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翌朝②

 郁人はメアリーに言われたとおり、窓際によると外の景色がほぼ見渡せた。

 そのことから、ここが城でも最上階の位置にあることに気付く。


「じゃあ、この世界の説明からしようかな」

「あ、ありがとうメリーさん」

「気になったんだけど、呼び捨ててでいいよ?」

「ワシも呼び捨てで構わんぞ。他人行儀は好きじゃないからのう」

「私も構いませんわ」

「わ、分かった」


 メアリーの言葉に続くように三人もそう言った。

 郁人としては礼儀かなと思い、さん付けで呼んでいたに過ぎない。だから本人がそれを気にしないなら、素直にその指示に従う事にした。


「今度こそ、説明するね。昨日、閻魔様が思いつきで付けた『アンダー・ワールド』がこの世界の名前。思いつきだから、気まぐれで変わるかもしれないけど……。」

「やっぱりか」

「うん。それは良いとして、この町は円を描くように建物が並んでいるんだ。城に向かう中央通りが大きな道で後は小さな道がバラバラに繋がる形で道を作ってるの。もちろん他人の家へのすり抜けは禁止だよ?」

「プライベートはしっかりしてるんだ」


 ちょうど郁人が聞きたかったことが、メアリーに先に説明されてしまう。

まるで心でも読まれているような感覚だった。


「心なんて読まなくても分かりますわ。顔に出てますから」

「あ、そう」

「そんなことは良いですから、メアリー続きですわ」

「はいはい。城に近い家に住んでいる妖怪ほど、閻魔様の信用している妖怪が住んでるの。奥に住んでいる妖怪はあまり信用がない……のかな? 詳しくは閻魔様の気持ちの問題だから分からないけど。信用がない言っても反乱はまだ一度も起きてないから安心してね。まぁ、あくまでボクの予想だけど、いつかは起きるかもね」

「可能性だからないとは言い切れぬだけじゃ。そんなことするぐらいなら、人間界に行って人間を脅かした方が効率が良いからのう。心配しそうだから先に言っておくが、お主の身はワシらが守るから安心せい。それが任務じゃ」


 燐は腕を組みながら、偉そうに話し、自分で納得したかのように頷く。

 当たり前のことを当たり前のように言っている燐を見ながら、エイミーは呆れていた。

 メアリーは構わず話を続ける。


「んで、この町を囲むように修行場があるの。妖怪の子供たちが特訓する場所だね。修行場は三つ。『すり抜け』『変化』『透明』『脅かし方』『水中での空気の取り入れ』『浮遊』だね。基本的に自分が必要と思うものだけで良いから、そんなに時間はかからないんじゃないかな~? もちろん、お兄ちゃんは全部になるけど……。どんな妖怪になるかも分からないし……」

「脅かし方以外の特訓は俺にとってかなり嫌なんだけど……」

「仕方ないのですわ。我慢しなさい」

「そうじゃそうじゃ! 付き合うワシらの身にもなってみれば良いのじゃ」


 直感的な感想を言った郁人に噛み付くように燐とエイミー。嫌ではなさそうだが、人間に教えることの難しさに不安を感じているようだった。


「悪かったよ、ごめん」


 郁人は素直に謝り、窓から町を見ていると気になることが生まれた。

 その修行場の先のことである。

 町といってもこの城からギリギリ見渡せる範囲。これが世界というには物凄く狭く、小さすぎると思ったからだ。


「その修行場より先は何があるの?」

「え~と…」


 メアリーは助けを求めるように二人を見つめるが、二人も首を横に振る。


「分からないんだよ、その先のことが」

「なんで?」

「行けぬのじゃよ。ワシらの力でも通れない何かで阻まれておってな」

「妖怪たちの力じゃないみたいですわ。だからその先の質問は、貴方が妖怪になった時に行けたら行ってみるといいですわ」


 本当に知らないみたいだった。

 三人も実は気になっているが、行けないから諦めるしか出来なかった。その様子が分かるように、それぞれがため息を吐く。

 ちょっとだけ意地悪な質問をしてしまったかと思い、郁人は少し反省した。

 そんな郁人の様子が分かったのか、エイミーがフォローを入れる。


「そうだ、実はあなたの家が用意されていますわ。これから、その家でも見に行きますか?」

「家!? ここで暮らすんじゃないんだ?」


 今、いる部屋で暮らすわけではないことを知った郁人は驚いてしまう。

 この部屋はまるで高級ホテルの一室のような雰囲気を漂わせていた。庶民である郁人には高級ホテルに一回も泊まったことはないが、生活するには困らないぐらいの広さがある。

  

「当たり前でしょ? さすがにそれは図々しいよ~」

「ま、家が用意されてるだけでもありがたいと思うんじゃな」

「いやいや、家を用意するってスケールが違いすぎるだろ」

「そう? 普通でしょ」


 メアリーは郁人の言っている意味が分からないらしく、首を傾げる。

 燐とエイミーも同じように「?マーク」を浮かべていることから、人間の感覚とは違うことを郁人は思い知らされた。

 

「まぁ、良い。その家にはワシらも住むからのう」 

「俺一人でも大丈夫なんだけど。ご飯さえなんとかなれば……」

「閻魔様の命令ですから、それは無理ですわ」

「それとも何か? ワシらが一緒に暮らすことに何か問題があるのか?」

「特にはないけどさ」

「家庭教師というのはそういう意味もあるから、諦めるしかないね」

「そ、そうなんだ……」


 なるほどと、郁人は納得してしまった。

 ただ、三人でずっと一緒に暮らすのはどうかと思ってしまう。

 そうでなくても郁人は思春期真っ只中の男の子である。

 何か間違って、この三人を襲ってしまうこともあるかもしれない。妖怪に発情すること自体おかしいと思うけれど、それがないとは絶対に言い切れないのだ。

 燐に至っては胸を隠すつもりがないらしく、谷間が強調するような着方をしている。

 いくら妖怪だからといって、毎日それを見せ付けられるのは苦行に近い。 そんなことを郁人が考えていると、三人から冷たい視線に気付く。その視線は思いっきり汚らわしいものを見る目だった。


「今、間違いなくエロいこと考えておったろ? ワシの胸を凝視しておったぞ?」

「気持ち悪いぐらい口元ニヤけてましたわね」

「うわ~、なんか最低だね」

「ちょ、そういうのは仕方ないじゃん! 俺だって男なんだぞ!」

「ちなみにワシらを襲う時には、ちゃんと死ぬ覚悟をしとくんじゃぞ?」


 そう言われて、郁人は改めてそのことに気付かされる。

 流れでそういうことがあるのかもしれないが、終わったあとのことを考えていなかったのだ。

 気付いた瞬間、背中に悪寒が走り、身体を振るわせ、今のような考えを二度としないことを郁人は心の中で誓う。

 郁人の表情から、そのことが分かったしい三人は満足そうに笑っていた。


「分かれば良いのじゃ。さっきのだって気まぐれにすぎぬのじゃからのう」

「そうですわ」

「ボクは頭撫でられたいけどね!」

「そうやって甘やかすからいけないのですわ!」

「ワシも別に抱きつかれるぐらいなら構わんな。恥ずかしかったがのう」

「なんでそうなるんですか! だから変な事を考えるのでしょう!?」


 三人がまた言い合いを始める中、郁人は三人が自分に求めている事がなんとなく分かった気がした。

 自分たちが甘えたい時は甘えさせろ、と言いたいのだろう。つまり遊び道具みたいな感覚なのだ。

 エイミーはそのことに対して注意しているが、二人はまったくその言うことを聞く様子はない。

 初めて紹介された時に考えていた修羅場みたいなものが、今の段階で軽く起きかけているため、郁人はこれから先のことが少し不安になり、思わず小さなため息を吐いた。


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