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真相②

「んで、それと夢がどう繋がるんだよ」

「あぁ、あれはな。そんな不幸なお前を助けて欲しいと言って来たのが、こいつら三人の前世の記憶だからだ」

「はぁ?」


 三人も一瞬で笑いが止まり、驚いた表情を浮かべていた。

 ものすごく間抜けな表情で小十郎を見ながら、なんて言ったらいいのか分からないように口を金魚のようにパクパクと動かしている。

 そんな三人の気持ちを代弁するように郁人が尋ねた。


「でもさ、妖怪になる時に人間だった頃の記憶がなくなるんじゃなかったっけ?」

「そ、そうじゃそうじゃ! そもそもワシらにはこやつとの思い出なんて完全にないぞ!?」

「そうですわよ! この流れで考えられるのは一つしかないじゃありませんか!」

「ボク的にはお兄ちゃんが欲しかったから、そう呼んでたんだけど……まさか本当にお兄ちゃんだったなんて! これからはあの夢の楓ちゃんのように『お兄様』って呼ぶね!」


 明らかに一人だけ反応が違っていた。

 そもそもメアリーが『お兄ちゃん』と呼んでいた理由を初めて知った郁人には驚愕だった。呼び方は好きに呼んでくれて構わないのだけれど――。

 

「そういう問題じゃないですわよ!」

「メアリーは楽観的すぎなのじゃ!」

「そ~かな~」


 そんなメアリーに二人は突っかかる。

 当たり前の反応だった。

 小十郎さえメアリーの反応には困っているように空笑いしながら、頬を掻いている始末。


「でもさ、あの夢の通りだとボクの前世はお兄ちゃんの血の繋がってない妹になるわけでしょ? 前からなんとなくお兄ちゃんが懐かしいなーって思ったんだけど、二人はどうなの?」

「私もそういう感じは少しだけありましたけど……」

「わ、ワシもじゃな」


 メアリーの言葉に二人も頷いた。

 メアリーが言ったようにあの夢は三人の内、誰か一人とリンクしていることから、間違いなく前世の記憶なのだろう。

 しかし、郁人はあの夢が自分の前世のものだとは認めたくなかった。

 内容が内容だからである。

 郁人の気持ちを知ってか知らずか、小十郎は話を続ける。


「ほら、続きを話すぞ。転生の話は知ってると思うが、地獄に行った奴もその悪の心っていうやつを浄化出来れば転生出来る。だから郁人があの二人を殺して、地獄に行ったとしても人間界に戻れたのは心を浄化されたからになる」

「なんとなく、そういう話を聞いたことがあるかも」

「前世の記憶を持ったまま人間界に行く奴もいるからな。その転生と同じく妖怪になると記憶を失うと言ったが、あれにはまだ続きがある。これは妖怪たちも話してないんだが、失われた記憶は俺の城のある場所に集まる。んで、一つの結晶体になるわけだ」


 小十郎は懐から小さな小袋を取り出した。

 四人とも小十郎の説明の流れから、あの中に燐とエイミー、メアリーが人間として生きていた時の記憶の結晶体が入っているということになる。

 覚悟というのは、『その記憶を取り戻して真実を知りたいか』という意味なのかも知れない、と郁人は思った。

 三人も郁人と同じようなことを考えに至ったようで、少しだけ緊張した様子を見せている。


「今さら、それを取り戻してものう」

「私たちは私たちで生きてますし……」

「う~ん、どうした方がいいんだろう?」

「取り戻したところで、今のお前たちに昔の記憶が戻るだけだ。それ以外は変わらないぞ。というよりは、取り戻した方が郁人にとってはいいかもしれんがな」

「どういうこと?」


 その小袋を軽く振りながら、小十郎は郁人を見つめる。


「郁人が直接お礼が言えるじゃないか」

「そうだけどさ。でも、どんな方法で俺を記憶が救ってくれたんだ?」

「夢枕ってあるだろ? 寝ている時に枕元に誰かが立って、話しかけてくるって現象。この三人が現れて、『郁人を救ってくれ』って言って来たんだよ」

「同意とはいえ、二人を殺してるんだけどなぁ。楓に関しては分からないけどさ」


 郁人もまさか前世の恋人に救われると思っていなかったので反応に困ってしまう。

 確かに小十郎の言うとおり、三人が記憶を取り戻してくれた方が改めてお礼を言えるため、記憶を取り戻して欲しいとちょっとだけ思ってしまった。

 三人も自分の記憶がそんな行動をするとは思っていなかったらしく、戸惑った表情をしている。

 そんな三人の中で、先に結論を出したのはメアリーだった。


「まぁ、しょうがないか~。お兄ちゃんのためでもあるし、ボクは記憶を取り戻すよ!」

「簡単に決めていいのか?」

「そうじゃぞ! さっきから言ってるようにメアリーは楽観的すぎなのじゃ!」

「もうちょっと考えてからした方が!」

「いいんだよ。二人に比べて、ボクの前世には一つだけ謎があるし……。でしょ、お兄ちゃん?」


 メアリーは笑顔で郁人を見た。

 その通りだった。

 お互いが自分の気持ちを正直に伝え合い、満足していた楓が死んだ理由と郁人の前世である明弘を殺人犯にするような行動の理由。

 この二つが何回も夢を見たけれど、未だ解決されない謎だった。

 その謎を解決するためにメアリーは犠牲になろうとしてくれているのだろう。

 その気持ちは嬉しいけれど、そこまでして解決したいとも思っていない。 だからこそ、郁人はメアリーに自分の気持ちを素直に伝える事にした。


「俺のためにそこまでしなくていいんだぞ?」

「あれ、お兄ちゃんも反対なの?」

「そういうわけじゃないけどさ。俺のためじゃなくて、メリーが本気で取り戻したいと思っているなら、そうしてくれたんでいいよ」

「優しいね~。でもいいんだよ。ボク自身の記憶がなくなるわけじゃないみたいだし、何よりもあの謎はボク自身も知りたいからさ」


 メアリーはいつもと変わらない様子で、郁人に笑顔のまま、本心を伝えてくれた。

 覚悟は決まっているらしい。

 郁人は何も言えなくなった。


「分かったよ、じゃあ取り戻すしかないな」

「うん」


 気持ちが決まったことを確認した小十郎は、小袋に手を入れると、一つの結晶体を取り出す。

 それはひし形の形をした純白。

 あの夢を見ている限り、妹である楓に相応しい色だと郁人は思った。

 それをメアリーに向かって投げると、それはメアリーの胸の中に吸い込まれるように入っていく。

 一瞬だが、郁人にはメアリーが楓のように見える。


「楓……さん?」

「お兄様!!」


 声はそのままメアリーの声で郁人をそう呼びながら飛びついてきたため、郁人はそれを受け止めた。

 なんとなく飛びついてくるような予感がしたため、ちゃんと対応することが出来たが、まさか胸に顔を擦り付けてくることまでは予想してなかったので、ちょっとくすぐっくて軽く身じろぎしてしまう。

 さっきまでメアリーとは違い、やはり雰囲気もそれなりに違うように感じた。

 その光景を見て、思いっきり不満全開にしている燐とエイミー。


「メアリー、ふざけるのは止せ」

「そうですわ。いくら記憶が戻ったからって、そこまでしていいはずがありませんわ!」

「何をそんなに不満そうな顔してるんだよ。前世の影響で懐かしくなっているんだから、これぐらい許してやれよ」


 郁人の発言は二人の怒りスイッチを押したらしく、無理矢理メアリーを引き離す。

 そして二人はメアリーに拳骨を落とした。

 小十郎はその様子を楽しそうに見ているだけで止める様子はない。


「いった~、何するんだよ~」

「演技だってバレバレなんですわ! っていうか、あなたもデレデレしない!」

「お主には分からなかったかも知れぬが、幻術を使って、それらしく見せたに過ぎないのじゃぞ?」

「え、マジで?」


 小十郎の方を向き、確認してみる。

 二人が嫉妬から、そういう風に言っているのではないかと思ったからだ。

 満面の笑みで頷く小十郎。


「……お仕置きだな」


 郁人はメアリーの前に無言で近づき、目の前でそう言うと二人と同じように拳骨を落とした。

 まだ痛みが治まりきらない状態で、拳骨を三発食らったメアリーは軽く半泣きになるのだった。


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