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第四話 死の気配、そして

だが、俺の希望はすぐに崩れ去った。




少し歩いて、休憩していた俺を襲ったのは――大地が慟哭するかのような轟音。

WCOではおなじみだった、魔法の気配が爆発している。


俺は、咄嗟に立ちあがり、槍を握った。



目を閉じて、『サーチスキル発動』と念じてみる。

瞼の裏に、付近のマップと、二つの光点が映し出された。

どうやらサーチスキルはいつも通りに使えるらしい。


だが、サーチスキルを使って分かった状況は、けっしてありがたくないものだった。


どうやら戦っているらしい二つの光点は、俺の方に向かってきている。

それもかなりの速度だ。


あまりに気付くのが遅かった。

今からでは、逃げても巻き込まれる。



それならば、先手を打って迎え撃つのがこの状態ではベストだろう。

だが――俺の職は、一度カウンタースキルを発動しないと他のスキルを使用できない。


つまり、先手をとるといっても、槍で突くぐらいしかできないのだ。


膨大な魔力の前では、あまりに無謀。

どう考えても絶体絶命。


「いきなり、俺、死んだな……。せめてこの世界の美味しいもの食ってからが良かった」


乾いた笑いをもらしながら、俺はその死神達の面を拝んでやろうと、槍を握り直す。


「もうどうしようもない。生きてたら奇跡だ」


一度、深呼吸する。

その間に、もう一歩のところまで二つの気配が迫ってきていた。





なんとか覚悟を決めた俺の前に現れたのは、大きな体躯のトカゲ系モンスター。



そして――薄紅色のポニーテールを靡かせる、凛とした美少女であった。




少女の琥珀色の瞳は、殺気を滲ませてトカゲを見据えている。

身にローブをまとっていることから、おそらく少女は魔法を使うのだと分かった。


「火竜の息吹、我に応えて今ここに顕現せよ――【ファイアウインド】!」


予想通り。

透き通った声が唱えたのは、上級火属性魔法の呪文だ。


少女から放出された魔力の奔流が、トカゲに押し寄せる。


呪文によって苛烈な炎に形を変えた魔力は、またたくまに圧倒的な力でトカゲを焼き尽くす。


おそらくここに至るまでに、ある程度トカゲにダメージを与えていたのだろう。

戦闘が終わるのは早かった。


紅蓮の炎が消えた後には、骨すら残っていない。

その極悪なまでの威力は一目瞭然。

どうやらこの少女、見た目に反してかなりの使い手だ。



トカゲを倒し終えた少女は、最初から俺の存在に気付いていたらしい。

ゆっくりと視線を俺に移すと、薄い唇を弧の形に変えた。


アーモンド形の大きな瞳が、獲物を狙う輝きを宿す。

その幼さに似合わない妖艶な笑みを浮かべて、少女は唇を舐めた。


薄れかけていた死の気配が、一気に濃くなる。



「あなたも私を殺しに来たのかしら?」


一瞬言葉を失いかけたが、俺は何とか答えを返すことに成功した。


「いや。俺に君を殺す理由はない」


あ、まずい。

咄嗟だったせいで、ロールプレイの調子で答えちまった。


「あら?殺る気満々、って顔してるようだけれど」

「気のせいだ」


どうにもこの少女、不穏な気配を醸し出している。

こういう輩には、関わらないのが吉だ。


「君こそ、俺に何か私怨があるのか」


刺激しないよう気をつけながら、静かに問いかけた。

少女は、俺の言葉に興醒めしたような目をする。


「あなたに私怨なんて無いわ。面白そうだと思って話掛けただけ」

「そうか」

「でも、勘違いだったみたいね。大したことない普通の男みたいだし」


どうも見境なく人を襲うタイプではないらしい。

少女は、さっと踵を返して、歩き出した。

俺は、しばらくその小さな背中を見送る。



うん。よかった何事も無くて。

少女はあっさり立ち去ってくれそうだ。

あんなのに目を付けられたら、命がいくらあっても足りない。


一瞬は死すら覚悟したのが嘘のようだった。


生きているってありがたい。


そう思いながら、陽気に歩き出そうとして、ふと気付く。





そういや、農村ディアールって、今少女が歩いて行った方角だったような。

これってもしかして、少女から見たら、俺がストーカーみたいに見えるんじゃなかろうか。

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