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真相④

 しばらくすると、右端から差し出された手に郁人は気付く。


「ほら、掴まるのじゃ。順番的にワシじゃろ?」

「そうだな。エイミー」

「分かりましたわ」


 もうちょっと抱きしめてもらいたかったようだが、エイミーは素直に郁人の上から退いた。

 郁人は差し出された燐の手に掴み、起き上がる。

 小十郎を見ると、小袋を逆さにして中身がないことをアピールしていた。すでに燐も前世の記憶が入っている事が分かる。


「ワシも二人に習うかのう。忠道様、お久しぶりでございますわ。あの時は辛い思いをさせてしまって申し訳ございません」

「いや、謝る必要なんかないさ。二人と同じなんだろう?」

「そうですわ。ただ、頼りないのは楓さんの時代も変わらなかったみたいですが……」

「そればかりは俺のせいじゃないと思いたい」


 燐の言うとおり、あの夢の意味を知った今では本当に自分の勇気や度胸がないことを痛感させられる。

 しかも、それは今でも変わらないのだから、燐には申し訳なく思ってしまった。

 しかし、燐にとってはそれは雑談の一つに過ぎなかったらしい。


「でも、私はそんな忠道様が今でも好きですわ」

「あ、ありがとう。それは俺も――」

「ちょっと待ったぁぁあああ!」

「なに、いきなり告白なんかしてるのですわぁぁああ!」


 流れが流れなので、告白も忠道のことでそう言っているのかと思ってしまい、郁人も返事を返してしまいそうになっていた。

 しかし、二人は燐の真意に気付いたのか、慌てて止めてくれたことで郁人も気付き、口を閉ざす。

 燐はちょっと悔しそうに舌打ちをした。


「なんでいきなりそうなるんですか!」

「そうだよ! ボクたちもしなかったじゃんか!」

「なんじゃ! ワシの方が先に好きになったのじゃぞ! その権利はあるはずじゃ!」

「そういうなら私にだってありますわよ!」

「でもさ、順番的に最後がボクみたいだし、今でもその気持ちが続いている可能性があるのはボクだよ!」

「うるさい! 年配を敬え!」

「そんなの知らないですわ!」

「それだったら、一番年下のボクに先輩として譲ってくれてもいいじゃん!」

「マーキングしたもの勝ちじゃ!」


 三人の言い合いを見守っていた郁人の頬を掴むと、燐は遠慮なくキスした。

 軽く口と口が触れ合う程度の優しいキス。

 郁人もまさか燐がそんな行動を取るなどと思ってもいなかったので、目を丸くするしか出来なかった。


「「あぁぁあああああ!!」」


 エイミーとメアリーは絶叫した。

 そして、怒りから戦闘体制に入ろうとしていたところで、小十郎によって止められる。


「郁人が死ぬぞ?」


 その言葉によって、二人は戦闘態勢を解除し、悔しそうに握り拳を作っている。


「くっくっく」

「くっ」

「うぅ~」


 勝ち誇った笑みを浮かべる燐に対して、何も出来ない二人は完全に苛立っている。

 そのことから、郁人はこれから違う意味で大変になりそうだという予想がついてしまう。

 郁人の取り合いという醜い争いの中心人物として――。


「あ、でもなんで俺はあんな夢を見ることになったんだ?」

「この世界の空気の影響だろうな。あくまで予想になるが、妖怪の栄養となる『負の感情』が入っているせいで、前世の解決されなかった後悔が思い出される形になったんじゃないか?」

「なるほど」


 三人の死の原因になっている前世の想いを考えれば、心のどこかで悔やんでいたところがあったのかも知れない。それがここの空気により呼び起こされてしまった、と考えるのならば自然のことだ。

 『死』という単語であることを郁人は思い出した。


「あのさ、あの猫は助かったんだし、俺がここから人間界に帰っても問題ないんじゃないの?」

「あー、確かに。でも帰れると思うか?」


 小十郎のその言葉の意味が分からないわけではない。

 背中に感じる『帰って欲しくない』というオーラを出しているあの三人がいるからだ。


「やっぱ駄目?」

「当たり前ですわ!」

「そんなに嫌なの!?」

「拒否権を与えると思えるか?」


 三人の発言からは二度と手元から手放すつもりはないほどの意思を郁人は感じた。

 つまり、ここに永住は確定したも同然だった。

 こういう展開になることを小十郎は予想していたのだろう。だから、ワザワザ家を用意したのだ。

 小十郎を見ると、今の状況を楽しんでいるかのように笑っている。


「いや、待て! つか、なんでお前ら転生しなかったんだよ!? 俺が転生したのって、メアリーはともかく二人のためではあるよな?」


 郁人はそのことを思い出す。

 夢の中でもそういう話をしていたはずだった。それなのに二人は転生せずに想い出を大切にする事を選んだのだ。

 なぜ、そんなことをしたのか気になった。


「簡単に失くしたくないから妖怪になったなのじゃぞ?」

「そうですわよ? だから転生することを拒んだ。あなたは地獄行きだったので成れなかったみたいですけど……」

「それ、全部お前らの勝手な考えだろ。ということで、俺は人間界に帰って、真面目に『人間』として生きたい。それが俺の今回生まれた意味だ」

「「「却下」」」


 三人の声は見事にハモる。

 この三人の目的はすでに『郁人を妖怪にすること』ではなく、あの頃出来なかった暮らしを一緒にするという目的しかないのが目に見えて分かる。

 それでもいつかは別れの時がくるはずだ。そうならないためには妖怪になる訓練はこれからも続けられるのだろう。

 現状をどうにか出来ないものかと小十郎を助けを求めた視線を送ると、


「頑張れ。念のために言っとくが助け舟を出してやってもいい。でもあいつらは拒否すると思うぞ?」

 

 完全な他人事になっていた。

 それでも、その助け舟を断る理由はないため、それに郁人は縋ることにした。


「よろしく!」

「お前ら前世の記憶は取り出せるん――」

「「「このままで!!」」」


 小十郎の言葉は遮るように三人は再び声をハモらせた。


「分かった」

「閻魔、粘れよ! そこは粘れよ!!」

「意見を尊重するって大事な事だろ?」

「俺の意見は!?」

「おっと、俺は用事を思い出した。じゃあな」


 小十郎は郁人を見捨てて、入ってきたように窓から出て行った。

 去り際に口パクで「お幸せに」と言っているのが郁人には分かったが、この状態が幸せではない。

 他人から見ればきっと幸せなのだが、現状では単なる修羅場だ。そして今まで以上に郁人の取り合いが始まってしまった。


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