表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/48

真相③

 その痛みが治まり、ちょっとだけむくれているメアリーに小十郎が改めて質問した。


「こうやって妖怪に記憶を還す行為は初めてだが、どんな感じだ?」

「ん~、特に違和感とかない、かな? 現在いまのボクに昔のボクが入り込むって感覚に近いから、やっぱりボクはボクだよ」

「そうか、大丈夫なら問題ないな」

「うん」


 メアリーは小十郎の質問に答えると、郁人の方へ顔を向ける。

 そして改めて、あの夢での行動について話してくれた。


「ここはボクじゃなくて、楓って感じで話すよ」


 そこで一旦会話を止めると、メアリーは深呼吸した。そしてさっきと同じように幻術で楓のような雰囲気を出して、説明をし始める。


「お兄様、ごめんなさい。楓はお兄様を苦しめるつもりはありませんでした。楓はお父様の命で、翌日には前回お見合いした相手の家に無理矢理嫁がないといけなかったのです。だったら、死んだほうがマシだと思いました。死ぬなら自殺でなく、お兄様の手で……。でもお兄様は絶対に嫌がるでしょう?」

「当たり前だろ。絶対に止めるし、自分の手でそんなことするはずがない」


 それだけは郁人にも分かった。

 いくら夢の中だと言っても、意識が共有されていたも同然なのだから、前世の明弘の気持ち=今の郁人の気持ちだからだ。

 どんな手を使ってでも楓の事を守ることは間違いない。

 

「だからなのです。だからこそ、お兄様のベッドに入り、手にナイフを持たせて、自分で首を斬りました。お兄様が絶対に楓の事を忘れないように。楓以外に誰も愛する事が出来ないように……。すみません、死んでからも迷惑をかけてしまいました」


 メアリーは素直に頭を下げる。

 感情移入しすぎたのか、泣いているらしく床には水滴が落ちるのが郁人には見えた。


「楓は悪くないさ。ただ、俺になんとかして欲しかったんだろう。楓の気持ちをちゃんと理解してなくて悪いな」


 郁人はそんな楓を怒る気にはなれなかった。

 そこまでして愛してくれていたのに、あの時の自分は逃げることしか考えていなかったのだから。


「ううん、大丈夫です! だって今はこうしてまた話せるのですから!」

「そっか」


 メアリーが再び深呼吸すると、楓の雰囲気がなくなる。


「これが真相だったんだね」


 メアリーも真相が分かり、満足したらしくのか、今までに見せた事のないようなすっきりとした笑顔を見せる。

 まるで楓の笑顔を見ているような気分になり、自然とメアリーの頭を撫でてしまう。

 その光景を燐とエイミーは羨ましそうに見ていた。

 そのことに気付いている小十郎は二人にその小袋を振って、ワザとらしくアピールしてみせる。

 二人は犬のように何度も頭を縦に振った。


「分かった分かった。んーと、これはエイミーか」


 小袋から取り出した水色のひし形をエイミーに向かって投げると、メアリーと同じようにエイミーの身体の中へと入っていく。

 エイミーはメアリーのように演技はせず、記憶を思い出したことにすっきりとした表情をして、郁人の元へと近づく。


「そろそろ良いですか、メアリー?」

「え~」

「私も話したいことがあるんですから」

「分かったよ~」


 メアリーはしぶしぶ郁人から離れる。


「私も昔のアニーみたいに話しますわ」


 エイミーはそう言って、コホンと一回鳴らし、


「レオン、ごめんなさい! 本当はレオンも辛かったはずなのに、私ばかりが逃げるように殺す事を頼んでしまって! でも本当は……レオンと幸せな人生を歩みたかったの! それなのに私の後を追うように自殺させてしまって……」


 郁人に抱きつきながら、そう言ってきた。

 今回は郁人もいきなりのことだったため、バランスを崩して、床に倒れこんでしまう。

 確かにアニーならば、普通に抱きつくぐらいのことををしてきてもおかしくない。日本と違い、アニーは外国人なのだから。

 ただ日本人が前世であるメアリーとまだ記憶を取り戻していない燐には全く面白くない表情を浮かべている。


「大丈夫だよ、アニー。一緒になりたかったのは同じ気持ちさ。だから俺もアニーの後を追ったに過ぎない。俺にとって、アニーがいない世界の方が辛いから。もし誰か悪いというのならば、あんな世界が悪いに過ぎないよ」


 メアリーの時と同じようにレオンの気持ちになって、郁人は答える。

 たぶん、レオンの記憶を取り戻したら、こういうに違いないからだ。

 エイミーも自分の気持ちを伝えられ、レオンとしての郁人の気持ちが分かった事で満足したように笑う。


「その言葉が聞けて嬉しいわ」

「なら、よかった」


 二人きりでも見た事のない笑顔に郁人も嬉しくなった。だからこそエイミーの背中に手を回して、抱きしめる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ