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 アスファルトに木刀の半分が転がった。

 残る半分を手にしたまま、誠は震える手でそれを構えた。


 ウソだろ。いくら鉄が木より硬いたって……


 視線は木刀の切断面と相手とを行き来する。

 まるで、日本刀で一刀両断されたような綺麗な切断面。

 しかし、それを成しえたのはハサミだった。

 たしかに大振りなハサミだが、それにしたってありえない。

 いや、ありえないのはその所有者か。

 てっきり、ただの変質者が変装しているんだろう、そう高をくくっていた。

 妹の千里が言っていた通りだ。

 こいつは絶対人間じゃない。

 3m近くある巨体、木刀でわき腹を殴ったとき反対側まで突き抜ける勢いでめり込んだゴムのような身体。

 いや、そもそも闇夜とはいえ微かにその身体を透かして向こう側が見える時点で着ぐるみの類なんてありえない。

 まるで落書きのような凹凸感がない表情が不快そうだった。

 現実味のないその姿に恐怖でへたりこんでしまいそうだ。


「うわぁぁぁぁっ!!」


 心が恐怖で塗りつぶされる前に木刀を突き出す。しかしそれもむなしくソイツの身体に食い込み、そして弾かれた。

 力みすぎたせいでバランスを崩し地面に倒れてしまう。


 やばいっ!

 急いで立ち上がらないとっ。


 思いとは裏腹に足に力が入らない。

 ハサミを開閉する金属音が近づいて来る。


 イヤダ、来るな……


「ひっ」


 はいつくばって逃げようとするが、恐怖に強張ってうまく進めない。

 振り返ると、そいつすぐそこにいてハサミを振り上げていた。

 殺される。

 反射的に目をつぶった。

 だが、耳に届いたのは金属同士がぶつかる音だった。

 恐る々々目を開くと、開いたまま振り下ろされたハサミは布に包まれた棒状のものにはばまれていた。

 ハサミの刃で切れてしまったのか、布の一部がはがれる。

 それは刀の鞘だった。

 そして、鞘と柄の部分を握り、ハサミを押し返しているのは見知らぬ少年だった。

 黒のシャツにデニムのジャケット、ジーンズにスニーカ。

 身長と幼い顔つきが、誠より年下だと思わせる。


「ジャ……マ……」


 ソイツの声はまるでラジオのノイズのように聞き取りづらかった。


「ジャ……マ……シナ……イハズ」

「そのハサミは何のためにある? 髪を切る為じゃなかったのかい?」


 少年の言葉にソイツはおずおずと頷いた。


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