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夢の繋がり

 郁人は完全に寝不足に陥っていた。

 あれから二週間経つが、悪夢をずっと見続けているからだ。

 あの三本がずっとループしていた。状況は悪くなるばかりで、改善する兆しは一向にない。

 何よりも初日に比べると間違いなく、その世界の人物と意識が一体化し、全ての出来事が現実として認識出来てしまっている。そのせいで、寝ても起きている気分だった。


「はぁ、眠い」


 郁人は今日だけでギネス記録を作り出すほど、この言葉を繰り返していた。


「完全に駄目駄目な状態になっておるな」

「仕方ないでしょう。毎日悪夢ですからね」

「う~ん、原因が分からないことにはね~」


 三人もこんな郁人を励ます言葉は見つからないらしく、見守る事しか出来ない状態だった。

 今日も浮遊の修行場に来ているが、郁人がこんな状態のため、修行は全く進んでいない。

 修行に精神エネルギーを使うため、精神的に弱っている現在いまの郁人ではその力を十分に引き出せず、逆に怪我をしかねない。

 今では修行というよりは気分転換にここに来ているという状態になっていた。


「本当は三人が何か企んでやってる……わけないよな」

「当たり前ですわ! なんでそうなるんですか!?」

「そうじゃそうじゃ! 脅かすなら、堂々とするわい!」

「うんうん、お仕置き……なんてしてる場合じゃないよね~」

「でもさ、隣で俺を見張る人によって、夢が変わるんだから疑いたくもなるって……はぁ、眠い」


 この二週間で郁人が気付いたことがそれだった。

 燐の場合が平安時代の夢、エイミーが外国の夢、メアリーが明治時代頃っぽい夢というものになっている。ローテーションで組んだのだから、偶然そういう順番になっているのかもしれないかと思い、郁人が変わるように頼むと、しぶしぶだが交代してくれた。しかし、夢自体も交代してしまっていたのだ。

 ここまで来ると悪意的な何かを感じてしまう。


「もうちょっと様子を見る?」

「様子なら十分に見ていますけど、それでもこの始末ですからね」

「とりあえず、もうちょっとゆっくり眠れたらな……」

「この調子じゃ修行にもならんからのう」

「そっちかよ! ……はぁ、眠い」

「当たり前じゃ」


 相変わらずの燐の発言に郁人は少しだけ呆れてしまった。

 三人からしたら、それが最優先事項なので考えないわけにもいかないのは分かる。

 でも、やっぱり心配して欲しかった。


「あ、ちょっといいかな? ボク的には平気なんだけど、たぶんお兄ちゃんが見てる夢をボクも見てるっぽいんだよね~。なんかボク、首切られて死ぬんだけどさ」

「え?」

「あ、そうなんですか? 私の場合は銃ですわよ。頭をバンって打ち抜かれますわ」

「ちょっ……」

「二人とも酷いのう。ワシは心臓を一突きじゃぞ? ちょっと苦しかっただけじゃ」

「おい」


 三人は郁人の様子を見て、ちょっとだけ身体を震わせていることに気付く。

 郁人は三人が自分へ意識を向けてくれたことが分かると、三人に軽くチョップを食らわしてからこう言った。


「全部、俺が見ている夢じゃねーかよ!!」


 三人は叩かれた痛みはまるで感じてないように軽く笑っていた。

 最初から力なんて入らない状態で、軽くチョップをしたため、当たり前の反応である。


「なんで平気なんだよ!」

「なんでって、言われてものう」

「夢ごときで参るほど、精神力が弱くありませんし……」

「それにボクたちに刃物や銃弾が通じるわけがないから、死ぬわけがないんだよね~」

「いや、待て! そこじゃない、まずはもっと重要なところからだ。そもそもお前らが夢なんて見れるのか?」


 郁人の突っ込みたいところはそこだった。

 妖怪が夢を見るなんてことは聞いたこともない。そもそも存在すら否定していたのだから、知るはずもないのだ。

 それなのに三人は平然と夢について語ったことが、郁人にはちょっと意外だった。

 その発見に驚きを隠しきれず、そのことを知った第一人者として、みんなに知らしめる必要があるとまで思ってしまった。もちろん人間界に戻れたらの話になるけれど――。

 しかし、三人の答えは非常そのもので、


「見るわけないじゃろ」

「今まで見たことなかったですわ」

「間違いなく、お兄ちゃんの影響だろうね」


 郁人の考えは一瞬で砕かれた。


「あ、そう……」

「まぁ、お主がこの件を解決しないとワシらも夢を見続けるのじゃろうな」

「これ以上見るのも面倒なんだよね~」

「ですわね。快眠したいですわ」


 三人とも全然困った様子ではなく、ただの雑談のように話す。

 その光景がちょっとだけ、郁人にはちょっとだけ羨ましく思えた。

 妖怪になるメリットがここにもあるということを思い知らされる。死ぬことが消滅以外ないのだから、怖がる必要もない。郁人にとって怖がる必要がない状態が一番羨ましいのだ。


「どうすりゃいいんだよ、これ……はぁ、眠い」

「……最後の手段しかないかな~」

「まぁ、ワシらでも解決出来んし、どちらかというと被害者みたいなものじゃからのう」

「最後の手段って?」


 最後の手段というのがよく分からないが、あまり良い感じがしない。

 それどころか悪くなるような予感しかしない。

 正直、この三人の最後の手段というのはそれぐらい当てにならないのだから。


「大丈夫ですわ。あなたが考えているようなものよりいくらかマシだと思いますわよ」

「なんで疑うかのう」

「そういう風にしたのは、どこの誰のおかげだろうな」

「最近は意外とマシだと思うけど?」

「俺が深刻に悩んでいる悪夢について、三人は完全に困った様子ではなかったけどな」


 郁人はジト目で三人を交互で見るが、三人とも動じる様子は全くない。


「まぁ、別に気にするほどでもないからのう」

「面倒というだけですからね」

「うん、お兄ちゃんには悪いけどね」

「聞いた俺が馬鹿だった。うんで、解決手段ってのはなんだ?」

「閻魔様に頼むだけですわ」

「ああ、やっぱり」


 郁人の考えていた通りだった。

 そもそも最終的には誰かに救いの手を貸してもらわないといけないという理由から、最終的に頼れるのは小十郎しかいない。もうちょっと続くようならば、郁人も相談しようと思っていたぐらいだった。


「じゃあ、今日の夜にでも行こう」

「そうじゃな、少しでも早い方が良さそうじゃなしな」

「アポは取らなくて大丈夫なのか?」

「アポなんて必要ないですわ」

「なんで?」

「お主を呼んだのが閻魔殿じゃぞ? それに今も休憩中にワシらのことを監視しておるわ」


 燐はそう言って、城の方を指差す。

 その指に釣られるように郁人も城を凝視すると、城のある部分から少しだけ何か光っているような気がする。

 太陽の光のせいで、そう見えるだけかもしれないが、燐によって軽く見張られていると思い込まされたことから、本当に見られているような気がしてしまう。

 

「心配なら最初から手立てを立てればよろしいものを……」

「閻魔様も不器用だから仕方ないね~」


むしろエイミーとメアリーの反応を見る限り、本当に見ているのことが分かる。


「ま、反論もないわけじゃし、今日の夜行くぞ」


 その日の夜、郁人たちは小十郎の城へといくことになった。

 そこでようやく、ここに連れて来られた意味と三人が家庭教師に選ばれた理由を初めて知ることになる。


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