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連行②

 郁人は城へと連行され、ある部屋に通された。

 最初は法廷の部屋へと連れていかれるのかと思っていたが、どうやら違う部屋らしい。

 牛鬼が代表して、その部屋をノックする。


「おー、入れ」

「失礼します、閻魔様」


 牛鬼たちに連れられて入ると、椅子に座り、くつろいでいる小十郎の姿が中にはあった。

 全員が中に入ったことを確認すると、小十郎は牛鬼に向かって穏やかな声で話しかける。


「ご苦労だったな。じゃあもういいぞ」

「いや、警護を――」

「良いから下がれ」


 小十郎は牛鬼を含めたその他の妖怪を無理矢理下がらせ、その場に残されたのは郁人、燐、エイミー、メアリー、小十郎の五人になった。

 三人は小十郎さえ睨みつけている。


「そう睨むなよ。昨日も言っただろ、したくてしてるんじゃないって」


 三人のその視線を受け止めながらも、小十郎は指を鳴らして、郁人を縛っていたブロックを消し去る。

 そんなに長い時間ではないけれど、拘束されていた手首を撫でつつ、周りを確認しながら、


「ここは閻魔様の個室?」


 周りにある金銀銅などの豪華な調度品を眺めた。

 一般庶民として生まれた郁人には見慣れないものばかりで珍しく、ついそちらに目が入ってしまう。

 のん気そうな反応をしている郁人に対し、不満を漏らすのも三人だった。


「なぜお主は怒らんのじゃ!」

「それは後でもいいですわ!」

「なんでそんなマイペースで入られるのさ!」

「そんなに怒る事でもないだろ。疑われるのは仕方ないことだって分かってるだし……」

「郁人の方が話の流れを分かってるな。昨日から言ってるだろ。お前らは俺が本当に郁人に対してあんなことをすると思うか?」


 三人の様子に小十郎はちょっとだけショックを受けているようだった。

 しかし、三人はそんな小十郎の様子さえも気に食わないらしく、まだ睨みつけている。


「言いたい事は分かりますけど、あの連行はないと思いますわ」

「あれはあいつらが勝手にした事だ」

「そこは止めなよ。閻魔様なんだから、それぐらいの力はあるでしょ?」

「まぁな」

「だいたい連行しなくても、ワシらが今朝の状態を知った途端、ここに来るわ」

「それも分かってたけどな」


 小十郎は否定しようとはしなかった。

 どっちの味方になることも出来ないのだろう。

 なぜか分からないが郁人はそう感じてしまった。

 それよりもなぜ人間である自分にこんなにも親身になってくれるかと、前から気になっていたため、郁人はそのことについて聞いてみることにした。


「なぁ、閻魔様。なんで俺をそんな風に庇おうとするんだ? もしかして俺と閻魔様って三人みたいに前世で知り合いだったりする?」

「なぜ、今そんなことを聞くのじゃ?」

「本当だよ、お兄ちゃん!」

「いいから、そっちの話を聞かせてくれよ」


 小十郎は少しだけ笑ったような気がしていた。

 まるで、郁人からその話が出る事を待ち望んでいたかのような顔。


「やっとか。付き合い自体は長くないかもしれないが、燐よりも前の時代で俺はお前を尊敬していた後輩みたいなものだ」

「なんじゃと!?」

「嘘ですわよね!?」

「あり得ないでしょ!?」


 出していた殺気すらも一気になくなるほどの驚いている三人。

 郁人も正直驚いていたが、三人の事もあったのでそれほどでもなかった。

 今まで小十郎と話した中での生意気な発言に対して、注意一つなく、それどころか自分と話す時は何かを懐かしむような目をしていたことから、そんな気がしていたのだ。

 郁人が一番驚いたことは人間から閻魔になれることだった。


「なんで閻魔になったんだ?」

「それは秘密だ。誰にも話すつもりはない」

「ん、分かった。いくら前世の知り合いだとしても『閻魔様』って呼んだ方がいいよな? 話し方はどうしようか?」

「呼び名はもちろん様付けだ。話し方は今のままで良い。そっちの方が俺も昔の名残で話しやすいからな」

「了解」

「ワシらも気軽に話して良いかのう? あやつの前世仲間として……」


 この流れについてくるように燐が小十郎にそう尋ねる。物は試しと言うような口ぶりで。

 燐のその質問に対して、小十郎はにっこりと笑い、


「普通に考えて駄目に決まってるだろ」


 突然目を鋭くさせ、冷たい声で脅すように注意した。

 分かりきっていたことだったが、ここまで強く注意されるとは思っていなかった燐はそれに押され、項垂れる。


「そんなことよりもこれからどうするんですか? いくら閻魔様とあなたが昔の仲だと言っても解決なんてしませんわよ?」

「本当だよ。どう説得するつもりなの、閻魔様」


 燐のことを放って、エイミーとメアリーは真剣にそう尋ねた。

 小十郎も原因が分からず、困っているいるようなに腕を組む。

 しかし、郁人にはそれが演技にしか見えなかった。

 理由はない。

 直感がそう告げていただった。


「ま、今日はこの城に泊まってもらう。郁人、いいな?」

「昨日と一緒で拒否権なんてないくせに」

「正解」


 にんまりして笑う小十郎。

 何かを企んでいるかのような顔だった。

 郁人はまたしてもロクでもないことに巻き込まれることが簡単に想像出来たため、ちょっとだけ冷や汗を掻いてしまった。


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