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第6話 弟子と依頼と嘔吐物

ゲロ注意

私は今、馬車に揺られていた。


『昨夜はどうだった?お母さんは色々と聞きたいんだけどなー?』


ちなみに今はアリス様と念話をしている。


『…何もありませんでしたよ。』


少し思い出してしまった。

思わず顔が赤くなる。


『えぇ!だってあのネグリジェ着たんでしょ!?』


あのネグリジェもそうだがドレスもアリス様がお母様に用意させたそうで、

ユウキ様の好みをしっかり反映させていたらしい。


お母様もノリノリで手伝っていたのは、あまり思い出したくはない。

おかげ様でネグリジェの露出が物凄いことになってしまった。


ドレスだけは無理矢理お母様を止めて、露出の少ないものにしたが、お母様はとても不満そうな顔をしていた。


『確かに着ました。ですがユウキ様が上着を渡してくださいまして、その後、すぐに、就寝されましたので…。』


『あのネグリジェ着せても、襲おうとはしないなんて、ゆうちゃん、女の子に興味ないのかしら!?』


『さすがにそんなことはないと思いますが…。』


顔を真っ赤にさせておられましたし、男色ではないでしょう。


『でもいいの?既成事実作っておかなくて?』


頭からボンと煙が出たような感覚になった。

顔全部が真っ赤になっている。


昨日、優輝が街に出ていった後にアリスは、ネグリジェを着て迫り、既成事実を作ってしまえと、エレンに吹き込んでいた。


『もしかしたら、ほかの女に取られちゃうかもしれないんだよ?女を作る努力はしないけど、ゆうちゃん、かっこいいし、押しに弱いから、今頃、変な女に騙されてるかもしれないよ?』


『確かに……。』


そう言われると、ものすごく心配になってきました。


『早く魔界に向かった方がいいわよ。紙さえ届ければ、正妻なんだから。』


『はい!!』



念話を切り、魔界へと急いだ。




############################################



私は今、ギルドの中に着ていた。

ギルドの中に、昨日の彼はいなかったのは残念だけど、受付の待ち時間で、ギルド内を適当に歩き回っている。


神様があらかじめ根回ししてくれたら、こんなに時間がかかることもなかったんだけど…。


それにしても今日はなんだかギルド内が忙しそうだ。

ギルドの職員がよく走っているのを見かける。


どうやら昨日、指名手配犯が捕まったようで、

誰かにやられていたところをギルドの騎士が捕まえたらしい。


張り紙に顔が描かれていたが、昨日、私とぶつかった人だ。


人身売買などをしていて、いろんな人が被害にあったそうで、

今も、売られた人の場所を特定しているらしい。


彼が助けてくれなかったら、私も、最悪売られていたということになる。


「ナシュリさん、登録が終わりました。受付までお越しください。」


もし彼に会ったら、あのお願いをしてみよう。



そう決意をして、ナシュリは受付に向かった。



####################################################


……なんで太陽ってこんなに眩しいのだろう。


昨日、こっちの世界に着た時は森の中だったし、村に着た時は、曇り空だったからあんまり眩しくなかったけど、実際、太陽を直接見るのはすごく久しぶりなんだよな…。


家事全般はしてはいたが、買い物は母さんに任せてたし、

実際、ベランダ以外の場所で、外気に触れてない気がするし。


…本当にひきこもりだよな、俺。


太陽を見たら憂鬱になった…。

ダメだ俺、早く何とかしないと…。


くだらないことを考えている間に、ギルドに着いた。

この村の象徴でもあるギルドはとても大きく、ギルドの前には大きな銅像が建っている。


『ギルド発祥の地』



ちゃんと歴史はあるんだな…。


受付を探すためギルドの中に入った。


なんだかギルドの中はとても忙しそうだ。

走り回っていた職員の人に、受付の場所を聞き、受付を済ませた。


紙を見せると、一番偉い人が出てきて、名前の確認をされた。

名前の確認をすると、小さなカードを渡された。


Gと書かれているカードで、身分証明書の代わりになるようで、

ランクが上がれば書いてある文字が変わるらしい。


ちなみに本当にGと書いてあるわけではなく、

優輝が書いてある文字をGと認識しただけである。


「では、最初の依頼をしますので、しばらくお待ちください。

今回はペアになってもらいますが、次からは、自由にパーティーを、組んで頂いてかまいませんから。」


ギルドは基本、数人のパーティーを組むことを推奨している。

多ければもらえる報酬の分け前が少なくなるが、

依頼の達成率が高くなるのと、かかる時間が少なくて済むのである。


後、本来なら、そんなに依頼の数は多くない、という理由もあったのだが、

最近は、通常よりも、強めの魔物が現れ始めたので、依頼の数がとても増えた。


おかげで、今は猫の手も借りたい状況であるが、初心者に、無理をさせるわけにはいかないので、

最初に、経験が近い者同士で組ませて、なるべく早くなれてもらうという意味がある。


できるものは少数で、できないものは大勢で、がギルド長の言葉である。


ユウキに少なからず期待をしているのだ。

なぜなら、トラヴィスタ家からの紹介である。


組む相手も、女性で、初心者ではあるが、将来化けると、見抜いていた。


あらゆる貴族から、修行のために人が、送られてくるので、優秀な人は、何人も見てきているのだ。

身分まではわからなくても、才能は見抜ける。


イズム村のギルド長は、そういった観察眼を見込まれ、ギルド長になった。


ただし、かなり気には、なっていた。

ユウキの持つ雰囲気が普通ではないことを…。

自分の感覚では、この世界での人ではない気がする。


もちろん、魔族のような雰囲気も持っている。

トラヴィスタ家ということは、そのへんの魔族ではないだろうから、

心配という心配はしていないが…。



あんまり詮索はしない方がいいと思い、今まで考えていたことを忘れ、もう一人を呼んだ。





もう一人はまだ最終確認が済んでいないらしく、俺は、今依頼の受付の近くの椅子に座っていた。

張り紙などを見たが、どうやら昨日、会ったおにーさん達は、指名手配犯だったらしい。


言いたかないが、悪そうだったもんな…。最初は当たり屋だと思ってた。


人攫いってえげつないな…。

捕まってよかった、よかった。


「ナシュリさん、登録が終わりました。受付までお越しください。」


アナウンスが流れた。


どうやら今回、ペアになる人の名前はナシュリというらしい。



しばらく待っていると、見覚えがある人が現れた。


「この間の…。」


この間の助けた人だった。


「この間はありがとうございました。」


最初は彼女も驚いていたが、次第に何かを思いついたように、お礼を言われた。

このままだと昨日の繰り返しだしな…。気まずい。


「なんと、知り合いだったのですか。それなら話が早い、では、依頼をしますね。」


おっさんGJ!気まずい空気が消えた。


ギルド長は、依頼が書かれた紙を優輝に渡した。


『イズムの森の熊を一緒に討伐してほしい。』


ほかに依頼主や、具体的な場所が書かれてある。


「今回は、依頼主に直接会ってもらいます。後は依頼主から聞いてください。

そんなに難しい仕事ではないのですが、ユウキさんは武器や防具を買ってからに、してくださいね。」


さすがに手ぶらは拙いらしい。

まぁ普通なら熊相手に、素手で行くやつなんて、いないよな。


「わかりました。では、武器屋の場所を教えて頂けませんか?」


目上の人にため口はさすがにしない、あんまり知っている人でもないし。


「それなら、私が教えます。」


彼女はそういうと、俺の手を引き、外へ出た。


それを見届けると、ギルド長は髭を生やした顔でニコリと笑い、職務に戻るのであった。


「若いっていいな。」


ギルド長45歳の、とある一日だった。





「そういえば、ニート様のお名前って何ですか?」


…まだニートの下り終わってなかったか。

口は災いの元だよな。…うん。


「俺の名前は優輝だよ。君の名前は?」


「私は、ナシュリです。ナシュかヴェルと呼んでください。」


おそらくヴェルは、名字の方だろう。

なんとなくナシュの方が可愛いよな?


「ナシュ、よろしく」


「こちらこそよろしくお願いします。」


ナシュがなかまになった。

頭の中に変な音楽が流れた気がした。ゲームのやりすぎかな?


「ユウキさん着きましたよ。」


武器屋に着いたらしい。


中に入るといろんな武器がある。


「ユウキさんは何の武器を使うんですか?」


そういえば全然決めてなかった…。


「…剣かな?」


弓とか使えないし、槍だと折れそうだし、この体で斧を持つのも、なんか違和感あるしな…。


それにRPGでいったら、最初は剣でしょ、なんかかっこいいし。


「私と同じですね!それならこれとかどうです?」


彼女が持っているものと同じものを見せられた。


「切れ味は良さそうだけど、俺は丈夫さだけを求めてるしな…。」


簡単に折れたら困るし、なるべく血は見たくない。


「それなら、これはいかがですか?」


話を聞いていたのか店主が、剣を持ってきた。


「それは何ですか?」


剣というには剣先が太い、長さもある。


「これは骨砕きといって、斬るためではなく魔物の骨を折るために作られたものです。

魔界の鉱石を使っているため、少々値が張りますが、決して折れません。」



嘘くさいけどまぁこれでいいか?


「いくらですか?」


「本来なら金貨3枚が相場ですが今なら1枚でいいですよ。」


なおさら嘘くさくなってきたな。

ナシュが鋭い瞳で剣を見て店主に、尋ねた。


「もしかしてこれ呪い付きですか?」


「呪い付き?」


店主がしまった!って顔してやがる。こんにゃろ、騙す気だったんかい!


「呪い付きは基本的に、商人では取り扱ってはいけないんですよ。売るのには特別な許可が必要で、

モグリで売ると捕まりますよ?」


店主の顔が真っ青になっていく。知らなかった…。ナシュがいなかったら騙されていた。


「具体的にはどんな呪いが掛かっているんだ?」


「呪い自体は、剣を抜くと魔物が集まってくるものでしたので最初は気付かなかったんです…。」


どうやら店主は剣を買うまで呪いに気付かなかったらしく、

せめて、仕入れた時の値段で売りたかったそうだ…。


「お願いします…。どうかこのことはご内密に…。」


半分涙目で言われたらな…。魔物が寄ってくるならこっちとしては好都合だし、いいかな?


「いいですよ。これ下さい。金貨1枚でいいんですか?」


ナシュが「え!」という顔をしている。店主も同じ顔をしている。


「いいんですか?呪い付きなんですよ?」


ナシュが確認してくる。


「でも、刀を抜いてない間は、魔物が寄ってこないんだろ?」


「確かにそうですが…。本当によろしいんですか?」


店主も確認してくる。


「別にいいよ、んじゃ、はい!金貨一枚。」


店主に金を渡した。


金を受け取った亭主はお礼の代わりといって、もうひとつ剣をくれた。


「これも呪い付きなのですが、こちらは、剣を抜くと魔力を吸っていきますが、

そのものの魔力の力によっては何でも切れるらしいです。名前はありませんので、

ご自由にお付けください。」


これは、骨砕きを買ったときに貰ったらしい。


ありがたく頂戴して、お店を出た。


「本当によかったんですか?呪われているんですよ?」


「両方とも、あんまり困らない呪いだし、いいんじゃないか?」


「それはそうですけど…。」


彼女は顔を膨らませながら不機嫌そうな顔をしていた。


そんなやり取りをしている間に村を出た。

この村の入り口とイズムの森の入り口の間に着た。


「イズムの森に来るのは、初めてなんですよ。ここには一度来てみたかったんですよね。」


「なんで?特に普通の森と変わらないけど?」


「知らないんですか!?」と驚かれてしまった。そんなに有名なんだ…。


「ここは、歴代の勇者が、最初の冒険地にした場所なんですよ!」


「勇者なんているのか?」


そんなの初耳だ。やばい、魔王になったら討伐される!


「知らないんですか?有名なおとぎ話ですよ?」


よかったおとぎ話か…。


「うん。まぁね、ちょっと変わっているところで生まれたから。」


こんな感じで話を合わせればいいかな?この世界のことは全然知らないしな…。


「本当に、異国の生まれなんですねー。どこら辺にあるんですか?」


軽い疑いの目で訪ねてくる。俺の気のせいであって欲しいなその目は…。


「それよりも急ごう」と言い彼女の手を引き、依頼人の居る、イズムの森の東へ向かった。


彼女の顔を真っ赤にしていたことに気付かない優輝であった。


「…。(ポッ)」





「おお!君たちがギルドの新人達か、依頼主の、グランだ!よろしくな。」


大柄でひげを生やした人だった。

どこかで聞いたような声なんだよな…。


握手を求められていたので、「こちらこそ、よろしく。」といい握手をした。

ナシュも同様に握手をした。


「で、依頼というのは、最近ここら辺に熊が増えたんで、少し数を減らしてほしいんだよ。」


「でも、熊って結構ランク上ではなかったですか?」


優輝は知らないが、本来イズムの森の熊は、凶暴で、Fランクくらいで頼まれる仕事である。

それを複数なら、Eランクの依頼である。


「大丈夫だ!実際はほとんど俺が攻撃するから、君たちはとどめを刺してくれればいい。」


彼は元ギルドの人らしく、現役時にはAランクはあったそうだ。

ただし弓をメインにしているためか、近接戦闘は苦手なため、死んでるかの確認をお願いしたいということだった。


「ただし、最近ワイバーンが現れるようになったから、現れたら逃げてくれてかまわない。

私も現れたら、すぐに逃げる。もう現役じゃないからな。」


「たしかにBランクの依頼ですよねワイバーンって」


「そうそう」という会話をナシュとグランで、している。


そんなにランク高いんだあれ。

どうでもいいけど、どっかで聞いたことがあると思ったら、グランさん、ワイバーンが出たのを大声で言ってた人だよな…。


「まぁ、南の方に行かなければ、出てこなし、間違って行ったとしても。めったに出ないから、

あくまで、気に留めるくらいにしておくれ。」





依頼は俺の出る幕がないまま進んでいた。

グランさんが頭を射ると、動かなくなった熊を、ナシュがとどめをさすといったことが、

繰り返し行われていた。


ちなみに俺は、吐いている最中。

…いや、一般人だった人に、この光景はかなり残酷ですよ…。


「おい坊主、大丈夫か?」


依頼主に心配までされてますよ…。


「なんで、ナシュは普通にできるんだよ…。」


「小さい頃に、親に鍛えられましたから。それに獣狩りの経験が、少しありまして。」


血生臭いし、熊がグロイことになってるし、熊好きとしてはかなりきついものがある…。

メルヘン目線でしか、熊を見たことなかったからな…。



慣れるまでかなり時間を労した。


「だいたいこんなもんか?」


ほとんど、グランさんとナシュがやっていた。

ちなみに俺も一匹だけ死亡確認をしたが、死んでいるとわかるや否や、また、リバースしていた。


だめだ。この仕事向いてない…。



「そうですね。結構倒しましたね。」


「まぁ、これくらい襲えば、しばらくは、人相手に暴れたりはしないだろうな。」


まだ俺は、その会話についていけない。


「坊主より、嬢ちゃんの方が役にたったな。」


その時、森に大きな声が響いた。


「やべぇな、主を怒らせちまったか…。」


「主って何ですか。今の声は熊でしたが。」


「このあたりで一番大きな熊で、弓が効かないんだよ。毒矢なら別だが、あいにく持ってきてないしな、」


もう殺生は堪忍してくれ…。


「なぁ、殺さなくてもいいなら倒すけど…。」


骨砕きで手加減すれば、脳しんとうで、済むだろう。


「まだ見つかってねえから、心配すんな。それにできないこと言ってもカッコ良くないぞ。」


…できるよ……多分。


「んじゃ逃げるか。」といってグランは振り返った。

すると目の前に大きな熊がいた。


「んな!声は遠かったは(バシ!!)」


グランさんは、不意を突かれたのか顔面に一撃を食らった。


爪が当たらなかったのか、顔に引っかき傷はない、まだぴくぴくとしているため生きているだろう。


とりあえず、骨砕きを抜いてみる。


思った通り、グランさんに向かっていた目線が俺に変わる。


普通の熊に試してみても効果なかったんだけどな…。


半分魔物みたいなもんなのかな…。


ナシュが慌てていたが、軽くなだめる。

「大丈夫、殺しはしないから」


ちょっと的外れだった気がする…。


巨大な熊がこちらに向かってきた。


少しジャンプをして、骨砕きを熊の頭に軽くぶつけた。


熊が膝から崩れ落ちた。


熊の走ってきた勢いが残っていたので俺はタックルされたようになった。


熊って結構臭いんだ…。とりあえず熊をどかして、グランさんの元へ行き、無事を確かめる。


「…うーん。」


軽い脳しんとうかな?


グランさんを抱えると、最初に落ち合ったグランさんの家に向かった。


グランさんをベットに寝かすと、起きるまで勝手に、リビングを使わせて貰うことにした。


「どうしてそんなに強いんですか?」


ふとナシュが訪ねてきた。…ほんとになんでこんなに強いんだろうね?


「…わかんないや。」


正直に答えた。「家系かな?」とかも考えてみたが、突っ込まれるとややこしくなる。


「では、何の魔法が使えるんですか?」


ナシュは、身体強化の魔法を使っていると見ていたので、結構な魔法は使えると踏んでいた。

最初に武器を持っていないところをみると、実際は、自分の魔力で剣を生み出すタイプの魔法剣士系だと、思っていたが、帰ってきた言葉は、考えていない言葉だった。


「なんの魔法も使えないよ。習ったことなんてないし。」



…ありえない!

この人は魔法もなしで、剣より硬い体を持ち、男を投げ飛ばし、人を抱えたままで屋根まで、飛び上がったのだ。常識外れの怪力にもほどがある。


「だって、ものすごい魔力も持っているじゃないですか!?」


「やっぱそうなんだ。」


エレンが言った通り、母さん並みの魔力でもあるのかな…。相変わらず自覚ないんだよな。


ナシュが唖然としている。


「本当にいろんな意味で凄いんですね…。」


どんな鍛え方をしたら、そんなに強くなれるのか。

この人が魔法を覚えたら、勇者の力を使えても勝てるかどうかわからない。


ナシュは無理を承知で、あるお願いをした。


「お願いします。弟子入りさせてください。」


いきなりの土下座、おかげで優輝は、困惑している。


「えぇ!?何で?」


「私は強くなりたいんです。普通の強さだけでは、ダメなんです。

心も強くなくてはいけないんです。」


…いや俺、戦闘中、ほとんどゲロってた記憶しかないけどな。


「ナシュの方が心が強いと思うけど…。(獣狩りとかできるし)」


「いえ、普通の人は助けてくれないです。見捨てて逃げてしまう人だっているんですよ!」


「助けれたのはたまたまだし、助けてくれる人だっているって。」


「いえ、助けて頂けたのは事実ですし、あの怖い方々の前や、熊の主相手でも、

全く物怖じしないそのお姿は、まさに男の男!」


「…少しふざけてるだろう。」


「ばれましたか。…でも私は本気ですよ。」


彼女の目が本気の度合いをはっきりと物語っていた。


「……いや…でもな…。」


彼女の目がうるうるとしてきた。…これはずるいだろう。ここで断ったら、人じゃない気がする。


「…教えられることがなくてもいいなら。」


「ありがとうございます!師匠ー!」


土下座状態から、急に抱きついてきた。…胸が当たる。…いい感触…じゃなくて。


「離れろって、てか師匠は、やめてくれー!!」


離れようとするが、ナシュがしっかりとホールドして、抜け出せない。

無理矢理剥がすのは可哀想だが、理性が持たない。

これはこれで、刺激が強すぎる。


「…なにやってんだ坊主?」


ナイス、グランさん!

ナシュがグランさんの方を向いているときに何とか抜け出した。


「…あぁ!えーと、ですね、弟子入りしてました。」


「なんで、弟子入りして抱きあってるんだよ。」


…ごもっともです。


「それよりも大丈夫でしたか?」


脳しんとうなら問題ないけど、それ以外なら、後遺症を起こす可能性だってある。


「問題ないが…嬢ちゃんが主を倒したのか?」


まぁ、グランさんから見れば、終始、吐きっぱなしにしか写ってないですもんね、俺。

本当に自分が情けなくなってくる。


「いえ、師匠が倒しました。」


俺の方を指をさして言う。


…師匠を指差すか普通。っていうか、俺は師匠じゃない。


「本当かよ、坊主?」


「疑う気持ちは、かなりわかりますけど、確かに倒しましたよ。殺してないですけど…。」


「なんで殺してないんだ?」


「…さすがにまだ血に抵抗があるんで。」


グランさんに、おもいっきり笑われた。


…心が砕けそうだ。




俺、この仕事向いてない…。鬱だ死のう。





依頼が終わり、ナシュに手をひかれながらギルドへと向かった。


ナシュが手続きをしているが、俺はまだ立ち直っていなかった。


「では、依頼成功を確認しました。そして今回は依頼主さんのご厚意により、

お二人ともFランクに昇格です。」


「ありがとうございます。ほら師匠、いじけてないで、これがFランクのギルドカードですよ。」


「…うん…あぁ。なんでいきなりFランクなんだ?」


「師匠が主を倒したからですよ。グランさんが助けてくれたお礼に、ギルド長にお願いしてくれたんですよ。」


「へぇー。グランさんギルド長と知り合いなんだ。」


「もう師匠!しっかりしてください!師匠のおかげなんですよ!」


体をぶんぶんと振られる。ナシュってこんな性格だったっけ?


なんか落ち着いてきた。とりあえず、ナシュに離してもらい。


「んじゃ今日は、終わりかな?もう夕方だし。」


「そうですね。では帰りましょう。師匠の宿はどちらですか?」


「南の方だけど?」


「えっ!あそこ高くないですか?」


「よくわかんないけど、高いのか?」


ナシュが頷く。


「あそこって、この辺じゃ、かなり良い方の宿ですよ。わたしも泊まりたかったんですけど、

ギルドからもらえる報酬じゃ、どうあがいても無理だったんで、諦めたんですよ。」



ちなみに先ほど貰った報酬は、銀貨2枚だった。


ナシュと分けたので銀貨1枚。ちょっと少ないと思ったけど、

ナシュは、「この依頼でこんなにもらえるんですか?」と少し驚いていた。



……あれ、もしかして、俺が今、持っている金って、ものすごい大金じゃないのか?


「武器を買う時も、平然と金貨出しましたし、師匠ってお金持ちか、なんかですか?」


「……タブンソウカモネ。」


俺が、っていうか、エレンが…。


「なんで片言なんですか?もしかして、聞いちゃいけないことでしたか?」



「まぁね…。俺帰るわ。バイバイ。」


「あ、はい。さようなら、明日の朝、迎えに行きますねー。」


「こないでいいわ!」と突っ込んで、宿へと帰った。


###############################################




「とりあえず、作戦その一、弟子入りして距離を一気に詰めるは成功っと。

後、宿の場所も聞いたし、その二の、朝、やさしく起こすもできそう。」


ナシュリがポケットに入れていたメモ帳を取り出して、

びっしり書かれたページの一部分に○をつける。


「後でしっかりと、助けて頂いたお礼をいたしますね…。」


頭の中でとても人には見せられない妄想が出来上がっている。




変な感じでアリスの予想が当たり始めてきた、今日この頃だった。




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