紅の夢、譚の終
最終話です。読んでいただければ幸いです。
※追記:H29年10月30日、復活します
反対を探していた美鈴と合流した。と言っても、美鈴が反対側を通り過ぎ、一周してフランの部屋の前に来ただけなんだが。
「妹様が、ひどく暴れてなくて良かったです」
美鈴が言う。やはり、フランは「暴れる」というイメージが強いらしいな。
「美鈴も言うのね……まぁ、暴れたんだけどさ」
フランは、何も言えない顔をした。
そんな話をしているうちに、霊夢とレミリアがドンパチしてる大広間に着いた。
……にしても、レミリアは勝てたのかね。「死ぬがよい」みたいなこと言ってたけどさ。どうもレミリアが勝つビジョンが見えない。
「あうー……まさか1発も当たらないなんて……弾幕は難しいわ」
案の定、カリスマ性の欠片もない事を言っていた。
仰向けに倒れているレミリア。その側に立つ霊夢がフンと鼻を鳴らす。
「弾幕で私に勝とうだなんて、あと数年は思わない事ね」
「……弾幕ごっこに、肉弾戦とか組み込まれないかしら」
そうしたら楽なんだけど、と呟くレミリア。そりゃあそうだ。吸血鬼が人間に体術で挑むだなんて、役不足もいい所である。
そんな不満足レミリアが、こちらに気づいた。
「あら、白夜来てたの」
「おう、きてたぜ。にしても、ぼろぼろに負けたなあ」
レミリアの服は、弾幕によっていろいろな所が焦げていた。
「私、体術のほうが得意だしね」
そんな事を言っている割には、悔しそうなレミリアである。
「……ところであんた、ずいぶん口調が変わってるようだけど」
今まで口を開かなかった霊夢が言う。
「ああ、あれはあれは威圧する為よ。私、色々と小さいでしょう?だから」
なるほどね、よくあるあれだな。「女だからってなめる奴がいるから、少しでも強くみせる為口調を威圧的にする」ってやつ。レミリアも苦労してるんだなぁ……。
「だとしたらお嬢様。そう言って下さいませ」
俺達の後ろからヌッと現れたのは、従者の十六夜咲夜である。
「私、操られでもされてるのかと思いましたわ」
胸に手を置き、安堵の表情を浮かべる咲夜。あれには俺もびっくりしたわ。ガラッと変わるんだもん。
「あー、咲夜には見せたことなかったか……」
思い出したように言った。気まずそうな顔をしているレミリアである。
「ねぇ、お姉様。この巫女相手に1発も当てられなかったの?」
俺達をかき分けるようにフランが顔を出す。ヤケにニヤニヤしている。
「そうだけど……そういうフランはどうなのよ。そこの白黒「白黒じゃない、魔理沙だ」……魔理沙に当てられたの?」
「ざっと三回ってとこね」
「なっ……!」
目を見開き、驚く。腕の力で立ち上がったレミリアは、フランに近寄る。
「そ、そんなの偶然よ!その……魔理沙がいた所に弾が来ただけよ!」
屁理屈にもなっていない反論である。ふんと鼻を鳴らし、胸を張るレミリア。その様子を咲夜は、我が子を見る様な目で見ていた。
「しかし、本当に逆だよな」
レミリアとフランの性格がである。少しませているようなフランに対し、レミリアは歳相応……いや、見た目相応という感じである。この光景だけ見ると、本当の姉はフランと言ってもいいのではなかろうか。
上手く言いくるめられたレミリアが、フランを悔しそうに睨んでいると、霊夢が呆れたように言った。
「馬鹿なことしてないで、早く準備しなさい」
「準備?空気準備って何よ」
「はぁ……異変が解決した後は、敵味方含めて宴会。みんなで飲み合って、大団円ってなってるでしょ」
そう言うと、霊夢は一人で去っていった。
「そういえばそんな事あったわねぇ。……咲夜、宴会の準備とか手伝ってくれる?」
「分かりましたわ」
パッと消える咲夜。時止めでも使ったのだろう。……こんな時にも使うのな。
「じゃあとりあえず、この場は解散という事で……。また後で会いましょう」
バッと翼を広げ、部屋をふわりと出ていくレミリア。
「あ、待ってよ!」
フランも、レミリアのあとを追ってかけて行った。
「……じゃあ、帰るか。あぁ、白夜たちは先に帰っててくれ。私はちょっと本借りてくる」
魔理沙は手にした箒に跨り、スィーっと扉の奥に消えていった。
「……私達も帰りますか」
「そうだな」
麟がふわりと飛び上がる。
俺はその後を追って、紅魔館を出た。
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なんだか長い一日を過ごしたような気がする。
麟の家出(ある意味俺の誤解ではあったが)から始まり、その捜索で色々なところを探した。道中、紅い霧のせいで、興奮した妖精達が弾幕を放ってきて、その対処に追われたため体はクタクタである。完全に妖怪であったのなら、こんな体の疲れもなかったんだろか……。
「白夜さん、銭湯行きませんか?」
お風呂セットを装備した麟が言う。いつも付けていた簪も解いており、行く気まんまんというやつである。
「そうだな……汗もかいちゃったし、行くか」
俺もお風呂セットを用意し、一緒に銭湯に向かった。
銭湯は、いつもよりも空いていた。普段であればこの時間、芋洗い状態と言えるほど人がいる……は言い過ぎか。ともかく人が沢山いるのであったが、今日に限っていなかった。皆、博麗神社の宴会に向かったのだろうか……遠いのに。
女湯に入った麟と分かれ、風呂場に入る。中には人が誰も居らず、独占状態であった。
体を洗い、浴槽に浸かる……ふぅ。染み渡るぜ……。
「ほんと、染み渡りますよねぇ」
「そうだな。こんなお湯はなかなか無いよ……なんでお前がいるんだよ」
「いちゃだめなんですか?」
「ダメじゃないけどさ。もっとこう存在感を出しながら……もういいや」
毎回の事すぎて呆れたよ、もう。
隣でヘラヘラ笑っている蝶花さんを睨みながら思った。
「しかし、女のお前が何で男湯なんかにいるんだよ」
「私に性別はありません。ほら」
顔はいつものまんまだったが、体付きが男になっている……って、そんな見せなくていいわ、嬉しくない。
「しかし、変に巻き込まれなくて良かったですねぇ」
いつの間にか持っていた、杯に口をつけながらいう。
「異変にか。なんでだ?」
「だってほら。変に干渉すると歴史変わっちゃうかもじゃないですか」
なんだその、今は俺のいた頃よりも過去みたいな言い方。今を生きているのに。
「んー……。歴史が変わるというより、運命が変わると言った感じですかね」
どういう事だ。難しくてよくわからん。
「つまり、大方の『東方』の歴史を知る白夜さんが干渉しすぎる事で、本来あるはずの無い未来が生まれちゃうって事です」
そういったのって、過去に干渉するから起きるんじゃないのか?
「でも、実際起きてるんだからそうじゃないですか」
……なんだなんだ。コイツの話の意図が読めないぞ。意図が読めないのはいつもの事だけどさ。
「まぁ、とにかく。私が言いたい事は、この物語はあなた達が一番の鍵になっています。干渉しすぎるのも自由、しないのも自由。これからどんな話にしていくかはあなた次第ですよ……まぁ、既にここまで来といてしないってのも無理な話ですけどね」
そう言うと、浴槽から上がる蝶花。
「ではまた」
手をヒラヒラ振りながら、風呂場から消えていく。
「……何だったんだ」
どんな話にしていくかとかなんとか言ってたけど、意味が分からない。干渉?運命?……あなた次第って何なんだ。
よく分からない神様の話に頭を悩ませて数十分。なんだかぼーっとしてきた。
のぼせかけているのだろう、風呂場を後にする事にした。
洗い場を出ると、先に上がっていた麟が、ソファに座っていた。頭にタオルを乗せながら、牛乳をコキュコキュ飲んでいる。
「おう、上がったぜー。俺も飲もうかな」
「んぐ……買っておきましたよ、はい」
おお、これはありがたい。麟から牛乳を受け取る。瓶のフタを開け、一口。……うむ、旨い。
ソファに座りながら、あたりを見渡す。風呂に入る前までにはいなかった人間も何人か来ていて、少し騒がしくなってきた。静かな銭湯が好きな俺にとっては、少し残念な感じである。
「そろそろ行くか」
麟に声をかける。麟は、二本目の牛乳に手をつけていた。
「んぐ……分かりました」
麟は、半分以上残っていた牛乳をグッと飲み干し、入口にかけて行った。
昼間の温度は既に消え去り、少し肌寒くなっていた。空は黒くなり、星が瞬いている。
「なんだか長い一日でしたねぇ」
星を見ながら、麟が言う。
「そういえば私、ご飯食べてません」
「おう」
「お腹空いたなぁ~」
「そうだな」
「……どっか食べ行きません?」
……行きたいんだったら最初から言えばいいのにな。
「じゃあ、ミスティアの屋台にでも行くか?」
「いいですね!行きましょう!」
そう言うと、麟は、宙に飛び上がった後、空に消えていった。
「……置いてかれた」
わざわざ口にするまでもない、おいてけぼりというヤツである。
「はぁ……」
先に全部食べられては勿体ない。俺も早く行かねば。
「なら、送りましょうか?」
側から現れた、二つのリボン。その間から、紫が顔を出していた。
「いや、いいよ。その隙間、未だになれないからな」
「あらそう。慣れれば結構快適なのに」
隙間の入口を広げ、中を見せつけてくる。やめろ、俺はその中のデザインが苦手なんだ。
「で、何の用だ?一緒に八目鰻食べに行くわけじゃあないだろ」
「それもいいけれど、今は少し忙しいの。また今度にするわ。さて……」
隙間を大きく広げる。すると、中から人が出てきた。
高そうな着物を着ていて、髪は淡い紫色。霊夢達より年下くらいの、女の子である。
「ありがとうございます。まさか、大妖怪に送っていただけるとは」
「そんなかしこまらなくても。じゃあ、私はこれで」
じゃね、と、隙間に消えていく紫。
「……」
「……」
取り残された二人。俺と着物さんの間に沈黙が現れる。
「……出雲白夜さん、ですよね?」
「は、はい」
こちらの目を見る着物さん。そして言う。
「……一緒に幻想郷縁起を作ってもらえませんか?」
「……はい?」
えー、これにて白來伝は終了いたしました。
ここまで読んで頂きました皆様、本当にありがとうございます!