変化①
再び前世の記憶を取り戻して以降、三人は変わった。
時代は違っても、三人とも郁人と恋人だったのだから、誰が郁人にとって一番なのか認められたくて仕方ないらしく、手段を選ばない感じで郁人に迫っていた。
人間界で住んでいた時は、こんなことなんてあり得ないと思っていた郁人にとってどう接したらいいのか分からないことが多い。
それを考えると、アニメや漫画、小説の主人公が救われていたのは鈍感な性格のおかげだと分かってしまう。
逆に鈍感だから、上手く立ち回れていたのかもしれない。
今も揉めている三人を見ながら、郁人はため息を吐いた。
「二人が少しだけ落ち着かんからいかんのじゃぞ? 分かっているのか?」
「燐の行動がエロいからいけないのですわよ! 私のは普通ですわ!」
「エイミーちゃんも十分エロいキスとかしてるよね? 人のこと言えなくない?」
「そういうメアリーは子供という利点を活用しすぎなのじゃ! 前世では妹だったのだから、もうちょっと気を使えばよいのじゃ!」
「べ~だ、血は繋がってないもんね~」
「お前らはそのやり取りを何回繰り返すつもりだよ?」
「「「はっきりしないのが悪い」」」
「はいはい、悪うござんしたー」
こんなやり取りがすでに何回続いたか分からない。
そもそも、郁人は恋愛というものを経験したことがなかった。むしろ彼女が出来そうなイケメンでもなく才能もない。いわゆるごく普通の人。
それなのに前世の恋人とか言われても、あの頃とは魂が一緒というだけで接し方まで同じにはならない。だから、どう対応したらいいのかも悩んだ時もあったが、
「そのままでいれば良いのじゃ」
「別に昔の頃に固執してるわけではないですし……」
「今のお兄ちゃんを見ないと可哀想でしょ?」
三人の言葉でそれは杞憂に終わる。
郁人はその言葉でかなり救われた。
でもスキンシップが激しくなったことだけが悩みなのは間違いない。
例えば燐の場合。
その話は三人の前世の記憶が戻った日にまで遡る。
ローテーションのせいで、その夜は燐が郁人と一緒に寝る事になっていた。
郁人も三人のテンションを見ていて、なんとなく嫌な予感がしたからこそ、変な行動は慎むように約束させて眠りについたはずだった。
「やめろよ、燐。足が重い」
翌朝、郁人は太もも辺りに何か重いような、暑苦しいような感覚に目を覚ました。
いつものように足を絡めて来ているのだろう、と思っていた。
燐の言葉もいつも通りのものが返ってくる。
「嫌じゃ」
「そういうワガママ言わない」
郁人は頭を撫でて、落ち着かせようとするが手を持っていった場所に頭はない。
それどころかどこを触っても空振りするだけ。
「あれ?」
眠いのを我慢して、今まで閉じていた目を開けようとしたと時の事だった。
お尻を上げられて、ズボンが下に下りる感覚が郁人に伝わる。
「ちょっ! 待て!」
郁人はその瞬間に何をされようとしているのか気付き、布団を弾き飛ばっした。
布団が剥がれた先に燐の姿。
ズボンが脱がされ、下着姿だけになった郁人の股間辺りに顔がある。
「何してる?」
「秘密じゃ。二人はちゃんと防音の結界を張っておる。だから、当分は起きぬはずじゃから大丈夫じゃぞ?」
「何が大丈夫だって?」
郁人にとって、悪い予感しかしなかった。
女に飢えている男性にとってはきっと幸福な展開しかこの先にはない。それだけは間違いないと分かる。
郁人もそれを夢見てなかったとは言えない。
しかし、この状況でその展開は起きて欲しくなかった。
郁人の気持ちを知りつつも、燐は気にしていない様子で次の段階へ進めようと企んでいる顔をしている。
「お主も溜まっておるであろう? あの時に出来なかった事を今シてやるぞ」
「下着まで脱がそうとするな! つか、今はシないでくれ。大丈夫だ、妖怪に発情はしないから!」
「でも身体は素直だと思うがのう」
確かに郁人の身体は正直だった。
男として当たり前の部分が大きくなっているからだ。
もちろん燐のナイスバディと思われる身体に反応しない人間はいないと思う。
それだけは郁人にも確信出来た。
でも、今は認めるわけにはいかない。
「男特有の朝の生理現象だから気にする……な。って、おい!」
「ふむ、そうなのか。それならば、なおさらすっきりさせてやらねばのう」
燐は脱がす事は諦めたらしく、下着から手を離す。
その代わりに下着の上からでも分かる膨らみの部分に自らの胸の谷間に置いて挟むと、動かし始めた。
「これでも気持ちいいのじゃろう?」
「そ、それは……っ、気持ちいいけど……って、そういう問題じゃない!」
郁人は燐の顔に手を押し付けて、無理矢理押して胸を引き離した。
あのままだと本当にやばかったらからだ。
「なんで、こんなに大胆になってんだよ!」
「あの時に出来なかったからじゃ」
「夢の中とは全然キャラ違うし!」
「まぁ、ワシはワシだからのう。人間時のワシならたぶん出来んかったと思うが、今は問題なしじゃ。だからワシの気持ちと行為をお主は素直に受け取ればよいのじゃ」
燐にそう言われると、郁人は何も言えなくなってしまう。
確かに夢の中では燐からすればしてあげたかったこともたくさんあったはずだからだ。だから今してあげたいと思ってしまうのは自然なのかもしれない。
だったら、それを拒む権利は――たぶんない。
郁人は、そんな気持ちにさせられてしまった。
「って、そんなことを真に受けないのですわ!」
「このバカお兄ちゃんめ!」
再び燐が行動しそうになった時にエイミーが燐の顔面を蹴り飛ばした。
燐は向かい側になる本棚にぶつかり、崩れ落ちた本に埋もれる。
郁人はメアリーに頭を引っ叩かれて、我を取り戻す。
「ったく、油断も隙もないんですから」
「エイミー、何をするんじゃ! ワシの邪魔をするな!」
埋もれた本から出てきた燐は無傷だった。
「お兄ちゃんもお兄ちゃんでしっかりしてよね。ボクの恋人なんだからさ」
「そこ、何を言ってるのじゃ」
「そうですわ!」
こうして言い争いが始まり、郁人は傍観することしか出来なかった。




