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監視

 あれから数日――。

 郁人はあの後も三人と一緒に訓練を続け、『すり抜け』と『浮遊』に関しては完全にマスターし、家の中にも自分の力で入れるようにまでなっていた。

 もちろん、それで妖怪化が進んだわけではなく、容姿などが一切変わっていない。ただ能力だけを手に入れた状態になっている。

 それと三人から、あの殺気の件についても話を聞いていた。

 郁人本人はそのことについて自覚はない。

 それにあれ以降、殺気が出ることもなく、念のため小十郎にそのことを報告すると、


「そんなに気にする必要はないんじゃないか?」


 いつものような軽い口ぶりで回答が返ってきたらしい。

 その回答に不満だったが、小十郎がそんな調子のため、考えても無駄と思ったのか、三人は考える事を止めたと言っていた。


 それより問題なのがあの噂の事である。

 被害は治まるどころか広がるばかり。

 そのおかげで郁人への疑いが強まっていた。

 三人が必死に庇ってくれているが、その場凌ぎにしかなっていない。だから郁人は向かう先々で、恐れられる視線やコソコソ話をしている妖怪たちの姿を何度も見ることになった。


「なんでこうなんのかなー」


 いつものように修行場からの帰り道。

 さすがにこういう状態に慣れてきたといっても、さすがに辛いものがあり、郁人はため息混じりにそう呟く。


「どうしようも出来んからのう」

「自分の身も守れない方のほうがどうかと思いますけど?」

「それって子供を庇ったりしての影響もあるんじゃないか?」


 エイミーの言葉に郁人はそう返す。

 この三人は人間から妖怪になったタイプであり、仲間とは一緒に居ない。

 そもそも、この三人には仲間がいるのかさえも郁人には分からない。今まで見た事も聞いた事もないからである。

 もし、仲間同士で子供を作っているタイプを考えれば、子供を守るために身を挺した妖怪もいることは簡単に想像つく。

 エイミーはそのことを忘れていたらしく、


「うっ、そうかもしれませんわね」


 ちょっとしょんぼりしていた。


「でもなんでこんな風な事件が起きちゃったんだろうね~」

「中には変わり者もおるってことじゃろうよ」

「今まで他人の生命エネルギーを摂取する妖怪なんて見た事も聞いた事もありませんわ」

「その摂取をするのが人間からだったもんな。って、なんだあの妖怪たち」


 郁人は城の近くまで来ると、約二十人ぐらい妖怪が門の前に集まっていた。

 普段は人間と同じく、私服を着ている妖怪の中では至って珍しい甲冑などを装備している。

 まるでこれから戦にでも向かうようなピリピリとした雰囲気も出ていた。


「あれは城を警備する人たちだね。いったいどうしたんだろう。普段は城から出ることないのに……」

「え、あれ全員城にいんの!?」

「うん、そうだけど……。あれはまだ一部なんだけどね。それがどうしたの?」

「あれで一部なのか!? 初めて来た時は牢屋番しか見かけなかったから、おかしいとは思ってたんだけど……」


 どこかにいるのは分かっていたが、まさかこれほど城の中にいるとは思っていなかった郁人は驚きを隠せなかった。

 

「あぁ、なるほどな。それはあれじゃ、お主が怖がりだから、あやつらを部屋で待機させておいたに過ぎぬ」

「なるほどね」


 燐が説明のおかげで郁人は納得することが出来た。

 今ではある程度の恐怖を流せるだけの免疫はついているため、見るだけで怖がる事はないけれど、あの頃は見ただけで卒倒出来る自信が郁人にはある。

 それだけ、あの時は気を使われていたことを今さらながらに郁人は実感した。


「しかし、珍しいですわね。閻魔様がどこかに遠出されるのかしら?」

「遠出とかするんだ?」

「しますわよ。どこに行くのかまでは知りませんけど」

「ふーん」


 小十郎は城で死人の判決ばかりしているとばかり思っていた郁人には新しい発見だった。


「今回は違うけどな」


 二人の会話を聞こえたらのか、その集団の中にいた小十郎が一歩出てくる。

 相変わらず、フランクな態度の小十郎に郁人はこの人がそんなに偉い人だと思えない。しかし、郁人以外の全員が一瞬で畏まり、これだけの警備がいるのだから、本当に偉いのだろう。


「それで今回はどうしてこんなに警備を出してるんだ?」

「あー、それはな……郁人を見張らせるためだ」

「は?」

「仕方ないだろう? お前がここに来てから被害が出てるんだから。それなりの対処をしないと」


 小十郎は不本意のように髪を掻きながら、そう言った。

 周りからきっとそれなりの苦情があったのだろう。

 その発言を聞いた後だと、ここに集まっている妖怪たちから敵視されていることが分かるほど鋭い目で見られていることに郁人は今頃気付いた。

 しかし、その発言に三人が噛み付く。


「閻魔殿、それは少しばかり酷いと思うんじゃが?」

「お兄ちゃんを連れてきたのはボクたちの責任だけど、なんでそこまで疑うの?」

「夜だって、一緒に寝ているのだから動き始めたら、私たちの誰かが気付くと思いますけど?」

「言いたい事は分かるが、それでみんなが納得出来るかどうかは別問題だろ?」

「そうですが……っ!」


 三人が最初から噛み付くことは分かっていたように小十郎は困った顔を浮かべ、郁人の方へ顔を向ける。


「そういうわけで郁人、文句はないな?」

「拒否権は最初からないくせに」

「まぁな」

「だったら、仕方ないじゃん。それでみんなが納得してくれるのなら、満足だって」

「すまん」


 簡単に頭を下げるわけにはいかないらしく、手でそれらしく謝ってくる。

 そのまま郁人に近づて来ると耳元で、


「三人の機嫌直しも頼む」


 そう言われ、改めて三人を見ると全然納得していないように軽く怒り、拳を握り締めている。

 こんな怒り狂っている三人の機嫌を直すことほど大変なことはないだろう、と郁人は思った。

 拒否しようと思ったが、すでに小十郎は郁人から離れ、妖怪たちの中に紛れ込むとそのまま城の中へと入っていく。

 郁人は仕方なく三人に話しかけた。


「ほら、三人とも機嫌を直せよ」

「悔しくないのか!? お主は疑われておるのじゃぞ?」

「なんでそんな風に平然としていられるのですか!?」

「お兄ちゃんももうちょっと文句言いなよ!!」


 郁人の想像通り、八つ当たりされる。

 

「落ち着けよ、閻魔様だってしたくてしてるわけじゃないんだからさ」

「そうですよぉ、燐様ぁ、エイミー様ぁ、メアリー様ぁ」


 不意に割り込んできた声。

 郁人はこの声に聞き覚えがあった。

 独特の口調だからなのかもしれない。

 もしくはここに来て、最初に話した人物だから印象深いとも考えられる。

 そう、あの骸骨の声だった。


「骸骨!」


 振り向くと、そこにはあの軽装備の骸骨がいた。

 牢屋で初めて会った様子そのままで、装備も武器と防具のみ。

 まったく変わっていなかった。


「郁人ぉ、久しぶりだなぁ。元気だったかぁ?」

「元気元気。って、なんでこの三人に様付けしたんだ?」

「今は郁人の家庭教師やってるがぁ、本当は閻魔様の側近なんだぞぉ」

「え、マジで?」


 再び三人の方を見つめる。

 三人は不満そうな顔のまま頷く。


「そんなに偉い立場なのに、あんな態度どう思うよ?」

「そんだけぇ、郁人のことが好きなんだろぉー?」

「分かってるけどさ」

「羨ましいねぇー」

「はいはい。って、骸骨も俺の見張りを?」

「そうなのよぉ。郁人がそんなことするはずねぇのになぁ」


 骸骨も地面を蹴って、少しだけ不満そうにしている。

 それだけで郁人はこの骸骨にも信用されていることが分かり、安心した。

 もし疑われているとしたら、初めて喋った相手だけあってちょっとだけショックを受けてしまいそうだったからだ。


「あの頃に比べたら、精神的にも強くなれた気がするけどさ」

「だなぁ、とりあえずあの三人でも宥めないとけないんじゃないかぁ?」

「そうだな」


 骸骨の言う通り、三人はまし不貞腐れている。

 そんな状態で三人にしてあげられることなど限られていた。

 自分のためにこんなにも怒ってくれているのだから、それなりの感謝の気持ちを込めて対応しないといけない。そうを考えると、今の郁人に出来る事はあれの解禁ぐらいしかなかった。

 それはそれで、あの三人は間違いなく羽目を外しそうなのは予想がつく。だから本当は嫌なのだが、それ以外のことが思いつかないため、


「ほら、三人とも帰るぞー。今日ぐらいは一緒に風呂に入ってやるから」


 恥ずかしさを堪えつつ、そう言った。

 三人はその言葉で一気に顔が笑顔になる。

 それどころか、警備の妖怪たちも一気に郁人の方へと顔を向け、殺気とは違うものが郁人を襲った。

 その意味が分からない視線に郁人は身体を震わせる。


「え、なに!?」


 こんな感覚は今までに味わったことがなく、反応に困ってしまう。


「あちゃぁ、ここのみんなはぁ、あの三人のファンの人もいるからぁ、それはちとまずいぜぇ」

「えぇー!? 先にそれを言えよ!」

「オイラも郁人のその発言にはびっくりだぁ」


 骸骨は他人事のように、郁人の発言を楽しそうにケラケラと笑っている。

 慌てて郁人は「冗談だ!」と言おうと思った矢先の事。


「そんなことはどうでもよいのじゃ!」

「そうですわ!」

「ほら、帰るよ!!」


 そんな視線などお構いなしに喜んでいる三人は郁人の両手と背中を押して、家の方へと強制的に移動させ始める。

 三人にとってファンなどどうでもいい存在らしく、すでに郁人と一緒にお風呂に入れるということしか考えていないぐらい真剣な顔をしていた。

 郁人は弁解もさせて貰えず、最後に視界に入った映像は、楽しそうに骸骨が手を振ってくれる姿だった。


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