連行①
翌日――。
郁人は窓を叩く音で目を覚ました。
中途半端に状態で起こされたためか、軽く頭痛がしている。
しかし、そんなことは関係なしに起こしに来たミイラ男は窓をガンガンと叩き続け、エイミーがまだ眠そうに目を擦りながら窓を開けた。
「いったい何があったんですの?」
「エイミー様、人間を監視していた妖怪たちが全滅しました。他の者と同じような状態です。故に閻魔様から人間を城へ連れてくるようにとの命令が――」
「なんですって!?」
「そんなバカなっ!?」
「おかしすぎるでしょ!!」
三人は動揺を隠しきれず、そう声を荒げる。
郁人はショックすぎて、言葉さえも出なかった。
なんでこんなことになってしまっているのか分からないが、はっきり言えることは自分ではないという確信だけ。それでなくてもあの妖怪全員を相手にしろと言われても、一人でも勝てないだろう。
それだけは自信を持って言い切れる。
「そんなはずはないのじゃ! ワシらもその疑いに備えて、結界を張っておいたのじゃぞ!? なぁ、二人とも!」
「そうですわよ! 探知結界なのですから、私たちが分かりますわ!」
「なんで閻魔様までお兄ちゃんを疑うのさ!」
ショックを受けている郁人に変わり、三人は激怒していた。
起こしに来たミイラ男さえもその怖さに少しだけ怯えている。
「やめろよ、その人が辛そうだから。とりあえず城に行こう」
郁人にはそう言うことしか出来なかった。
きっと三人はどう宥めようとも怒りを抑える事が出来ないことが分かっていたからだ。
「すまぬ、守ってやれなくて」
「ごめんなさいですわ」
「ごめんね」
「気にするなよ。三人のせいじゃないさ」
怒りに震えつつも必死に謝る三人に郁人はそう言えば、壁をすり抜けて、地上へと降りる。
三人も郁人の後へ続き、降りてきた。
このまま自分の足で行けると思っていた郁人の考えは甘かったらしく、近くで待機していた妖怪たちに囲まれ、
「吉原郁人、お前を拘束する」
リーダーらしき牛鬼の妖怪がそう言うと、何やらブロックのようなもので手足を拘束され、磔のような体勢にさせられる。
「なにこれ?」
「それでお前の力を封じさせてもらった」
「なるほどね」
郁人はつい納得してしまった。
確かに力を封じられてしまえば、逃げる事など一切出来ない。唯一このブロックに有効な『すり抜け』を封じられれば為す術もないのだから。
しかし、この牛鬼は一つだけ忘れていることがあった。
それは郁人が人間という事だ。
妖怪ならば能力を封じられるということは結構辛いのかもしれないが、人間は元々そういう力を持っていない生き物。封じられたところで痛くも痒くもない。
郁人は大したことではなかったが、やはり三人が牛鬼に噛み付いた。
「なぜ、そこまでするのじゃ!」
「仕方ありません。この者は我ら妖怪を襲った可能性があるのですから」
「そんなわけないじゃん、絶対にありえない!」
後ろから感じる殺気に郁人は感じ覚えがあった。
それはあの『すり抜け』の修行場の時に感じたものと同じ感覚。
つまり三人とも遠慮なく、この警備たちと殺り合う気満々だという事を知らせるものだった。
「止めろって。そんなことしたら三人の立場まで悪くなるだろ?」
郁人にはこう言うしか出来なかった。
平然としている郁人が気に食わなかったらしい。
三人の怒りは郁人へ向く。
「しかし、お主は本当に何もしてないのじゃぞ!?」
「そんなこと俺が一番知ってるよ」
「だったら、なんでそんな風に落ち着いているのですか!?」
「こんな状態だからだろ? 詳しい話は城で話せばいいだけだ」
「お兄ちゃんはそんな格好までさせられてるんだよ!? 少しは嫌がりなよ!!」
「嫌がったところで解除なんてしてくれないだろ。だから三人とも大人しくしてればいいんだよ。俺のためにありがとうな」
三人の気持ちが本当に嬉しかったため、素直に郁人は言った。
この三人が暴れたら、この警備たちに勝てることは間違いないのだろう。それだけは予想しなくても分かる。
しかし、その後のことが問題なのだ。
三人がこのまま城へ乗り込むのなら、三人は下手すれば反逆罪で捕まる。違うパターンだと自分を逃がそうとすることが予想出来た。どっちみち逃亡援助罪になってしまう。
郁人にとって、今の状態よりも三人が罪に問われる事の方が嫌だった。
夢で見たように三人を守れなかったあの頃は違い、こんな小さい事でも三人のことだけは守りたかったのだ。
郁人は軽く首だけを後ろに向けると、三人はまだ納得はしていない様子で殺気を飛ばしていた。
しかし、郁人の気持ちを察したらしく、三人は深呼吸をして心を落ち着ける。
「分かりましたわ。今は我慢します」
「うん、お兄ちゃんの優しさに感謝しなよ」
「ただ、雑に扱ってみろ。消滅すぞ」
「分かっております」
三人はしぶしぶという感じだった。
しかし、発言通りに戦闘態勢だけは解いておらず、先を歩く妖怪たちに向かって殺気を飛ばし続けている。
それに当てられてか、牛気のみならず他の妖怪の歩みはぎこちないものとなっていた。




