鬼も隙を見つけられないため、逃げられずにいた。


「とりあえずじゃ、あやつを倒せばよいのじゃろ? それで問題解決で間違いないのう?」

「たぶんだけどな。あいつが消滅ねば、奪った生命エネルギーが本来の妖怪のところに戻ると思うぞ?」

「ぶっ倒せばいいのなら、そう言ってくれればよいのじゃよ」


 燐はそう言って、右手を上に掲げると火球を作り出した。

 それを容赦なく鬼に向かって投げつけるが、鬼はそれを簡単に避ける。

 いくらスピードがあっても直線的な攻撃、当たり前の行動だった。

 火球は窓に当たると炸裂し、窓と壁を破壊。周りには火の粉が飛び散り、周りに着弾と同時に燃え上がる。


「おい、人の物を燃やすなよ!」


 小十郎は燃え移ったものを即座に消火し始めた。


「すまぬ。しかし、まさか簡単に避けられるとはのう……」

「当たり前ですわ。もうちょっと考えて攻撃したらどうですの? あんな単調な攻撃で勝てるほど甘い相手ではないでしょう!」

「そうそう、こうやってさ!」


 メアリーがお手本を見せるかのように、人形のジャックを使い、攻撃を仕掛けた。

 ジャックは両手に包丁を持ち、乱雑に斬りかかる。

 小さい人形だからこその利点――小回りと素早さを生かしていた。

 しかし、鬼もそれに負けないぐらいの速さで立ち位置はなるべく変えず、当たりそうな所だけを予測して器用にかわしていく。


「一回も当たってないぞ?」

「ああやって動きを制限していくのですわ! あいつはまだ実体化して間もないんですから、体力の消耗も早いに決まっていますわ!」

「そうなのか?」

「そこまではボクも知らなかったけど……」

「メアリーは分かってなくても、それなりに隙を作っているようで助かりますけど、ねっ!」


 ジャックが攻撃をし続けている時に出来た隙を狙い、エイミーが指からレーザーみたいなものを打ち出す。

 それが鬼の左足を貫通する。

 鬼は攻撃で体勢を崩され、その場に座り込んでしまう。が、上半身だけは動かし、人形の攻撃をかわしていた。

 しかし、次第にそれも意味がなくなり、どんどん身体に傷が付けられていく。

 

「閻魔様を殺ろうとした時の一撃の強さには気付いていましたからね。前回の奇襲の時より学習していたようですけど、甘いですわ!」


 鬼はかわすことが出来なくなったことを悟ると、それをカバーするように自分の周りに結界みたいなものを張り、ジャックを吹き飛ばした。

 再び、エイミーがさっきと同じ攻撃を仕掛けるが結界により、それも弾かれる。


「なっ!?」

「これって閻魔様が張るような結界みたいなんだけど……」

「つまり、結界が消えるまではワシらの攻撃は受けつけんというわけか」


 三人はそのことに驚き、歯軋りを鳴らす。

 小十郎と同じ力が使えるという事は、小十郎より格下である三人の力ではこの結界を破る事が出来ないからである。

 燐が原因で燃え盛ったものを消火し終えた小十郎はその結界を見て、軽く口笛を吹き、感心していた。


「俺が使うような結界を作り出せるのか。さすがだな」

「くくく、おかげさまでな。地獄に落ちた人間や妖怪に負けないためには必要な力だ。この力が使える事に感謝だな」

現在いまのお前ではその力を使うエネルギーの消費は激しいだろう? 実体化したばかりでは特に、な」


 小十郎は、勝敗は決したと言わんばかりにそう言った。

 その言葉の意味を現しているかのように、鬼の手足はどんどん透けていく。

 それだけエネルギーを使っているということなのだろう。

 しかし、鬼は小十郎の言葉に肯定も否定もせず、黙っていた。


「素直に負けを認めたのか?」

「お前らは絶対に俺には勝てないさ」

「どういう意味ですか?」

「すぐに意味が分かるさ」


 そう言って、鬼は身体が透けていくことに対して気にかけることもなく、結界を張り続ける。

 その時だった。


「え、なんで俺? いや、俺じゃないみたいだけど……俺?」


 突如、扉の方から聞こえてきた声に四人が慌てて振り返ると、そこには郁人の姿があった。

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