蜘蛛も毒虫である。
掲載日:2026/08/09
OK、じゃあもう一度だけ説明するね。
俺の名前は田中悠斗。十六歳。昨日までは、ただの高校生だった。
そう、昨日までは。
昨日、放射能を浴びた蜘蛛に噛まれた。
そして今朝、目が覚めたら――
「えっ、俺がスパイダーマンに!?」
壁に張り付ける。
天井も歩ける。
糸まで吐けた。
すごい。
手すりなんか使わなくても、壁を這えば二階まで行ける。
学校だって、屋根伝いに行けるかもしれない。
悪くない。
そのとき、部屋のドアが開いた。
母さんだった。
目が合った瞬間、母さんは悲鳴を上げた。
「きゃあああっ!」
そのまま腰を抜かし、床を這うように後ずさる。
「母さん?」
何をそんなに驚いてるんだ。
廊下から足音がした。
父さんが飛び込んでくる。
手には丸めた新聞紙。
「待って、父さん。俺だって」
父さんの顔が引きつった。
「殺虫剤! 早く!」
「え?」
新聞紙が振り下ろされた。
避けようとした。
けれど、体が思ったように動かない。
二度目。
三度目。
視界が揺れる。
「待って……俺……」
声も、もう出なかった。
床に落ちた鏡の中で、八本の脚が震えていた。
全部、俺のものだった。




