第三話 現状把握は難しかった
うん。実にすがすがしい朝だ。
どこまでも青く透き通った大空。
若々しい葉を芽吹かせる木々。
悠然と俺を支える大地。
とんでもない事態に、まず目をこすって頬をつねった。
そのまま、ためらいなく地面に座り込む。
けっして腰が抜けてへたりこんだわけではない。
目前の小川のせせらぎが不思議と遠くに聴こえる。
小鳥ののんきな鳴き声も、妙に虚しく響いている。
「ここって、風景的にはWCOのエクシリアの森だよな?」
もう一度あたりを見回す。
何回見ても、WCO初心者の頃散々お世話になったエクシリアの森だ。
「でもって、俺はゲームアバターのままここに居る」
銀の甲冑の上に闇色のローブをはおっている、細マッチョな体。
間違いなく現実の俺の体では無い。
この装備は、まさにWCOでの俺の体。
「二次元に行きたいと思ったことはあったけど、まさか異世界に来ちまうとは……」
放心しかけながらも、考えを整理する。
いくら初心者エリアといえど、このまま森にとどまるのは危険だ。
万が一盗賊なんかに襲われたらひとたまりもない。
とりあえず小川沿いに歩こう。
たしか、この森を抜けた先には、農村ディアールがあったはずだ。
幸いWCOは、アイテムや金を鞄に入れて持ち歩くため、メニュー画面が開けなくとも金には困らない。
「どうしたもんか…ダークナイトなんて死ぬ気しかしない」
何せ俺はマゾ職ダークナイトである。
殴られてなんぼの職業なのだ。
ゲームならまだしも、こんな状況でやりたい職ではない。
この世界がWCOの世界なのかどうか、確実に分かったわけではない。
ただ、この世界は、死んだらそこで終わりだろう。それだけのリアルがこの世界から感じられた。
ゲームのように生きかえることは、おそらく、無い。
しかし、俺にとってそれはどうでも良いことになるだろう。
何故なら俺は、この世界で農夫として暮らすつもりだからだ。
やっぱり、弱い奴は大人しく戦わないで生産職につくべきなんだ。
特に俺とか。
こんな世界で、戦闘に従事するなんて危険以外の何物でもない。
俺が今後、ダークナイトとして戦うことがあるとすれば、それはきっと幼女の為だけだろう。
幼女に頼まれでもしない限り、金輪際、槍もスキルも使わない。
農村でアルバイトとして雇ってもらえれば、それが一番安心だし幸せである。
ついでに幼女からお兄ちゃん的ポジションをもらえれば、それだけで俺は生きていける。
――なんだ。
思ったほど最悪な状況じゃないじゃないか。
そう気づいて、ちょっぴり心が楽になった。
俺は少しだけ歩調を早めて農村を目指した。