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本朝異聞戯作  作者: どり
9/10

お話し異聞

 さあ、今日はお久しぶりねの漫才のお時間。ドリとボタンのお二人です。お題は『お話し異聞』。なんかドリさんが妙に疼いて書いたとか言う台本です。さあ、皆さん、拍手でお迎え下さい。では――


1.起

 ちゃかちゃんちゃんすっちゃんちゃーん。拍子木の音と共に登場するドリとボタンの二人。

「いやー、世間はゴールデンウィークやねえ。ひさしぶりやわあ」

「ボタンさんも元気になってよかったですねえ。大変だったんですよ。もう、魔法使いという女性二人にいびられて、虐められて……」

(実は現時点でボツになっていますが、そういうお話がありますです。「魔法使い異聞」。そういうネタなんです。はい)

「あー、悪かったねん。まさか、変なもん食ってあたるなんて思わんかったから」

「食い意地もいい加減にしてくださいね」

「で、今日のお題はなんやねん?」

「今までの体験から、面白いお話の書き方ということで」

「なんやそれ。自分用のネタかいな?」

「まあ、それよりも今までの整理をかねてという感じですよ。ただ、だらだらと書き続けるよりも、要点、ポイントがわかったほうがいいでしょう」

「そりゃまあそうやけどなあ」

「というわけで、ドリさんのお話し講座」

「なにがというわけやねん。まあ、久しぶりの腕試しや。やってみいや」

「はいな。あんさん」

「そりゃ違う漫画や」


「で、まずは一番目。書きたいこと、言いたいことはオーソドックスに」

「なんやそれ」

「簡単なことですよ。人間が変わらないかぎり、その夢だとか、願望だとか、希望とかは変わらないという」

「まあ、そりゃそうやろなあ」

「我々が昔話を読んだり、神話や伝説を読んだりしても違和感ないでしょう? っていうか、そういうものが現代にまで生き残ってきているんですけどね。その生き残っているものを読むと、そこに出てくる登場人物は今の人間とあまり変わりはない。欲深くて、無思慮で、単純で。でも憎めないと言うか、身近に感じるというか愛すべき人間というか」

「確かになあ」

「そして彼らの心と言うか、思いがこっちに伝わるようになってますよね。だから源氏物語にしろ、枕草子にしろ今読んでもわかるし、おもしろいという」

「時代も環境も全然違うのになあ」

「メタ化といいますか、細かいところを取り除いて共通項だけ取り出してくれば、どの話も人間を描いていると言えるんじゃないでしょうか」

「それがオーソドックスということかいな」

「はい。人間の愛情だとか尊厳だとかということに異論を唱える人はいないでしょうからねえ。それから別に答えに拘る必要はないのかなあと。”人とはこれなるぞ”とぶち上げてもいいですけど、”どうして人はこうなのか?”でもテーマにはなりますからねえ」

「他にも教訓てのもあるわなあ。”変なものには手を出すな”」

「まさしく、ボタンさんの実体験ですね。自虐ネタですか」

「それはいいねん。で、それなら面白い話になるってか?」

「残念ながらそうはなりません。というか、この世に転がっているほとんどの話は人を描いているはずですから。たとえ、異界であろうと、エイリアンであろうと必ず人間の反映がされているはずです」

「そりゃそうやなあ。なにせ、今のところ人間以外とコミュニケーションできてないんやから」

「アメリカ政府はもしかすると、MJ-12(マジェスティック・トゥエルブ)で宇宙人と接触してるかも知れませんが?」

「そういう茶々が言いたくて、このネタやってんのか?」

「冗談です。で書きたい事が決まったら、ストーリーとキャラを決めます。で、ここは奇をてらっていいんです。根本は既にオーソドックスなので、ストーリーやキャラを現代風にする。あるいは未来風にする。現実にあった、ありえないようなストーリーや奇想天外なことをする実在のキャラをモデルにする」

「事実は小説より奇なり、やからなあ」

「小説はどうしても作者の常識の檻にとらわれているでしょうからね」


2.承

「実際にはストーリーよりキャラに奇をてらうほうが簡単でしょうね」

「ほうほう、キャラの設定かいな」

「キャラに特徴を持たせるのが、ライトノベル。キャラ・小説だと言っている人もいるみたいです」

「で、どうすんの?」

「個性を持たせる。行動力を持たせる。どんどん悩ませる。悩んで、苦悩して、決断して、また悩む」

「あっけらかんではあかん?」

「それも一つの個性ではありますけど、どんな子供でも悩むでしょう? ケーキでチョコにするかイチゴにするかって」

「ああ、悩ましい悩みもあれば、嬉しい悩みもあるなあ」

「人生、そういうもんです、ってのが、いいんじゃないでしょうか」

「でも、どうしてもあっけらかんを出したかったら?」

「対比構造を作ってはどうでしょうか」

「対比?」

「典型例が花咲かじいさんです。ポチを飼っている爺さんと、その隣の爺さん」

「ああ、金銀財宝を手に入れるいい爺さんと、なにをやってもドジばかりの隣の爺さんかあ」

「あの話、もし隣の爺さんがいなかったらどうなります?」

「どうって……ポチが鳴いて金銀財宝を手に入れるんやろ。で、ポチは死なへんから木はないわなあ。

木があらへんと臼もできへんし、餅もつけへんから財宝でてこんし、燃やして灰にもならへんし――あー、つまらん!」

「そう、つまらない話になるんですよ。でもそれを面白くしているのが、隣の爺さん。実はあの話、隣のおじいさんこそ隠れたスターなんです」

「うわあ。うがった見方やねえ。やけど、一理あるなあ」

「よくあるんですよ。トリックスターと言って悪っぽい奴なんだけど、話を進める上で必要な登場人物。トリックスターは神話・伝説での言葉ですけど、たとえば、”ゲゲゲの鬼太郎”のねずみ男」

「ああ、鬼太郎のところにトラブルを持ち込んでくる奴やけど、たまには解決策も見せたりしてるわなあ」

「彼がいることで話が進んだり、面白くなったりしているわけです。そういうキャラも必要かなと」

「で、ねずみ男は鬼太郎と対比になっとるわけやね」

「鬼太郎が正義の味方なら、ねずみ男は自分の利益のことしか考えない。闘うより逃げ出すキャラ」

「でも、ものすごく人間くさい」

「人間くさい前にすごく臭いらしいですけど」

「それはええねん。つまり、そういうふうに対比するキャラを作るのがよいとな」

「そういうことです。ドロンジョ様なんかもそうでしょうかね。ちなみに、花咲かじいさんが出てきたついでに言いますけど、悪い爺さんが臼をつくと出てくるのは何か知ってます?」

「ん? えーっと、確か、つまらんものやろう。ゴミとかガラクタとか」

「ゲテモノ、妖怪、欠けた瀬戸物だそうです。で、ゲテモノって何か知ってます?」

「ゲテモノ食いとは言うわなあ。イカモノ食いやけど」

「漢字で書くと下手物。精巧な作りの物が上手じょうて物で、粗雑なものが下手物」

「そこから発展したんが、風変わりで珍奇なものっちゅうこっちゃか」

「そういうことで。ボタンさんもあんまりゲテモノに手を出さないでくださいね」


「それはええって。でキャラについては、他にはないん?」

「特徴づけについては、誇張することですよね。主人公も含めて、とにかく何かに拘らせること。愛に拘る、金に拘る。性欲に拘ってもいいかもしれない」

「あんまり、身近にいて欲しくないなあ」

「だからいいんですよ。小説から現実に返ったときに、よかったーと安堵のため息がつけるというのも」


3.転

「じゃあ、次はストーリーについてです。基本形はやっぱり起承転結。お話全体の中でも、その一話の中でもやっぱり起承転結、あるいは起承結は必要だなと。読む側も読みやすいでしょうけど、書く側でも書きやすいじゃないかと」

「それは原則やねえ」

「でも売りたいって意味では最初にインパクトをもってきたほうがいいみたいです。転からはじめて、起承結とかね。探偵小説だと、最初に死体を転がしておくと言うのが鉄則だそうです。とにかく第一ページ目で捨てられたら眼にもあてられない」

「ああ、事件の導入としてやし、それからどうなるのだろうという興味をそそる手口やねえ」

「手口だなんて……そのとおりですけど」

「ライトノベルが表紙にこだわっているのは、とくに表紙で読者の購買意欲を高めようとしてるわけです」

「うーん。表紙かあ。それはキャラのほうかもしれんねえ。他にはないねん?」

「あんまり、法則らしくはないですけど、ひとつは”時間を区切れ”」

「時間?」

「そうです。主人公に一つの試練を与える。で、それに時間設定をしておくわけです。それだけで話しに緊迫感がでてくるわけです」

「あー、のんべんだらりとやってちゃあかんちゅうわけやな」

「テレビの一時間枠とか、映画なんかは時間がはっきりしているので時間設定が必要なわけです。でも小説でもそれだけで緊張感、緊迫感ができる」

「ふうん。例えば?」

「古いですけど、映画のラビリンスス/魔王の迷宮。あの中で、最初に区切った13時間という時計の針を魔王が途中でわざわざ進めるんです。そこまでして緊張感をたかめて、話に没入させるようにしてます」

「なるほど。んなら、時限爆弾の予告とか、解毒剤を手に入れるとか」

「ぜーんぶ時間設定ですよね。もっといろいろあると思います。目に見えないような形にもできるかも。

そういうところでアイデアを絞るのも面白くなると思いますねえ」


「うんうん。もっとないねん?」

「これは究極の技なんですけど、同時にオーソドックスでもありますが」

「なんやねん。はよ言いやあ」

「”どんでん返し”です」

「どんでん返しって、あれか? 歌舞伎で使われる龕灯がんどう返しのこっちゃろ?」

「お、よく知ってますねえ。短時間に舞台を変えるためのひっくり返し技。映画の四谷怪談では戸板返しというのもありますけど」

「それが小説にも?」

「当然です。というか、これがないとお話もつまらない。探偵物でも、長いことある人物が疑われていて、最後に意外な人物が真犯人だとわかる。これがどんでん返しです」

「そうやけど、もうそのパターンは結構使い尽くされたんとちゃう?」

「クリスティの作品が相当どんでん返しですからねえ。あれを超えるようなのは難しいかもしれません」

「んなら、使えんやないか」

「そうでもないですよ。例えば実は自分が犯人だった」

「なんやそれ」

「ほら、がくっときたでしょう? それこそがどんでん返しの冥利」

「でもそんなら、最初っから犯人を知っていたっちゅうこっちゃ」

「ところが探偵は二重人格で、犯人は別人格」

「う……。それだとわからんかも」

「まあ、そこまではいかないとしても、使い古されたパターンでも別のものと組み合わせてみたりすれば、新味が出る可能性はありますよ」

「なるほどなあ」

「名探偵コナンくんでも、実は真犯人はラ――」

「それはやっちゃあかん! 石が飛んでくるで」


4.結

「とまあ、こんな感じでお話を作れば、まあそれなりのものはできるかと」

「ふうん。で実際、書いてみたんやろ。結果はどないなん」

「えー、あー、まあそのー」

「あんたはO平総理かって!」

「そんな古い人、皆さん、知りませんよ!  じゃなくて、結果は無残なもので。それなりのものはできても、それ以上のものにするにはもっと悩まないと駄目みたいです。現実は厳しいですよお」

「なんや、それがオチかいな。オチももっとひねりいや」

「へえ、すんません。落語も歌舞伎ももっと勉強します」

 しょんぼりしたドリを蹴飛ばすようにして、ボタンも退場する。


 おあとがよろしいようで。

 では。ちゃんちゃんすちゃらかちゃん。


 とまあ、テクニックのまとめ。他にもいろいろあるわけですが、なんといっても一番大切なのは書きたい気持ちでしょうね。

 BGVとして「サンダーバード」見てるわけですが、これがちゃんとお話になっている。けっして子供向けではないですね。いや、子供ほど正直なものはないから(つまらなければすぐにチャンネルを変えてしまう)ちゃんと作ってあるのかなと思います。

 オイラも頑張ろうっと。

では。


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