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「ただいまー」


 真夜中と言っていい時間の帰宅。

 別に今にはじまった事ではないが、たいていこの後で父親からの説教タイムが始まる。

 無視しても良かったが、学校にもいかず、働きもしない身で勘当されてはたまらないのでおとなしく聞く事にしているが。


「誰もいないのか?」


 そんなはずはない玄関のドアのカギは開いていた。

 耳を澄ますと居間の方から声が聞こえた。

 ……泣き声も。


「なにかあったのか?!」


 いそいで、靴を脱いで居間のドアを開ける。

 そこには家族全員がいた。

 会社員の父、専業主婦の母、そして、中学三年になる妹。

 座り込んで泣いているのは妹だった。

 それを両親が挟むような位置でなだめている。

 ドアを開ける音でこちらに気付いたのか、母が困ったような表情を向けた。


「おかえり、誠」

「千里、どうかしたのか?」

「それがね……」


 よく見ると千里に姿に違和感を感じた。

 そこにいるのは間違いなく千里なのに。

 そして、数秒後、ようやく違和感の正体に気付く。

 もし、上からじゃなく正面か、背後から見たら一目瞭然だっただろう。

 背中まで届いていた彼女の髪が、うなじのあたりでバッサリと切られていた。


「おい、千里! なにがあった!」


 彼女の肩に手をかけると、ようやく気付いたのか涙で目を真っ赤に腫らした顔を上げる。


「お兄ちゃん。わ、私。呪われる」

「は?」


 表情は深刻そうだが、唐突に呪われると言われてもリアクションに困る。


「呪われるって何だ。いや、それより髪はどうした。誰かにやられたのか、それとも自分で切ったのか」

「違うっ、カミキリバサミにやられたのっ」

「カミキリバサミ?」


 確認するように両親の顔をそれぞれ見たが、父母共に首を横に振った。知らないらしい。

 唐突に千里が抱きついて来る。


「お、おい」

「どうしよう。私呪われる、カミキリバサミに髪を切られた。呪われる、呪われる、怖いよ、お兄ちゃん」

「落ち着け、千里。カミキリバサミってなんだ。誰かのあだ名か?」

「違うっ、噂よっ。ううんっ、噂だって思ってた。でも、違う、本当だったっ、あんなの絶対、人間じゃないよっ!」

「いいから、落ち着け、な。様はカミキリバサミか? そいつに髪を切られたって事か?」


 千里はコクンと頷いた。


「ようするに変質者の類か。そいつの特徴とか覚えてるか。俺がしめてやるからよ」

「無理よっ、人間じゃないって。それにお兄ちゃん、そんなに強くないでしょっ」

「うぐっ、お前泣いてるくせに痛いところつくなぁ。とりあえず、お前は明日にでも美容院で、その髪整えて貰え」

「……でも、学校」

「その頭で行かせるわけにもいかないだろう。いいだろ、親父、お袋」


 父親も母親も頷いた。


「とりあえず、今日は風呂はいって眠れ。顔も酷い事になってるしな」


 千里を立たせて、目で合図すると母親が彼女を浴室へと連れていった。

 父親と二人きりになった。

 こんな状況、説教される時ぐらいだったが、今はそれどころではない。


「なぁ、本当に何があったんだ。カミキリバサミとか言ってたけど、何だよそれ」

「俺にも分からんよ。泣きながら帰って来た時からあんな状態でな。始めは変質者に襲われたのかと思って警察に連絡しようと思ったが、いまいち要領を得なくてな。カミキリバサミに襲われたなんて警官に説明の仕様がなかろう」

「ただ、変質者が変装してただけなんじゃないのか?」

「分からん。あの子は人間じゃないの一点張りだが、さっきの様子でも分かるように詳しい話は聞けずじまいでな。丁度そこへお前が帰って来た訳だ」

「噂とか言ってたけど、噂が本当に髪を切るはずもないからな。問題は誰がやったかだ」


 父親はじろりと誠を睨み付けた。


「な、なんだよ」

「何を考えているか手に取るように分かるからな。馬鹿な事をしてくれるなよ。お前が退学になった理由を忘れたか? しかも、今度は千里も絡んでいるんだ。お前が何かやらかして、あの子が責任を感じたらどうするつもりだ」

「ちっ、腹たたねぇのかよ、自分の娘があんなにされて」

「……何も感じてないように思うか」


 父親の握り締められた手が震えていた。

 それを見て誠はきびすを返した。


「俺は部屋に戻る。……念の為、明日千里が美容院いく時はお袋に付き添わせた方がいいかもな。情緒不安定なら明日一日学校休ませろよ」

「ああ、そうするつもりだ」


 誠は2階にある自分の部屋へ戻るため、階段を登りながら、頭の中で状況を整理しようとしていたが、その内容が呟きとなって口をついた。


「カミキリバサミ、噂、呪われる……ね。ネットで何か見つかるかもな」


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